ドスコイと力比べをすることになった仁王だが・・?
登場人物
仁王(におう)。日本一の力持ちで、中国のドッコイと力比べをする。
ドスコイ。中国の唐(から)の国の力持ちで、身長は仁王の倍。
仁王はドスコイの後ろを歩いていた。
大きな背中、立派な体躯、いままでこんなに強そうなヤツは見たことが無い。
一度も負けたことがない仁王は、生まれて初めての恐怖に顔を引き攣らせていた。
裏庭につくと、ドスコイが振り向き、話しかけてきた。
「わしは日本の仁王とずっと力比べをしたいと思っていたのだ。その夢がかなってうれしいぞ」
「そ、そうですか・・」
「わしは日本の仁王という男は、もっと大きいヤツかと思っていたが、案外と小さいな」
「はぁ・・」
「それにかわいい顔をしておる。何歳だ?」
「12歳です」
「12歳だと? まだガキではないか。精通はしているのか?」
「せい・・つう?」
「なんだ、精通も知らんのか。カワイイヤツめ」
不敵な笑みを浮かべるドスコイに対し、表情が青くなる仁王。
しかも"セイツウ"という、知らない言葉を尋ねられて、ますます動揺した。
ドスコイは、くけけっと笑いをこぼすと尋ねてきた。
「日本では力比べはどのようにするのだ?」
仁王は小さい声で返答した。
「えーと、相撲っていうのをやります」
「相撲? 聞いたことがある。たしか丸い円の中で組み合って、相手を倒したら勝ちだな?」
「そうです」
「ちなみに唐の国では、勝負の方法が違う」
「へっ?」
「相手を逝かせて、精根尽き果てたら負けだ。"参った"と言っても負けだがな」
「逝かせる・・?」
「セイツウの意味を知らないお前を、"逝かせる"ことが出来るのかはわからんが、どちらで勝負したい?」
ドスコイの質問に、仁王は無い知恵を絞って考える。
(セイツウとかイカせるとか・・どういう意味だ・・?)
悩んでもさっぱり分からない。
「さぁ、どちらで勝負するか決めろ」
日本の相撲と唐の国の勝負の方法・・。
唐の国の勝負では、"参った"と言えばすぐに負けになるようだ。
だから唐の国の勝負にしようと思ったが、肝心の"逝かせる"という言葉の意味が分からない。
ここはやはり、日本の相撲で勝負をするしかない。
しかし、相撲ではどう見ても分が悪そうだ。
日本の勝負の方法は"ジャンケン"にでもすればよかったと後悔したが、いまさら変えることもできない。
相撲してすぐに負ければ、痛い目に遭わずに帰れそうだ。
そう考えると、なんとなく希望が出てきた。
「それじゃ、相撲で勝負をつけましょう」
「そうか。では相撲だ」
ドスコイは裏庭に、つま先で半径3メートルほどの円を描く。
どうやらこれが土俵の代わりらしい。
「さて、始めようか」
円の中心で、仁王とドスコイは向かい合った。
(ここまで来たらヤケクソだ。やるしかねぇ・・)
ドスコイは直立したまま動かない。
おそらく、相撲のルールを知らないのだろう。
(コイツ、相撲のことを良く知らないみたいだ・・ひょっとしたら勝てるかも)
相撲で負けたことが無い仁王は、少し強気になった。
勢いをつけようと、土俵の中央からやや離れて腰を落とす。
そしてドスコイを睨みつけて、低い姿勢で正面から突進した。
いわゆる相撲の立ち会いというヤツだ。
「とりゃあ!!」
頭を低くして、地面を蹴るように突っ込む。
ドスコイは相変わらず棒立ちだった。
仁王の突進を止められる者は、日本にはいない。
バチンと火の出るような音がして、仁王はドスコイの腹にぶつかった。
ゴツンと鈍い音がした。
「あ、あれ・・?」
仁王の突進は、まともにドスコイの腹にぶつかったはずだったが、
ドスコイは微動だにしなかった。普通の人間ならば軽く吹っ飛ぶ勢いなのだが。
「なんだ、これでおしまいか?」
「そ、そんなバカな・・!」
拍子抜けしたようなドスコイの声。
「くそっ、とりゃ!」
ドスコイの腹に頬っぺたをつけたまま、必死に押し倒そうとする。
いくら組み合って押してみても、ドスコイは動かない。
(やはり、このドスコイという男は化け物だ。まともに戦った俺がバカだった・・)
もはや戦意を喪失した仁王に、勝ち目はなかった。
「お、俺の負けだ・・もう日本に帰る・・」
仁王は組み合ったまま、少しだけ悔しそうな表情をする。
初めから勝てるとは思っていなかったが、本当に負けると、それはそれで悔しかったのだ。
仁王は沈んだ顔をして、ドスコイから離れようとした。
しかし、ドスコイは仁王の腰に両腕を回して、物凄い力で抱きしめた。
「痛てててっ、放してくれ」
「嫌じゃ」
さば折で背骨が折れるかと思うほど、ドスコイは仁王をギュッと抱きしめる。
「あ〜っ、いででで!」
「フフフッ、いい体をしとる」
「俺の負けだから、放してくれ!」
ドスコイは耳元で囁いた。
「まだ勝負は終わっていないぞ」
「どういう意味ですか?」
「日本の勝負ではわしが勝った。しかし唐の国の勝負が終わっておらん」
「唐の国の勝負は関係ないんじゃ?」
「お前を逝かせないことには、俺は勝った気になれん。それにお前の体に興味がある」
「・・?」
ドスコイはあざけり笑うと、突然なにかを唱え始めた。
「眠永遠呪縛淫乱隠滅・・」
意味不明の言葉だったが、ドスコイがカァと目を開くと地面からなにやら紫色の煙が湧き上がった。
仁王がその煙を吸うと、なぜか全身の力が抜けて、ドクンドクンと心臓の音が大きくなった。
「な、なんだ・・?」
なんとなく体が熱くなった気がする。
ドスコイは、仁王の火照った体を抱きながら、ニッと笑いを浮かべたのだった。
「さて、これからが本番だ」
次回に続きます。