プロレス金太(4)


金太VSザウラーズ?


登場人物

峰崎拳一。ヤンチャで快活な少年。金太をライバル視している面も。

白金太郎。硬派で強い、努力と根性の男。拳一とは悪友?

左からチョビ、洋二、ボン。クラスメートでザウラーズの仲間。

マーボー。お菓子が大好きな食いしん坊。


『負けたらチンポ揉まれ放題』
金太のような硬派な男にとって、これほど恐ろしい罰ゲームはないだろう。
他人に自分の体を触らせることなど、硬派な男には屈辱以外の何物でもない。
しかもそれが自分のおちんちんならば、なおさらだ。
(ま、まずいぞ・・・なんとかやめさせなくっちゃ・・)
顔面が蒼白になった金太は、恐る恐る周りへ視線を向ける。
すると、こともあろうに、ボンやチョビ、いや浩美や秀三までもが、なにやら目をぎらつかせている。
その鋭い視線に、居たたまれなくなる金太。
「みんな、冗談だよな・・こんなのもうやめようぜ・・」
金太は背中に汗をびっしょりと掻きながら、事態を収拾させようと焦っていた。


金太の視線の先に、先ほど助けた洋二が飛び込んだ。
「おい洋二! お前はこんなくだらないことは反対だよな?」
金太は必死に作り笑いをしながら、洋二の肩に手を置く。
そして、たった一人の味方である洋二に話しかける。
「洋二! お前からも言ってくれよ。こんなくだらないことはやめようってさ」
「・・・」
「ホント、拳一の考えることってくだらないよなー?」
「・・・」
「おい、洋二・・?」
すると、洋二はメガネをピカリと光らせながら、返事をする。
「これは拳一と金太の、男と男の約束ってヤツみたいだからね。僕もプロレスに参戦させてもらうから」
「へっ!?」
「もうゴング鳴っているみたいだから、油断するとヤラレるよ」
「なに言ってんだ・・」
「つまりだね、僕も金太に罰ゲームをさせたいということだ」
「ひぃ!」
大慌てで、洋二から離れる金太。



金太が手前に視線を戻すと、こともあろに、すでに拳一が襟元に飛び掛っているではないか。
「わぁっ、拳一! ちょ、ちょっと待て!」
「うるせー。もうゴングは鳴ってるんだよ!」
「し、しかし・・」
「ヘヘッ、金太、覚悟しろ! 今度は負けねーぞ!」
「やめろって!」
「ぜってぇ、罰ゲームさせてやる」
「バカヤロウ! 放せ!」
「おい、ボン、チョビ! 金太の左腕を押さえろ! 
  浩美と秀三は右腕だ! 洋二は金太を後ろから押さえ込んじまえ!!」
拳一の号令がかかった途端、全員が金太の周りに殺到する。
なぜか、それまでボケッとしていた浩美や秀三までが、手際よく動いている。
「お前ら! まさか本気じゃないよな!?」
「へへーんだ。本気に決まってるだろ。今度こそ観念しろよ、金太!」
ボンとチョビが、金太の太い左の二の腕をギュッと掴む。
浩美と秀三は、金太の右の二の腕だ。
さらに洋二が、背後から金太のお腹を抱きかかえるように抑える。
まるで、おしくらまんじゅうでもしているように、金太は囲まれてしまった。
さすがの金太も、集団で襲われてパニックになる。
「わっ、お前ら、やめろ!」
「さすがの金太も、6人相手には勝てないだろ!」
「こんなの卑怯だぞ」
「これでもう動けないよね〜。いまのうちにギブアップしちまえば?」
「す、するもんかっ」
「無駄な抵抗をすると、このままチンチン揉んじゃおうかな〜」
「バカなことはやめろ!」
拳一は目をギラつかせながら、金太の体をジッと見つめている。
「へへーん」
「拳一っ、まさかこれって・・」
「いまさら気付いても遅いぜ。今回の温泉旅行は、全員一致で金太の裸祭りに決定していたんだよ!」
金太は拳一の思いも寄らぬ言葉に、口から心臓が飛び出そうに驚いた。


