ポルトスがかなり強いので、どうやって落とすか悩みますた(←ォィ)。
登場人物
ポルトス。三銃士の1人で、気は優しくて力持ちを地で行く男。
ベーズモー。拷問と陵辱を趣味とする凶悪な男。シャトレの牢の看守。
鉄仮面。実はベーズモーが金で雇った囚人の1人。
店内には、あちこちにテーブルやイスが散乱していた。
もはや酒場の原型を留めていない。
数分前まで、2階を埋め尽くしていた護衛隊たちは、全員退散してしまったようだ。
そんな中に、1人残されたポルトス。
ずいぶんと派手に店を壊してしまったと、ポルトスは思ったが、事の成り行き上、そんなことを考えても仕方が無い。
「そういえば、あの女性はどこに行ったんだ?」
ジュサックがチョッカイを出していた女性が、もしかすると手紙の主かもしれない。
──ポルトスがフッと我に帰り、後ろを振り返ろうとした瞬間。
「なに!?」
殺気のこもった剣先が、ポルトスの頬をかすめた。
ポルトスは、只ならぬ殺気に、咄嗟に距離をとる。
頬にスッと剣先の傷痕ができ、血が垂れていた。
「な、何者だ!?」
「気配を消して隠れていたというのに・・。いまの剣先を避けるか。さすがだな、ポルトス」
そこに立っていたのは、冷たい鉄の仮面をかぶった男。
横幅を除けば、体はポルトスと同じくらいに大柄で、とても頑丈そうに見える。
「鉄仮面・・!」
鉄仮面といえば、数ヶ月前、国王のルイ13世をすり替え、フランスを大混乱に陥れた張本人。
ベル・イールの戦いのあと、鉄仮面の消息は不明で、ミレディとともに死んだのではないかと噂されていた。
鉄仮面は、スーハーッと不気味な呼吸をしながら、剣を構える。
ポルトスも、脇に差していた剣を抜き、構えた。
「ま、まさか・・・鉄仮面、生きていたのか!」
「フフフッ」
「どうしてお前がこんなところにいる!」
「お前と勝負したくなって、地獄から舞い戻ったのだ。
ポルトス、お前は力は強いようだが、剣の腕はどうせたいしたことはあるまい」
「ほう、俺と剣で勝負するつもりか。
お前がどうしてここにいるかは知らないが、ちょうどいい。ここで捕まえてやる!」
「フフフ、うまくいくかな?」
冷たい鉄仮面の声に、ポルトスは僅かな笑みを浮かべる。
「鉄仮面、お前はさっき不意打ちをしたな。もしかすると、お前は剣に自信がないんじゃないのか?」
「なんだと!」
「貴様、本当にあのときと同じ鉄仮面か?」
「・・・」
「まぁいいさ。では望みどおり、剣で勝負といこうか」
ポルトスは、ゆっくりと脇に差している剣を、鉄仮面に突き出した。
カチッ、カチャン!
酒場に響く、鈍い金属音。
ポルトスと鉄仮面は、剣を激しくぶつからせていた。
初めは互角に見えた突き合いであったが、鉄仮面はポルトスの剣に、徐々に押されていく。
「お、重い・・これが三銃士のポルトスの剣か・・!」
鉄仮面の腕は、ポルトスの突きを払いのけるだけで、どんどんと痺れていた。
「鉄仮面よ、どうして俺が三銃士と呼ばれているか、理解したか?」
「ううっ・・腕が・・」
ポルトスが繰り出す剣の突きは、鉄仮面の体を何度もかすめる。
鉄仮面は、ポルトスの剣術に、思わず舌を巻いた。
──『力の剣』。
それがポルトスが得意とする剣術。
「攻撃は最大の防御」を地で行く、ポルトスにしかできない、ポルトスの剣術。
アラミスが相手の剣を巧みに払いのける『柔の剣』ならば、
ポルトスは自分の剣で相手を打ちのめす『豪の剣』だろう。
ポルトスが三銃士と呼ばれる理由のひとつは、巨体を最大限に利用して繰り出される、剣の突きの強さだった。
(こんな剣術が存在するのか・・。並の男ならば、ポルトスの剣を払いのけることすら困難だぞ)
徐々に、ポルトスの剣に、腕力を奪われていく鉄仮面。
ポルトスの重い豪剣に、鉄仮面は攻撃に転じることさえできなかった。
「とりゃっーーっ!」
「ぬおっ」
ポルトスの一喝に、鉄仮面は圧倒されて尻餅をつく。
鉄仮面の剣は弾き飛ばされて、遠く彼方に、飛んでいた。
「なんだ、もう終わりか」
「うぬぅ・・」
ポルトスは、鉄仮面の喉元に剣先を伸ばす。
実に勝負があっさりとついてしまい、ポルトスは少しばかり拍子抜けした表情をする。
(なんだこの鉄仮面、めちゃくちゃ弱いぞ。トドメを差さずにおくか)
もはや動けない鉄仮面に、ポルトスが軽くねみうちを入れようとしたとき。
──トントン。
背後からドアをノックする音がした。
(ん、今度はなんだ?)
