アニメ「ちはやふる」の肉まん君こと、西田優征で小説書いてみました。内容的にはアニメの第13話の改変です。
登場人物
肉まん君。本名は西田優征で食べることが大好きなかるた部員。
瑞沢高校メンバー。真ん中がキャプテンの綾瀬千早。右は部長の真島太一。
滋賀県、近江(おうみ)神社。
毎年、名人戦クイーン戦のほか、多数の百人一首大会が催される、かるたの聖地である。
・・・。
「ここが近江神宮か・・」
瑞沢高校競技かるた部は、東京の予選を勝ち抜き、全国大会に出場することになった。
まずは会場視察を兼ねて、近江神宮で参拝しにきたのだ。
「やだー・・太一・・テンションあがってきちゃった」
「千早、しっかりしろよ」
「そうだよ、綾瀬はうちのエースなんだから」
「机くん、プレッシャーかけないでよ。そういえば肉まん君は近江の大会に来たことあるんだよね?」
「んー、まぁね」
「なんで、肉まん食べながら神社に来てるのよ!」
「だって腹減ったし」
<あなたたち、いい加減にしなさい!>
まるで小学生の遠足のようにはしゃぐ千早たちに、顧問の宮内先生が一喝する。
「参拝しましょう。必死要祈願です」
──大会の会場。
すでに会場は出場選手でごった返していた。
「暑いよ〜、かなちゃん!」
「黙ってください」
「袴(はかま)はやめようよ〜」
「うちの母がわざわざ車で持ってきてくれたんですよ。初の全国大会、正装で挑みましょう」
「うーん・・」
肉まん君が話しているのは、同じ部員の大江さん。
通称、かなちゃんだ。
かなちゃんは、呉服屋の娘で和服をこよなく愛している。
だから、試合で全員が袴を着用することを条件にかるた部へ入部したのだ。
何も知らないで入った部員には、いい迷惑なのだが。
暑苦しい袴に、肉まん君も必死に抵抗する。
「俺、名人目指しているわけじゃないし、袴じゃなくていいよ」
「でも、よく似合ってますよ。まるで巡業みたいです」
たしかに肉まん君の体型ならば、袴を履くと関取に見えなくもないのだが・・。
褒められているのか、からかわれているのやら。
「巡業って・・かなちゃん、マジで似合うと思ってる?」
「ええ、似合います。肉まん君、素敵です」
「そ、そうかな?」
かなちゃんは、かるた部の中でもロリ顔で胸が大きくて、可愛い。
肉まん君が、異性として意識している子の一人だ。
(かなちゃんがそういうなら、袴でもいいかな・・)
会場はとても暑かったが、自分の袴姿を褒められて悪い気はしない。
肉まん君はポッと顔を赤らめて、そのまま出場することにした。
東京の代表となった瑞沢高校。
開会式が始まり、整列をする。
千早がキョロキョロと周りをみると、どの子もかるたが好きで、強そうな感じがする。
その後、ブロックごとの対戦が決まる。
・・・。
千早と肉まん君はトーナメント表を見ながら話していた。
「肉まん君、どの対戦チームが強い?」
「えーと、ヒョロ君の資料によると一番マークすべきは静岡の富士崎高校かな」
「富士崎は同じブロックにはいないみたい」
「えーと、緒戦の相手は・・」
「相手は佐賀の武知(たけち)高校だって。そこは強いの?」
「えーと、B級が二人いるほかは段位なし。強豪ってわけじゃないけど・・」
「よかったぁ。ところで気になるんだけど・・?」
「なに?」
「さっきから肉まん君、汗がすごくない?」
「そ、そんなことねーよ・・」
──なんか暑い・・。
肉まん君は、自分の体調の変化に焦っていた。
大会の部屋はクーラーがきいているはずなのに、汗が止まらない。
もっとも自分が汗をたくさんかくのは、分かっている。
だから、タオルは3枚常備している。
しかし、そのタオルも今日はすでにびっしょりに濡れていた。
このようなことは、いままでになかった。
(なんか今日の・・俺、変だ。やばい・・かも・・)
試合が始まった。
<なにわづに──さくやこのはなふゆごもり──>
序歌が詠まれる。
瑞沢高校と武知高校の選手は、それぞれ対面に座っていた。
みんな、すでに暗記を終えて、読み手の声に集中している。
序歌が詠まれた後、最初の一枚を取りに行くためだ。
読手が最初の一枚を手に取り、口を開く。
<あけぬれば──>
会場内にいる全員の選手の腕が、下の句が書かれた札に一斉に伸びる。
札を的確に弾く者、おてつきする者、自陣を囲む者、それぞれに明暗が分かれる。
そして、次の札を取る準備。
<たきのおとは──>
読み手が詠み始めた瞬間に、バタバタっと畳を弾く音が連鎖する。
数枚詠まれたところで、瑞沢高校の主将である真島が、チームの様子を伺う。
「千早は札をキープしている・・大江さんは、まだ一枚も取れていないか。
駒野は今の札をミスしたな・・緒戦の硬さか、浮き足立っているな・・」
初心者の2人、特にかなちゃんと机くんの様子は、真島が一番気になるところだった。
それに比べて、千早と西田(肉まん君)はA級、B級でかるた歴も長い。
特に西田は、千早よりもムラがなく安定感があり、真島が一番頼れる仲間なのだ。
「西田は問題ないだろう・・・ん?」
真島が一番端にいる肉まん君に目を向けると、いつもと様子が違っていた。
「はぁ・・はぁ・・」
耳を澄ますと、彼の息遣いが聞こえる。
(西田、どうしたんだ。お前は緊張するようなタマじゃないだろ)
真島が知っている西田は、いつもどっしりとしていて、流れに沿って札を取る。
しかし、今日は何度も手ぬぐいで汗を拭き、息を荒げ、少し顔色が悪い感じがした。
「おい西田、一枚ずつ取っていくぞ」
「あ、ああ・・」
「どうした、声が小さいぞ!」
「・・・」
<あまのはら──>
次の札が詠まれる。
真島は集中力が削げたのか、札を相手に取られてしまった。
「クソッ・・みんなは・・?
千早はキープ、大江さんと駒野は惜しい・・。西田は・・西田が取れてない?
西田の相手は、段位なしの弱い相手のはずだ。今の札は絶対に取れるはず・・」
真島が異変に気がついたときは、すでに遅かったのだ。
次回をお楽しみに。