──計画的・・?
考えてみれば、いきなりプロレスをやろうとか、拳一が洋二に突然ちょっかいを出すのがおかしい。
それに先ほど、拳一があっさりと負けたのも、ずいぶんと出来すぎているではないか。
どうやら、拳一の思惑通りにシナリオは進んでしまったらしい。
(どうしたらいいんだ・・? 俺のパワーで全員吹っ飛ばすか・・? でもケガさせちまったら・・)
おそらく、金太のパワーならば、取り囲んでいる全員をパワーでねじ伏せることができるだろう。
しかし、もし勢いがあまれば、誰かが本当にケガをしてしまうかもしれない。
(ちくしょう・・でもチンチンを揉まれるのは、絶対にやめさせなくっちゃ!)
このまま拳一の思惑通りになってしまったら・・と考えると、全身が身震いする。
なにしろ、負ければ最悪の『チンポ揉まれ放題』なのだから。
金太はフッと大きく呼吸をする。
そして顔を真っ赤にしながら、全身にグッと力を込める。
「みんなゴメン!」
大声をだし、自慢の怪力で全身を拘束するザウラーズメンバーを大きく振り払った。


ドタンッ、バタンッ!
下の部屋まで響くような、鈍い音。
<おわっ!>
<いててぇぇ>
<金太、めちゃ強ぇぇ!>
そんな声があちこちから聞こえただろうか。
金太の周りには、ボンやチョビ、浩美たちが、人形のように吹っ飛ばされ、布団の上に投げ出されていた。
拳一も同時に吹っ飛ばされて、正面で大の字になって倒れている。
(やば・・。ちょっとやりすぎたかな・・)
金太は周りを見渡しながら、内心思った。
正面にうつ伏せで倒れている拳一に、そっと声をかける。
「拳一、スマン・・大丈夫か・・?」
「・・・・」
「おい・・拳一?」
拳一からは、なにも返事がない。
もしかして、打ち所が少し悪かったのかなと思い、金太は不安に襲われる。


拳一に一歩足を進めた、その瞬間だった。
金太は、自分の足が宙に浮いたのを感じた。
「へっ!?」
「モグモグ。つーかまえた」
「マ、マーボー!?」
「もう放さないよ」
気付いたときはもう遅かった。
こともあろうに、マーボーが背後から、しっかりと金太のお腹を抱えて、持ち上げていたのだ。
宙に浮いてしまう金太の足。
マーボーは意外と怪力があるらしい。
「わわっ!」
「拳一がお菓子を全部くれるっていったからね。金太には悪いけどノックアウトさせてもらうよ」
マーボーは金太を軽く持ち上げたかと思うと、不恰好なブリッジの体制に入る。
そのまま空中で緩やかな放物線を描くように斜め後ろへ、金太を後頭部から布団へと叩き落したのだ。
「ほげっ」
不意を突かれた金太は、マーボーの予想外のジャーマンスープレックスを喰らってしまった。


「っつ・・」
かなり不恰好なマーボーのブリッジ体型。
それが逆に変形のジャーマンとなり、金太は斜めからの角度で、後頭部を布団に叩きつけられた形となった。
「あれー、練習したときよりも、うまくいかないなぁ・・。金太の体が重いからかな?」
どうやら、マーボーは対金太用秘密兵器として、このジャーマンスープレックスを練習していたらしい。
おそらく拳一の差し金だろう。
「ねぇ、金太? もうノックアウトした?」
「うぐぐっ・・」
「なーんだ、まだ全然元気じゃないか。もう一発喰らわしておかなくちゃ」
マーボーはボソッと独り言をいうと、ゆっくりとブリッジの体制を解いた。
金太はコの字型の体制がくずれて、布団にグッタリと大の字になる。
マーボーは、金太の髪の毛を掴んで、上に引っ張り上げる。
「金太、どうしたの? 早く立ち上がってよ」
「ううっ」
「プロレスなんだから、早くしてよ」
マーボーは、フラフラと足元がおぼつかない金太を、ムリヤリ立たせる。
「金太、悪いけどもう一発喰らってね」
「あわわ、やめろっ・・・」
「お菓子のためだから。今度は脳天から突き落とさないとね」


