千太君小説(6)


(5)の続きです。3流ドラマっぽくなってきました・・。


登場人物

千太キュンです。超聴力の能力の持ち主です。

千太の親友の皆早賢次です。ジュニアのパイロットです。

UXの艦長、レッド提督です。遠隔透視能力を持ちます。


その夜、UXでは完全なる勝利に、みなが騒いでいた。
多くの乗員が千太のところに集まっていた。
「お前、すげーぜ!」
「さすがレッド提督の秘蔵っ子だな」
(別に秘蔵っ子じゃないんだけど・・)
千太は心の中で思ったが、そう言われることに悪く思わなかった。
千太を中心にワイワイと騒ぐ乗員たち。
みな、酒を飲んだり、楽しそうに雑談している。
誰も自分の能力を気味悪がったり、陰口を言うものもいない。
人生の中で、自分がこんなに多くの人に注目さたれ日はなかった。
人前にでることが苦手な千太は、とても恥ずかしかったが、同時にとてもうれしくもあった。
「千太、気分はどうだ?」
レッドがワイングラスを片手に話し掛けた。
「え・・えぇ・・なにか不思議な気持ちです・・」
「お前の能力をここにいる全員が認めたんだ」
「えぇ、初めてです・・こんなこと・・」
「環境は人間を大きく変えていくんだ。これからお前の周りはもっと変わって行くだろう」
「はい・・」
「私と共に歩むのだ。それがお前にとっても一番の幸せになるのだから」
「は、はい・・」
「もう疲れただろう。そろそろ私の部屋に戻りなさい」
「わかりました」
千太はみなの喝采を浴びながら、レッドの部屋に戻った。


千太はゆっくりとレッドの部屋に一人戻った。
UXの中に千太の部屋は用意されていなかった。
レッドが自分の部屋で一緒に過ごせというのだ。
レッドの部屋はとても広いので、特に困ることはなかったのだが・・・。
「ふぅ・・」
さすがに多くの人間に注目されると疲れる。
千太はゆっくりとソファーに腰をかけ、これからのことを考えていた。
(人に認めてもらえることが、こんなにうれしいなんて・・・)
(レッドさんと一緒ならば、僕はもう苦しんだり悩んだりすることもないのかもしれない・・)
(でも・・707Rの仲間とも戦わなくちゃいけなくなる・・・どうしたらいいんだろう・・)
(ここにいれば苦しみは無くなるかもしれないけど・・・国連の戦艦をあんなにたくさん沈めて・・)
(一体この気持ちはなんだろう・・・やっぱり僕はまだ苦しんでいるのかな・・・・)
(それに賢ちゃんも捕虜になったままだし、賢ちゃんだけでも、707Rに帰還できるようにお願いしなくちゃ・・)
あれこれ考えているところへ、レッドが入ってきた。
「全くウチの乗員は一度騒ぎ出すと、手がつけられんのだ。日ごろ、私が押さえ込み過ぎているからな」
レッドは、柄にもなく、なにやら一人で愚痴をいっているようだった。
「レッドさん・・・」
「千太。今日は能力を使ってかなり疲れただろう?もう寝なさい」
「はい・・でもちょっとお話が・・」
「私にそんな丁寧な言葉を使う必要はない」
「す、すみません・・話があるんです」
「じゃ、ベッドの中で話そうか」
そういうと、レッドは暑苦しい軍服を脱ぎ、裸になった。
さすがにいきなり裸になるレッドに驚く千太。
ポッと赤くなる。
「千太、お前も裸になりなさい」
「え・・裸ですか・・・?」
「恥ずかしいのか? 昨日ずっと裸だったじゃないか」
レッドは恥ずかしがる千太に微笑みかける。
そのレッドの隠れた微笑みに、なぜか千太は安心感を覚える。
「いえ、レッドさんになら・・恥ずかしくないです・・僕のすべてを知ってください・・」


レッドと千太はベッドの中に入った。
千太はモジモジとしている。なにかまだ恥ずかしさが残っていた。
「千太、こっちを向きなさい」
「は、はい・・・」
ベッドの中でゆったりとくつろいでいるレッドに、千太は体を向けた。
レッドは千太をそっと抱きしめる。
「レ・・レッドさん・・・」
「千太、これからお前は私の息子になるんだ」
「え・・息子って・・僕にはちゃんとお父さんがいます」
「戸籍上はな・・。別に父親が2人いても良いだろう。生みの親と育ての親みたいなものだ」
「でも・・」
「分かっている。お前にはまだ心の整理ができていない。しばらく私と一緒にここで暮らそう。起きてから寝るまで、ずっと私と一緒にいるんだ」
「は、はい」
千太はそう答えると、薄暗い中でレッドの顔をみた。
レッドの目は千太をじっとみている。
その目に千太は引き寄せられる。なんとも不思議な感覚になる。
(千太・・・)
(あ・・・レッドさんの意識・・)
(私たちに言葉なんて必要ないんだ・・こうして話ができるのだから)
(・・・・・)
(どうしたんだ、千太?)
(その・・・レッドさんはどうしてこんなに僕に優しくしてくれるんですか?)
(私のことを理解できる人間をずっと探していたからさ・・・お前と同じだ)
(僕が1人で悲しむ必要は、もうないんですよね・・)
(そうだ・・私がいる)
そういうと、レッドは千太に深いキスをした。
(あ・・あぁ・・)
いままで感じたことがない安心感がそこにはあった。


