試合中に体調が悪くなった肉まん君だが・・?
登場人物
肉まん君。本名は西田優征で食べることが大好きなかるた部員。
瑞沢高校メンバー。真ん中がキャプテンの綾瀬千早。右は部長の真島太一。
北央学園の持田先生(左)と須藤。持田先生はかるた部の顧問(デブ専)。
肉まん君の動きは、いつもとは明らかに違っていた。
袴を着た直後から、滝のような流れる汗。
原因は分からないが、彼自身が、いつもと違う種類の汗をかいているのに気付いていた。
しかし、5人で出場した大会で、自分だけ体調が悪いとは言いにくい。
だから、試合前も黙っていた。
それに、試合が始まれば札に集中するし、
体調が悪くてもなんとかなるのではないかと、肉まん君は楽観的に考えていた。
<たごのうらに──>
肉まん君は<た>の音に反応する。
(『ふじの・・』はたしか相手の右端に・・)
肉まん君の頭の中では、反射的に札の位置が分かっていた。
しかし、いつもなら手が届くはずの札の位置に、腕が伸びない。
あっさりと相手に札を取られた。
(はぁはぁ・・目の前がだんだん暗くなっていくような・・苦しい・・)
さらに肉まん君の息遣いは荒くなる。
(畳に手を置くのが精一杯で、札まで動けない・・。
暑い・・予選のときは袴でも大丈夫だったのに、いまはこの袴がとても重い・・)
だんだん手ぬぐいで顔をふくのでさえ、苦痛になってきた。
(どうしたんだ俺・・・しっかりしなくちゃ・・)
冷静になろうと、必死で額の汗をぬぐう。
その汗は普通にかく汗ではない、冷や汗に近かった。
<ありあけの──>
パシッ!
またもや、格下の相手に自陣を抜かれる。
(いまの札・・取れたのに・・)
真島は肉まん君の様子がおかしいことに気がつき、声を掛ける。
「西田、一枚ずつだ。しっかりしろ」
「・・・」
「西田!」
真島は懸命に声をかけるが、彼には届かない。
次の札が詠まれる。
<ちはやふる──>
この札は瑞沢高校全員が得意とする札。
「よし、取ったー!」
「私も取れました!」
「駒野、大江さん、ナイス!」
もちろん千早もキープしている。
「西田は・・取れていない!?」
肉まん君の顔面は、蒼白になっていた。
そして彼自身、意識がどんどん遠のくのを感じた。
(気持ちが悪い・・なんか酔ってるような・・ダメだ・・)
肉まん君の目の前は真っ暗になり、そのまま後方に倒れこんだ。
「西田!」
真島がすぐに、肉まん君の場所に駆けつける。
千早や駒野たちは何が起こったのか分からずに、ただボーゼンと真島の行動を眺めているだけだった。
「待ってください! 西田、棄権します」
ざわざわとする会場内。
真島はぐったりと倒れた肉まん君に肩を貸し、ゆっくりと立ち上がろうとする。
しかし真島の華奢な体では、彼の体重を支えられことはできなかった。
「真島くん、私が・・」
顧問の宮内先生も、凍りついた表情ですぐに駆け寄ったが、二人でも肉まん君を運ぶのには難儀した。
「私に任せてください!」
そこに現れたのは、北央学園かるた部の顧問である持田先生だった。
個人戦に出場する須藤の付き添いで、彼も近江神宮に来ていたのである。
「えーと、たしかあなたは北央の・・」
「持田です。北央の須藤の付き添いでこちらに来ているんです。
真島君、失礼ながら西田君の体は重いでしょう?
こう見えても私は力がありますから、彼を休憩室に運びますよ」
「し、しかし・・」
焦る真島に対し、持田先生は落ち着いた表情を見せていた。
真島は、どうしたら良いか分からず、宮内先生に目配せをした。
宮内先生は持田先生に尋ねる。
「持田先生、よろしいのですか?」
「はい、今日は須藤の試合はありませんし、私で力になれるのなら・・同じ東京の代表ですし」
「わかりました。私と真島君では西田君を運ぶのはムリのようです。
すみませんが、持田先生、西田君をお願いできますか?」
すると持田先生はニコリと微笑みを浮かべて、返事をした。
「任せてください。見たところ西田君は軽い貧血みたいですね。
北央でもよくあるんですよ、緊張しすぎて貧血になる子って。
私はこういうときの対処も、慣れっこですから、全部任せてもらえませんか?」
持田先生の提案に、宮内先生は安堵したように話した。
「頼もしい限りです。ありかとうございます。
真島君、この場は持田先生にお任せしましょう。
真島君や綾瀬さんは、かるたのことだけを考えてください。試合に集中するんです。
持田先生、すみませんが私は顧問として、綾瀬さんたちの面倒を見なくてはいけません。
西田君の体調が戻るまで、彼を観ていただけませんか?」
「分かりました、任せてください!」
そういうと、持田先生は肉まん君を両手で「よいしょ」と持ち上げて、抱っこする。
(予想以上に重いな・・でもこの子、カワイイ・・)
持田先生は心の微笑みを殺して、その場をあとにする。
「では私と西田君は休憩室に行ってますので、ご心配なく・・」
「頼みましたよ」
他の試合の邪魔にならないよう、持田先生は肉まん君を抱えたまま、会場を後にした。
(持田先生、始まったな・・)
まさか、持田先生が究極の若い子専門のデブ専だとは、このとき誰も知る由はなかった・・!
部員のドSである須藤を除いては。
次回をお楽しみに。