だんだんアホ小説になってきました!
登場人物
風祭将。サッカーが大好きな中学2年生。
野呂弘美。デブだがサッカーが大好きな中学1年生。将に憧れている。
「ハァハァ・・野呂くん・・」
将は、息を切らせて走っていた。
自分でも、これほど速く走れるものなのかと思うほどの全力で・・。
もしかしたら、もう野呂の笑顔を二度と見ることができないと考えると、将の足は自然に動いていた。
野呂の家は、公園から10分ほど離れた、閑静な住宅地にある。
2階建ての比較的大きな家だった。
小窓が洒落ていて、とてもモダンなデザイン。
マンション暮らしの将とは違って、裕福な感じがする。
以前に、将は一度だけ野呂に家に入ったことがあるが、野呂の母親はとても優しくて暖かい人だった。
家の中を見れば、その人の生活環境がある程度分かるが、
野呂はいかにも1人っ子という家庭環境で、母親の愛情をたっぷり受けて育ったのだろう。
「早く野呂くんを、助けなきゃ・・・」
将は走りながら、考えていた。
きっと、野呂は性の対してかなり無頓着であり、おそらく精通をしていないだろうことを。
将は「ハァハァ」と息を切らせ、ようやく野呂の家までたどり着いた。
──ピンポーン。
インターフォンのボタンを押してみる。
しかし、何も返事がない。
「野呂くん、なにやってるの!」
──ピンポーン、ピポピポピンポーン!!
将は焦っているのか、インターフォンを押しまくる。
野呂が病人であることなど、すっかり忘れているようだ。
しばらくすると、「誰ですか〜?」とちょっと焦り気味な感じの、可愛い声がする。
──ガチャ。
ドアを開けたのは、他でもない野呂自身だった。
なぜか汗をたっぷりとかいた将をみて、野呂は驚いたような声を上げる。
「か、風祭センパイ?」
「野呂くん! もう起きても大丈夫なの!?」
「あの、どうしたんですか!?」
「どうしたもこうしたもないよ! 野呂くん、病気なんでしょ!」
「はい、でももうすっかり良くなって・・」
「その病気、本当に治ったの?」
「あの・・どうして風祭センパイは、僕が病気だったのを知っているんですか?」
突然現れた将に、野呂は困惑気味だ。
将は焦り気味で返事をする。
「3年生から聞いたんだ。そんなことより、野呂くん、部屋に入ってもいい?」
「急にどうしたんですか?」
「それが、その・・ここじゃ、話にくいから・・・」
「でも、僕の部屋に入ったら、センパイが感染しちゃいます」
「もう、僕が病気になろうが、そんなことはどうでもいいんだよ!」
「でも、お医者さんが一週間は、家に人を入れてはいけないって」
なかなか「うん」と言わない野呂に、苛立ちを感じる将。
「もう! いまは緊急事態なの!」
「僕は風祭センパイに病気を移したくないんです」
「う〜んっ! もう! 野呂くん、僕のことなんかどうでもいいから! とにかく緊急事態なんだ!」
「緊急って・・・」
なにやら危機迫る将の迫力に、野呂は圧倒されてしまう。
「あ〜あっ、ちょっと風祭センパイ・・!」
将は野呂の太った背中を押して、勝手にトントンと2階へと上がっていった。
2階にある野呂の部屋。
パステル調のじゅうたんに、綺麗な勉強机。そして、部屋の端にはベッドが1つ。
小奇麗にしているところを見ると、母親が毎日掃除をしているのだろうか?