(・・・・あの、レッドさん、1つお願いがあります)
(なんだ?)
(いま捕虜になっている賢ちゃん・・いや水早賢次を707Rに返してあげてください)
(もう一人の少年か?)
(はい、僕の唯一の友達なんです・・・だからお願いします・・)
(わかった。707Rに一度コンタクトしてみよう)
(ありがとうございます)
(千太・・・)
(レッドさん?)
レッドは千太の髪の毛を撫でながら、そのプニッとしたな肉体を抱きしめる。
(レッドさん・・恥ずかしいです・・)
(おまえのすべてを知りたいのだ・・)
千太を目をつぶり、ちょっと震えながらそのままレッドにしがみつく。
(あぁ・・・レッドさん・・・そこは・・ダメです・・うぅ・・)
千太から悶え声があがっていた。


千太とレッドは毎晩のように、ベッドの中でいろいろなことを話した。
千太は自分が生まれてから、いままで経験したこと、嫌な思い出、それらをすべてをレッドに話した。
こんな話を聞いてもらえて、しかも理解してくれるのはレッドしかいなかった。
レッドも千太に自分の幼少のことから、つらい記憶までを千太に話した。
お互いがお互いを理解していった。
いつのまにか、千太とレッドは本当の肉親以上にお互いの心が通うようになっていた。
そして1ヶ月がたった。


1ヶ月後、地球の海には異変が起きていた。
UXは国連軍の潜水艦、駆逐艦の1/4を撃破していた。
もはや、まともに戦えると思われる潜水艦は、707Rしか残っていなかった。
このことは世界中で連日ニュースとなり、世界の人々はUSR軍の恐怖におびえていた。


千太は、度重なる戦績により、廊下を歩くだけで、周りの乗員が敬礼をして道をあけるようになっていた。
さすがに千太は、子供の自分に大人が敬礼するのには、戸惑っていた。
「海野少尉!」
特にレッドと千太が並んで歩いているときは、乗員全員が背筋を伸ばし、最敬礼をしていた。
(これが自分の居場所・・・、みんなが僕のことを認めてくれているんだ・・)
「どうだ、千太? すべての人間が尊敬の眼差しで我々を見る光景は?」
「なにか・・自分のこととは思えません・・」
「これが私たちの能力だ。自分の居場所という意味が分かったか?」
「は、はい、お父さん」
「この場所では"父さん"とは呼ぶな」
「ごめんなさい」
「私とともに歩め。私とともに世界をこの手に入れよう・・」
「せ、世界・・・」
千太は少しだけ違和感を感じていた。
たしかにレッドとともに過ごす時は、いままでの人生の中で最も充実していた。
レッドと一緒にいれば、思い悩むことも、悲しむこともなかった。
レッドは自分のことを唯一理解してくれる人間・・・・。すべてを受け入れてくれる人間・・。
しかし、なにかが心の奥にずっとひっかかっていた。


千太は賢次のことが心配であったのだが、毎日のように戦闘が続いていたため、賢次と話す機会はほとんどなかった。
(賢ちゃん、大丈夫かな・・)
心の中で賢次のことを心配していた。
しかし、多忙ではあるが充実している毎日が、千太にそれを忘れさせていた。
千太は能力を使えば使うほど、精神的に疲労がでてしまうため、戦闘が終わったらすぐにレッドの部屋で倒れこむように休んでいた。


ある日のことだった。
「千太、明日707Rに隣接するぞ」
「え・・・・707Rに?」
「あぁ。707Rの速水洋平とコンタクトをとった。不必要な人質を一人返還するために、海上で隣接することになった」
(707Rがくる・・・・)
千太の心は複雑だった。
707Rにいたときの自分は、すでに遠い昔のように感じられた。
速水艦長・・五郎・・・鈴木さん・・後藤さん・・一体どうしているだろう?
「久しぶりのご対面ってやつだ。心配するな、別に戦いになるわけではないさ。戦いの前のちょっとした挨拶というところだ。最も次は我がUXの一方的な勝利になると思うがね」
「は、はい・・」
「千太、お前は私について来なさい」
「え・・・僕も行くんですか?」
「当然だ。きっぱりと最後の別れを済ませておけ」
「・・わかりました・・」
自分のこの姿を速水艦長や五郎がみたら、どう思うだろう?
そう考えると、千太は胸が痛んだ。


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