なんか微妙に進まず・・ですね。
登場人物
左から水早賢次、日下五郎、海野千太。707Rの最年少トリオ。
左から艦長の速水、副官の南郷。2人とも夜の教育が得意のようだ。
──朝礼が行われる広間。
狭い707Rの中に、ムリヤリとはいえ20人ほど詰め込める唯一の空間だ。
毎朝、千太たちは乗組員の一番隅っこに並び、点呼を行うのだ。
しばらくすると、副官の南郷が現れた。
乗組員の前に立ち、朝の訓示をはじめる。
「・・・あと3日で、707Rは横須賀に帰港する。よって・・・」
その言葉を聞いて、ビクッとする千太。
(そうか・・あと3日で僕は707Rと別れなくちゃいけないんだ・・・)
千太たちは最少年の乗込員として707Rに乗艦したが、それはあくまでも正式なクルーとしてではない。
訓練学校から3人だけが、最年少の見習いとして特別に乗艦を許されたのだ。
もしかすると、もう707Rに乗るのはこれが最後かもしれない。
そう考えると、千太はとても寂しい気持ちになる。
千太の脳裏に、長い航海の思い出がフッとよぎる。
炊事中にこっそりとコロッケをつまみ食いをした日々。
ソナー班に異動してからは、毎日鈴木さんの猛特訓。
生きた心地がしなかった、息詰まるUXとの戦闘。
そして潜水艦での過酷な生活。
いくら最新型とはいっても、所詮は閉鎖空間の中。
千太にとって、それは予想をはるかに上回る過酷なものであった。
千太は、隣にいる賢次に小声で話しかける。
「ねぇ、賢ちゃん?横須賀に帰港したあと、僕達はどうなるんだろう?」
賢次は千太の質問に、しばらく「う〜ん」と考える。
「たぶんだけど、一旦訓練学校に戻るか、また707Rに乗れるか、別の船に乗るか、どれかじゃないかな」
「賢ちゃんは、きっと707R専属のジュニアのパイロットになるんじゃないかな?」
「え?どうして?」
「い、いや・・なんとなく・・」
千太は、賢次や五郎をうらやましく思った。
もし自分がジュニアのパイロットだったら、707Rに残れたかもしれないから。
(僕なんて、ソナー班でほとんど活躍しなかったからなぁ・・。
いっそのこと、炊事班でコロッケのつまみ食いしてればよかった・・)
賢次みたいに成績優秀ならなぁと、千太は自分の能力のなさにがっかりとする。
「・・・・そこで今日は、おまえらクズどもが生還することを祝して、みなで酒を飲もうと思う」
南郷の話がなにやらまだ続いていたようだ。
千太と賢次は、お互い顔を見合わせる。
千太は賢次に耳を近づけて、さらにヒソヒソ話を続ける。
「ねぇ、賢ちゃん?いまお酒を飲むって言ったよね?」
「うん。最後にみんなでドンチャン騒ぎするんじゃないのかな」
「そっか。"最後くらい"は楽しまないとね・・」
「まだ最後って決まったわけじゃないぜ。千太はきっと正式に707Rの乗組員になれるよ」
賢次の言葉に、千太は一瞬嬉しそうな顔をしたが、すぐに表情を曇らせる。
「賢ちゃんは正式な乗組員になれるかもしれないけど、僕は無理だよ・・」
「どうしたんだよ、千太らしくないぞ」
「・・・・」
千太は思っていた。
できることならもう一度、賢次たち3人で707Rに乗れたらいいなと。
なぜなら、千太は707Rとその乗員たち、そして速水艦長が大好きだったから。
朝の点呼が終了後。
──速水艦長の部屋。
速水艦長は、南郷の報告をフムフムと聞いていた。
「南郷君。今日は恒例の宴会をやるのか?」
「はい」
「そうか。鬱憤が溜まったヤツらにはちょうどよいだろう」
「ええ。みな、解放される時期ですからね」
「ところで、ドンガメの上に乗った子亀たちは成長したかな?」
「彼ら3人には良い経験になったでしょう。なにしろ、UXとまともにやりあったのですから」
「まぁ、それはそうじゃな」
南郷の話を聞いて、速水はパイプをふかして満足そうな顔をしている。
「ところで南郷君? 例の教育は終わったのかね?」
その言葉を聞き、南郷は少しニヤついた顔をする。
「水早賢次と日下五郎は、乗組員に随分とシゴかれたようですよ」
「ほほう。それはたいそうなことだ。海野千太は?」
「それが・・」