酒場の入口のドアを、叩く音。
ポルトスは不審に思い、そっと近づいて小窓を覗いてみると・・。
そこには、小太りでスキンヘッドをした初老の男性が立っていた。
「ポルトス殿。ここにおられましたか」
「お前は・・・シャトレの牢を看守している、ベーズモーじゃないか」
「はい。お久しぶりです、ポルトス殿」
「どうしてお前がここに・・!?」
「中に入ってもいいですかな?」
「あ、あぁ。構わんが・・・」
ポルトスが入口を開けると、ベーズモーはゆっくりと礼をしながら入ってきた。
ベーズモーの紳士ぶりに反応して、ポルトスも思わず帽子をとって一礼した。
ポルトスは帽子を渡して、ベーズモーに話しかける。
「やぁ、ベーズモー。久しぶりではないか」
「はい、ポルトス殿」
ポルトスはベーズモーのことをよく知っている。
シャトレの牢の看守であり、いつもまじめに働いている男。
少なくともポルトスの目には、ベーズモーはそのように映っていた。
だから、ポルトスは、先ほどまでの緊張感が解け、いつもの陽気な声に戻る。
知っている顔を見たためか、ポルトスは先ほどよりもずいぶんとリラックスした顔になっていた。
ベーズモーは穏やかな顔で、ポルトスに語りだした。
「実は、以前にパリを恐怖に陥れた鉄仮面を、シャトレの牢に護送して欲しいと依頼があったのです」
「鉄仮面? 鉄仮面ってコイツのことか?」
ポルトスは、再び鉄仮面に向き直して、指を差した。
「ひぃええ! やはり、ここにおりましたか。驚きましたな」
「コイツはたしかに鉄仮面だが、あまり強くなかったな」
「いえいえ、先ほどから中を覗いておりましたが、ポルトス殿が強すぎるのです」
ベーズモーは、ポルトスの肩にそっと手を伸ばす。
ベーズモーは、ポルトスの肩をギュッと握り締める。
(ベーズモーのやつ、本物の鉄仮面を見て怯えているのか? くくっ、いつも囚人を見ているのに小心者じゃないか・・)
そんなベーズモーの姿を見て、ポルトスはなにか微笑ましい感じがした。
「ポルトス殿がいれば、鉄仮面の一匹や二匹、敵ではありませんな」
「そんなことはないが・・。この鉄仮面を捕える依頼が、本当にあったのか?」
「本当です。奇妙な依頼でしたので、私も半信半疑で言われるままに、ここに来てみたのですが・・。
まさかパリの英雄、ポルトス殿が鉄仮面を捕まえる場面に出くわすとは思いませんでした。
私はいま、感動して震えているところなのです」
「いや〜、そんなに感動したのか? 照れるな」
「もちろんです。ポルトス殿の強さに改めて惚れました。
しかし、ポルトス殿はいい体をしておられる。ほんの少し触っただけで、もう興奮して・・」
「えっ?」
「いえ、なんでも・・ゴホンゴホン」
適当に咳をしてごまかす、ベーズモー。
ベーズモーは、店の中をザッと見回す。
そして、柔らかい物腰のまま、話を続けた。
「しかし、ずいぶんと派手にやりましたな」
「あ・・あぁ・・・」
「護衛隊の服があちこちに破けていますが、鉄仮面が護衛隊を蹴散らしたのですか?」
「これはその・・」
「あの護衛隊を倒すような鉄仮面を、造作もなく倒してしまうポルトス殿は、まさに天下無双というべき銃士ですな」
「ま・・まぁな」
ポルトスは、ベーズモーの言葉を聞いて、少しうつむき加減に気まずい顔をする。
(そういえば護衛隊は、俺がケンカをして、全員ぶん殴ったんだっけ・・・。
ベーズモーには黙っておこう。ジュサックには悪いが、鉄仮面がやったことと処理してくれれば、お咎めもないしな)
ベーズモーが、ちょうどよいタイミングで現れたことで、ポルトスは内心ホッと息をして安堵した。
ベーズモーは、ポルトスの背後で倒れている鉄仮面を指差して、話した。
「ポルトス殿、まだ鉄仮面は完全に気絶していないようです。
この鎖で縛りたいのですが、抵抗されたら私の手には負えません」
そういうと、ベーズモーは冷たくて太い鎖を、ポルトスに見せる。
「なんだ、鉄仮面のヤツ、まだ動けたのか?」
「はい。鉄仮面を気絶させてもらえませんか? お願いします」
「なぁ〜に、簡単なことさ! まかせとけ!」
ポルトスは、ベーズモーに背を向けて、鉄仮面の方向を振り返る。
余裕を浮かべるポルトスは、一歩踏み出して鉄仮面に近づく。
そして、鉄仮面のみぞおちに、一撃いれようとした瞬間。
──ぐああああっ!
ポルトスは、股間に激痛を感じて、震えだした。
(こっ、この痛みは・・まさか!!)
恐る恐る下を向き、その激痛の発信元を見てみると・・・。
こともあろうに、ベーズモーの足の甲が、サッカーボールを蹴るように金玉をモロに蹴り上げていたのだ。
いよいよベーズモーが牙を剥きます(俺が剥いてるのか)。