奥にある出窓と、白いレースのカーテンが、とてもお洒落だ。
その部屋の中央に、将と野呂は向かい合って立っていた。
野呂はモジモジとして、なにか落ち着かない様子だ。
「ねぇ、野呂くん? お母さんはいないの?」
「はい。今日は用事があって、少し遅くなるって言ってました」
「じゃ、これから僕の質問にきちんと答えて」
「質問って・・?」
野呂は将の行動がさっぱり分からずに、目を細めて困った顔をする。
一方の将は、キッと真面目な顔になった。
そして、野呂に率直に尋ねた。
「ノロウイルスに感染したって本当なの?」
「はい・・。3日ほど前に、突然下痢と腹痛に襲われて・・・。
でも、昨日熱が下がって、今日はすっかりよくなりました」
「ねぇ、野呂くん?」
「はい」
「あのさ・・その・・」
「セ、センパイ、どうしたんですか?」
急に頬を赤く染めて、モジモジとする将。
しかし、首を振って迷いを断ち切る。
「ええいっ、僕と野呂くんの間に、絶対に隠し事はなしだからね」
「だから、なんですか・・?」
「僕たちは、先輩も後輩もないよ。友達だからね。ちゃんと答えて!」
「は、はい・・」
「野呂くん、その・・」
「はい・・」
「精通してるの?」
一瞬、2人の間に、冷たいすきま風が通った。
真っ赤な顔をして、大真面目にとんでもない質問をする将。
顔は真剣そのものだ。
一方、質問をされた野呂は、咄嗟に顔をカッと赤くした。
「センパイ・・・あの・・・いまなんて・・?」
「ねぇ、野呂くん。精通してる?」
「えええっ!?」
セイツウって・・?
野呂は、最初は将が冗談で話しているのかと思った。
しかし、将の真剣な眼差しを見ていると、とても冗談を言っているとは思えない。
しかも将は、野呂の両肩をギュッと掴み、さらににじり寄ってくる。
「精通してるの? してないの? どっちなの!?」
「センパイ、肩が痛いです・・」
「ねぇ、ちゃんと目を見て答えて! 精通してるの?」
普通ならば、冗談で話すような会話だが、将の真面目な顔を見ていると、とてもそんな雰囲気ではない。
野呂は額に汗をかきながら、おもむろに口を開く。
「なんでそんなこと、いま答えなくちゃいけないんですか・・センパイ・・」
「早く答えて! 一刻を争う緊急事態なんだ!」
一体なにが緊急なのかと、野呂はツッコミたくなったが、
真剣な将の表情を見ていると、もはやツッコミどころではなくなってきた。
野呂は母親に甘やかされて育ったため、性に関する知識はほとんどなかった。
野呂の友達は、みんな真面目で、あまり女の子に関するエロ話などはしてこない。
唯一、保健体育の授業で、男からは精子だの、なんだのが出て、子供が生まれるという話は聞いていた。
しかし、いまの野呂にとって、精子や卵子という大人の用語は興味のないことだった。
授業も、ただ漠然と聞いている程度のことなのだ。
それをいきなり、"セイツウ"という具体的な言葉を突きつけられ、野呂の頭はパニックになっていた。
しかも、それが憧れの将の口から飛び出すなんて。
「野呂くん、僕はだいたい分かるよ。まだ精通してないんだね」
「・・・」
「だって、野呂くんのアソコ、とっても小さそうだもの」
「ひっ・・そ、そんな・・」
「そうなんでしょ?」
「セイツウって、アソコの大きさ関係あるんですか・・?」
「関係あるよ。野呂くん、おちんちんに毛は生えてるの?」
「ええっ!?」
「分かったよ。生えて無いんだね」
「そんなっ・・」
1人で勝手に話を進めていく将に、野呂は手をモジモジとさせて落ち着かない仕草をする。
「あのさ、野呂くん、もしかして・・」
「こ、今度はなんですか・・?」
「正直に答えて」
「だから、なんですか・・?」
「本当は、精通の意味を知らないんでしょ?」
「ひぃ・・・」
「知らないことは、恥ずかしいことじゃないよ」
「・・・・」
野呂は、しばらくうつむいて黙っていた。
──精通の意味。
学校の授業では聞いていたが、実際のことは良くわからない。
きっと、「知らない」と答えれば将に笑われるに違いない。
しかし、将の真剣な眼差しに、ウソをつくことは失礼な感じがしたのだ。
野呂は体を震わせながら、呟いた。
「あの・・僕、正直に言うと、セイツウって意味がよく分かりません・・」
「野呂くん、本当のことを言ってくれて、ありがとう」
「風祭センパイ・・」
将はニコッと微笑む。
その笑顔は、一瞬野呂を安心させたが、次に将からとんでもない発言がされたのだ。
「じゃ、これから精通しよう!」
「ええっ!?」
「これから、僕が野呂くんを精通させてみせる!」
将は透き通った声で、高々に宣言する。
一点の曇りもない目で宣言をしているが、
こんなことを、声高々に立派に宣言しなくても・・と野呂の表情は固まっていた。
展開読めすぎ・・!