マーボーは、再び金太を背後からしっかりとお腹を抱えて、軽く持ち上げる。
そして、今度は低い放物線を描くように、加速度を倍にして、真後ろへブリッジして放り投げた。
いわゆる、力任せの投げっぱなしジャーマンってヤツだ。
お菓子に目がくらんだマーボーは何をするのか分からない。
「がへっ!」
床が抜けるような音がする。
再び、後頭部から布団にめり込んだ金太。
頭を布団に打ちつけ、両足は宙でM字開脚の状態だ。
コの字型で、ヒクヒクと全身を痙攣させている。
2発目の投げっぱなしジャーマンは、かなり強烈だったらしい。


「はららら・・」
打ち所が悪かったのだろうか?
金太はしばらく痙攣したかと思うと、ズルズルと大の字になって倒れた。
「ねぇ金太、ノックアウトした?」
「大きなお星様が・・・ついたり消えたり・・はにゃ・・」
金太は目の焦点が合っていない。
口からダラッとヨダレが垂れている。
「まだ喋ってるなぁ。もう一発やったほうがいいかな?」
「ここはどこ・・私はだれ・・」
「しょうがないなぁ。もう一発やるから、早く立ち上がってよ。プロレスにならないじゃないか」
マーボーは、金太を立たせようと髪の毛を引っ張るが、起き上がる様子は全くない。
さすがの金太も、完全にグロッキーの状態だ。


金太の視界は、ただグニャッと捻じ曲がった天井が見えるだけだった。
あっという間の出来事だった。
仰向けで失神する金太に、拳一がムクッと起き上がる。
「へへーん。作戦大成功だぜ! 金太参ったか!」
拳一は得意満面の笑みを浮かべる。
そして、金太を服をつかんで、起こそうとする。
「おい、金太! 早く起き上がれよ!」
「はらら・・」
「ホラ、まだ勝負ついてねーぞ!」
「お星さまが・・・」
「金太?」
拳一の声に反応もせず、金太は全く起き上がらない。
なにやら意識が飛んでしまったらしい。
「おい、マーボー。ちょっとやりすぎじゃねーのか?」
「だって、金太を確実にしとめないと、お菓子くれないんでしょ?」
「そりゃそうだけど・・」
マーボーのえげつない攻撃に、拳一は少しためらいがあったが、いまは勝つことが先決だ。


拳一はさかずにフォールにかかる。
金太の上半身に覆いかぶさる様に、拳一は自分の体重を乗せた。
「おい、レフェリー、カウントしろ!」
一体、どこにレフェリーがいるのかと、その場の全員がツッコミを入れたが、
 すかさず、ボンがしゃがみこみながら、カウントを開始する。
「ワン・ツー!」
布団を手のひらで叩き、カウントアップするボン。
「スリー! 俺たちの勝利だ!!」
その瞬間、<おおっ>とか<わぁっ>という歓声が、一気に上がる。
しかし、一番の歓声の雄たけびをあげたのは、当の拳一だった。
「よっしゃー!!! ついに金太をぶっ倒したぜ!」
拳一は腕まくりをし、力こぶを見せつけながらガッツポーズ。
そして、目がウツロな金太を見て、ニンマリと笑った。
「金太くぅ〜ん、ついに罰ゲーム決定だからねー。
  昨年、俺が味わった屈辱を、今度は金太に味わってもらうぜ!」
「はにゃ・・」
もはやこれは、プロレスごっことはいえぬ、拳一の1年がかりの壮絶な雪辱プロジェクトとなっていたのだ。


次回に続きます。

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