いきなり袴を脱がされてしまった肉まん君は・・?
登場人物
肉まん君。本名は西田優征で食べることが大好きなかるた部員。
持田先生。本名は持田太でかるた部の顧問(デブ専)。
(なんていい眺めなんでしょう・・)
持田先生の目は血走っていた。
眼下の肉まん君は、胸から下は着物がベロンとめくれ、下半身はブリーフ一枚の姿。
久しぶりに若いデブの裸姿を目の前にして、持田先生のデブ専魂に火がついたのだろうか。
肉まん君をジロジロと舐めまわすように、観察した。
肌はほとんど毛は生えていなくて、体はプニプニとしていて丸っこい。
柔らかそうだ。
あまり日に焼けていないのだろうか、肌は透き通るように白かった。
胸からお腹にかけて、脂肪が綺麗な曲線を描いているが、それでいて引き締まった感じがする。
いわゆる、"ボテッ"とした、だらしない太り方ではない。
若い子は太っていても弾力があるなと、持田先生は思った。
一方、真上から見つめられる肉まん君は、さすがに「ううっ」と目をそらした。
お腹に馬乗りされること自体が相当に恥ずかしい。
しかも、自分がほとんど裸の格好だからなおさらだ。
持田先生の視線は明らかに、自分の豊満な胸やお腹に集中しているように見える。
その視線が突き刺さるたびに、恥ずかしくて火を吹いてしまいそうだ。
しかし、この状況を打開する策もになく、唇を噛みしめるしかない。
自然と股間の膨らみを隠すようにモジモジとして、それとなく恥ずかしいことをアピールしてみる。
(肉まん君、いじらしい仕草をするなぁ・・)
持田先生は「くくっ」と思わず笑いをこぼしながら、上から肉まん君に向かって話しかけた。
「西田君、どうしたんですか?」
「いやその・・」
「そんなに恥ずかしがらなくても」
「だって・・!」
優しく微笑む持田先生に、肉まん君は僅かに震えながら尋ねた。
「持田先生、俺の胸を見て笑ったじゃないですか?」
「笑っていませんよ」
「俺、デブだから胸が大きいし、モテないし、なんか裸を見られるのが恥ずかしいし・・その・・」
「えっ?」
持田先生には予想外の発言だった。
いつもあっけらかんとして、おおらかな性格のように見える肉まん君。
彼のほうから、自分の体のコンプレックスを語ってくるとは。
(太っていることを気にして恥ずかしがっていたのか・・カワイイ・・)
肉まん君も思春期の年頃だ。
自分の容姿に敏感になるのは当然だろう。
そういえば、自分も若いときは太っていたことを気にしていたっけ・・と
持田先生は頭の中で考えると、親近感が沸き、さらに微笑ましくも感じるのだった。
持田先生はやんわりと返す。
「西田君は立派で、いい体をしていると思いますよ」
「・・・。でもそれって、デブってことでしょ?」
たしかに"デブ"といえば"デブ"なのだが・・。
彼を傷つけないような言葉を、考えてみる。
「いえいえ。かるたには体力が必要です。西田君のように体力があることは素晴らしいことです」
「そ、そうかな?」
「私は西田君と同じくらい太ってますが、全然気にしてませんよ。
それに西田君が考えるほど、太っていることを周りは気にしてません」
「ほ、本当!?」
「もちろん。それにかるたが上手になれば、太っていてもモテますよ」
「それはさすがにウソじゃ・・?」
「性格の問題ですよ。ボク、こう見えてもマメな性格で、太っているけどそこそこモテるんですよ」
「・・・」
持田先生は女性にはあまりモテないが、その系の人たちにはモテる。
肉まん君を説得するためには、ウソも方便で・・とりあえず持ち出してみた。
持田先生の熱心な言葉が、肉まん君の心に響いたのだろうか。
肉まん君は少し明るい声で返事をした。
「いまの話、本当ですか?」
「はい」
「じゃあ、俺はもう気にしません!」
「本当?」
「持田先生、変なこと言ってすみません。俺の胸の汗を拭いてください」
肉まん君は、"自分がデブである"というコンプレックスから、精神的に解放されたのだろうか。
今度は自分から着物を左右に開いて、持田先生に胸を堂々と突き出したのだ。
「持田先生、どうしたんですか? 早く胸をふいて下さい」
──よく分からないけど、納得したみたい。
若い子は単純でカワイイなと思いながらも、
思いも寄らぬ展開に、鼻血で出そうになる持田先生。
ダメで元々とばかりに肉まん君を説得してみたら、予想以上に彼の共感を得ることができた。
持田先生の人柄によるところも大きいのだろうが、コロッと信じてしまう単純な性格。
(ホント、肉まん君って素直でいい子だなぁ・・)
持田先生は、もうちょっと肉まん君と会話を楽しみたくなった。
にこやかな表情で尋ねてみる。
「甘糟君から聞きましたが、西田君って『豚まん君』って呼ばれているそうですね」
「『豚まん』じゃなくて『肉まん』ですっ!」
「あ、ごめんなさい・・」
先ほどから頭に「ブタ」という言葉がこびりついているため、間違えてしまった。
彼を傷つけてしまったのではと気になったが、肉まん君はそれほど怒っていないようだ。
「すみません。私も『肉まん君』って呼んでいいですか?」
「えー、俺、そのあだ名は好きじゃないんです」
「でも、可愛らしいじゃないですか。親しみがあると思いますよ」
「そ、そうですか? じゃ、持田先生は特別にOK・・かな」
「肉まん君は、ボクみたいなタイプは好きですか?」
「え、好きっていうか、持田先生みたいな人が顧問だったらいいなと思います」
深い意味はないのだろうが、持田先生は肉まん君の答えにキュンと心臓が高鳴った。
「肉まん君、ありがとう。うれしいです。じゃ、胸をふくらかね」
肉まん君は、完全に持田先生の人柄を信じているようだ。
持田先生は得意満面の笑みで、タオルを手に取った。
次回をお楽しみに。