肉まん君小説(3)


肉まん君を介護する持田先生の行動は・・?


登場人物

肉まん君。本名は西田優征で食べることが大好きなかるた部員。

持田先生。本名は持田太でかるた部の顧問(デブ専)。


(よっこいしょ)
持田先生は、肉まん君を両手で抱いて、休憩室に入った。
彼を軽々持ち上げるあたり、腕っ節はなかなかの強さらしい。
休憩室は和室になっており、四畳半くらいの狭い部屋だった。
(ラッキー、ちょうどいい広さの部屋だし!)
持田先生は、肉まん君を畳にそっと寝かせると、部屋の隅にあった座布団を3枚ほどまっすぐ縦に並べる。
そして枕を置いて、簡易ベッドを作った。
もう一度、肉まん君を持ち上げて、丁寧に座布団の上に仰向けに寝かした。
(まずは西田君の手当てをしないと・・あ、その前に・・)


持田先生は、そそくさと休憩室のドアに近づく。
ドアのノブにあるカギをしっかりと閉めた。
(これでよしと。誰も入ってこれない状況・・久しぶりのドキドキ感・・・)
持田先生はクッと微笑みを押し殺して、肉まん君の横にゆっくりと座った。
「西田君の具合を良くしないと・・」


肉まん君は、風邪を引いて熱があるわけではない。
ただ、大会の緊張のあまり貧血になっただけだ。
長年、北央の顧問をしている持田先生にとっては、よくあることだった。
肉まん君の場合、試合中に後ろに倒れたので、後頭部を強く打ったかもしれない。
しかし、幸いなことに床が畳のため、それほどの衝撃はないと考えた。
(貧血気味の子は、自分からしゃがむ子が多いんだけど、
  西田君は経験がなかったんだろうな・・。貧血とは縁遠い立派な体をしてますし)
持田先生はそんなことを考えながら、貧血の対策をせっせと始めた。
(貧血の場合、まず頭の血流を良くしないと)
持田先生は肉まん君の足の下に、さらに座布団を2枚ほど当てて高くする。
足を頭よりも高くすることで、脳にまで血が巡るようになるのだ。


「ちょっと袴のヒモを緩めるかな?」
肉まん君の袴姿。
深い青色をした上着と、灰色の袴がよく似合っている。
太った体には、落ち着いた青色が似合うなと、持田先生は率直に思った。
腰に巻かれているヒモを少し緩め、肉まん君の呼吸を楽にしてあげる。
「スーッ・・・ハー・・・」
心持ち、肉まん君の呼吸が楽になった感じがする。
さらに胸元を少し開かせて、空気を通すようにしてあげる。
チラッとみえる胸元の白い肌が、透き通るようだ。
それを見て持田先生のテンションがあがったのは事実だった。
(この子、すごい肌が綺麗だ・・かわいい・・食べたい・・)


しばらくすると、肉まん君はひどい緊張から解放されたためか、顔色も次第によくなっていった。
普通ならば、このまま数時間寝てしまったかもしれない。
しかし、全国大会のことが夢の中で脳裏をよぎったのか、10分ほどして目を覚ました。
「あれ・・俺は・・?」
目を開くとそこは和室の天井、そして頭にある枕、足に積まれた座布団。
いつもとは違う状況に戸惑った。
「ここはどこなんだ・・」
数秒、考えただろうか。
近江神宮・・全国大会・・一回戦の試合・・。
「試合は!?」
飛び起きようとする肉まん君を制するように、優しい声が響いた。


「西田君、そのまま寝ていないといけませんよ」
肉まん君が、ふと横を向くとそこには見覚えのある太った人。
「えーと・・あなたはたしか・・」
「北央の持田です。西田君、気分はどう?」
「俺、たしか武知高校と試合している途中で・・」
「そこまでは記憶があるんですね。ひどく緊張していたでしょ?
  西田君は試合中に倒れて、私が真島君の代わりに運んだんです。軽い貧血だからゆっくり休めばすぐに治ります」
「俺が貧血・・試合はどうなったんです?」
「まだ終わっていません」
「じゃ、俺、これから試合に出ます!」
「ムリですよ、しばらく寝ていないと」
焦りの表情を隠せない肉まん君に、持田先生はやんわりと言葉を返した。


「いまの君の状態で、かるたの試合ができますか?」
「それは・・」
「ゆっくりと休んだほうがいいです。
  西田君がムリしても、他のメンバーたちは気になって集中できないでしょう?」
「でも・・」
納得できない肉まん君に、持田先生は真面目な声で説得した。
「私は北央で何年も顧問をしていますけど、
  西田君のように、極度の緊張で倒れる教え子はけっこういるんです。
  体調を崩しても、それは恥ずかしいことじゃないですよ。
  たしかに瑞沢高校は4人で3勝するのは難しいけど、最善を尽くせば、それでいいんです」
「・・・」
持田先生の言葉には納得はしたが、肉まん君は内心、かなりショックだった。
自分は小学生のときに近江神宮で、綿谷新と戦っている。
つまり、瑞沢高校のメンバーの中では一番キャリアも長いし、経験もある。
自負していたのだ。
瑞沢高校の中では、自分が一番落ち着いていて、緊張もせずにかるたができると。
だから余計に悔しかった。


肉まん君は持田先生の言葉に、枕をギュッと握って黙っていた。
その目は悔しさで、涙に濡れていた。
しばらく涙を堪えて、落ち着きを取り戻した後、
  肉まん君は、ようやく声をしぼりすように、持田先生に気持ちを伝え始めた。
「先生、俺・・悔しくて。せっかくみんなで全国大会に出場したのに、何もできなくて・・」
「気持ちは分かります」
「それに北央の人たちや、持田先生にも申し訳ないです。
  だって、俺たちは予選で北央に勝って、東京代表で来ているのに、試合で倒れて恥ずかしいし・・」
「西田君は責任感が強いんですね」
「もうだいぶ良くなったし、2回戦か3回戦からでも、出場できませんか?」
「私の経験から言って、今日は休んだほうがいいと思いますよ」
「でも・・」
「明日は個人戦もあるんでしょう? 個人戦に備えるのも大切です」
たしかに、持田先生の言うことには一理ある。
しかし、肉まん君にとっては個人戦よりも、団体戦でみんなと戦うほうが大切だったのだ。


次回をお楽しみに。

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