将×野呂。真面目にサッカーを楽しむ2人だが・・。
登場人物
風祭将。サッカーが大好きな中学2年生。
野呂弘美。デブだがサッカーが大好きな中学1年生。将に憧れている。
公園から10分ほど歩いた河原。
サッカーをするには狭い私設の練習場。
そこが、将と野呂の練習場所だった。
2人が5秒も全力疾走すれば、すぐにゴールの両端に辿りついてしまう。
しかし、狭い場所でも工夫次第で練習はできる。
道路工事で使うパイロンを並べて、ドリブルの練習をする。
そして、2人でボールをキープしあい、取り合う。
「ハァハァ・・・」
「野呂くん。もっとボールよく見ないと!」
「ハ、ハイ!」
2人はドリブルをしながら、お互いボールの奪い合いをしている。
しかし、将の方が野呂よりも一枚上手のようだ。
野呂は体が太めのせいか、将の小回りが効いたフェイントになかなかついていけない。
「ハァハァ・・風祭センパイ、もうちょっと手加減してください〜」
「野呂くん、僕からボールを取れないようじゃ、他の誰からも取れないよ」
「え〜!?」
「だって、僕は一番ヘタなんだから」
「そ、そんなことないですっ」
「本当だよ」
将はニコッと笑うと、さらにボールをドリブルしはじめる。
将の良いところは、自分が一番サッカーがヘタだと思っていることだろう。
だから、自分よりもヘタな野呂にだって、本気でサッカーをする。
決して手を抜くことはない。
がむしゃらなのだ。
いくら疲れていようと、野呂が「休もう」と言い出すまでは自分からやめることもない。
心底サッカーが好きなのだ。
野呂は、そんな将が大好きだった。
年上なのに、自分に対等の立場で、優しく接してくれる。
いままで野呂には、サッカーで自分に本気で相手にしてくれる人など、誰もいなかったのだ。
将は野呂の動きをみて、ボールをインサイドで左右に動かす。
「野呂くん、こんな単純なフェイントに引っかかてちゃ、ボールは取れないよ」
「は、はい・・」
その後、野呂はボールを必死に喰らいつていく。
「ハァハァ・・やったー! ついに風祭センパイからボールを取ったぞ!」
「野呂くん、やったね。すごいよ!」
ようやくボールを将から奪い取った野呂は、ガッツポーズをする。
そして、両手をバンザイして、歓喜の声をあげる。
お互いに抱き合って喜び合う。
将は、まるで自分が上達したかのように、手を叩いて喜んでいる。
(風祭センパイ・・・!)
将の笑顔に、心が温かくなる野呂。
たかが一度ボールを奪ったことなど、他人からみればたいしたことではないだろう。
しかし野呂にとっては、ボールを他人から奪うことは、いままでの人生で何回もできたことではない。
だから、うれしくてうれしくてたまらない。
そんな喜びを一緒に分かち合ってくれる将は、野呂にとって誰よりも変えがたい存在になっていた。
将と野呂は、すっかり暗くなった土手のグランウンドで、さらに練習に熱が入っていた。
「ホラ、そこ良く見て!」
「ハァ・・ハァ・・こうですか?」
「野呂くん、もっと体を動かさなくちゃいけないよ」
「ハ、ハイ!」
「今度は僕がパスを通すから、野呂くんはゴールまで走りこんで!」
「ハイ」
野呂が走った先に、将はインサイドで、高速なパスを送る。
そのまま、野呂はボールにワンタッチして、シュート。
「やった!」
「野呂くん、その調子!」
「センパイのパスがいいんです。これってキラーパスっていうんじゃないですか?」
「キラーパスだなんて、そんな格好いいものじゃないよ。でも僕と野呂くんの呼吸はピッタリだったね」
「ハイ、うれしいです・・」
「サッカーは呼吸が大事だから。僕と野呂くんはきっと相性がいいよ」
「ほ、本当ですか?」
「うん。さぁ、続けよう!」
もはや2人には、サッカーボールしか見えていなかった。
すっかり時間を忘れて、ボールを取り合う練習に夢中になっていた。
──2人が夢中になっている傍らで。
「ん、アイツは・・・?」
将と野呂がサッカーで楽しんでいるところを、たまたま通った3年生。
「アイツ、たしか・・・1年の野呂弘美だったな・・・」
無邪気にサッカーをする野呂に、3年生はキッと眉を釣り上げる。
「ったく・・・風祭と野呂のヤツ、隠れてサッカーやりやがって!」
3年生は風祭将の入部により、サッカー部を追い出された格好になっていた。
だから、将と楽しそうにサッカーをする野呂を、快く思わないのは当然だ。
「ヘッ、今度あのデブにヤキを入れてやるぜ。
風祭と仲良くするヤツは、どういうことになるか見せしめにしてやらねーとな」
そういうと、その男はくけけっと笑いをこぼして、その場を去っていった。
次回からアホ展開です。