「なんじゃ。千太は逃げ回っておるのか?」
「はい。乗組員に聞いた話ですが・・・。
海野千太は、すべての誘いを拒絶しているとか。あっという間に部屋に逃げ込んでしまうそうです」
その話を聞いて、速水は少し意外な顔をする。
「どういう意味じゃ?」
「絶対に誘いに乗ってこないらしいのです。逃げ回り方が尋常ではないとか・・」
「尋常ではない?」
「ええ。原因は分かりませんが、人前で裸になるのを極度に嫌っているそうです」
「・・・・」
「私が横須賀に帰港する前に、一度教育いたしましょうか?」
南郷の意見に対し、速水はパイプをふかすのをやめて、なにか考えているようだ。
フーッと白い煙を吐く速水。
「なぁ、南郷君?」
「は、はい」
「わしはな、かなり気に入っとるんじゃ。海野千太をな」
「はぁ・・それは出航する前から、なんとなく分かりましたが」
「まだ千太が穢れを知らぬ体というのは、好都合じゃ」
「は?」
「久しぶりにわしがやろう。どのみち千太には必ず経験する時がくるんじゃ。
それにな、ああいうウブの子ほど敏感なんじゃ。こりゃ楽しみじゃわい。クククッ」
速水の含み笑いを見ていると、こりゃまた艦長の悪い癖がでたなと南郷は頭を抱えた。
「南郷君。宴会の催し物として、例のモノを用意してくれんか?」
「アレをですか!?」
「そうだ」
「・・・・」
南郷はなにやら、いぶしげな顔をして、部屋を出て行った。
──宴会の30分前。
会場が予定されている広間に、賢次たち見習い3人組と南郷の姿。
どうやら、準備のために呼び出されたらしい。
「お前らはまだ成人していないから、飲酒はできんぞ!」
「「「はい!」」」
賢次たちは南郷の命令に対し、声を揃えて返事をする。
どうやら飲酒ができない賢次たちは、ビールを運ぶウエイターをやることになったらしい。
「では、お前らこのクジを引け!」
唐突にくじを差し出す南郷。
「なんですか、これ?」
「せっかくの酒宴だ。盛り上げるためにも、仮装してウエイターをやってもらう」
「「えーっ!」」
賢次と五郎は、明らかに不満そうな顔をする。
千太は、とりあえずウンウンと頷いている。
五郎はツンケンとした口調でぼやいた。
「でも、仮装って、俺たちは着せ替え人形じゃないんですよ」
「俺のいうことが聞けんのか!」
生意気な口を叩く五郎に対し、南郷は怒声をあげる。
少し気まずい雰囲気になったところへ、千太が優しい表情で五郎に尋ねる。
「ねぇ五郎ちゃん、仮装ってなに?」
「あのな・・仮装っていうのは、おとぎ話や映画にでてくる登場人物の服を着ることだよ」
「へぇ、おもしろそうじゃないか」
ニコニコとする千太に、五郎はふて腐れるように切り返した。
「仮装なんて嫌だぜ・・俺のプライドが許せねーんだよ」
「まぁまぁ、そういわずにさ・・・宴会の催しでしょ」
千太は五郎の目の前で、ニッコリと微笑んだ。
「ったく・・しょうがねぇか・・」
千太の笑顔に対し、五郎はフッと息を吐いて諦めた様子。
その様子をみて、南郷が再びくじを目の前に出す。
「では、このくじを引いて、その番号の衣装に着替えろ!」
「「「はい!」」」
「それと海野千太。お前は速水艦長の部屋にお酌しに行け!」
「えっ? 僕だけですか?」
「そうだ。速水艦長は自室でお酒を飲むそうだ。お前がそばでお相手してやれ!」
「で、でも・・」
「はいと言わんか!」
「は、はい・・わかりました・・」
南郷の勢いに押されて、小さく返事をする千太。
速水艦長の部屋は、ほとんどの乗組員が入ったことが無いらしい。
噂では、潜水艦の中とは思えない豪華な部屋だとか・・。
(艦長の部屋って、一体どんな部屋なんだろうな・・)
困ったように頬をかく千太だが、実は艦長の部屋にはとても興味があったのだ。
「さぁ、クジを引け!」
南郷は手をグーの形にして突き出す。
そこには、ティッシュペーハーをこよりにした3本のクジ。
さっそく一人ずつ、クジを引いていく。
「あ。僕、3番かぁ・・」
千太はさっそく「3」と書かれた紙袋の前に行く。
そして、中に入っているものをうれしそうに覗いてみる。
しかし次の瞬間、千太は凍りついた。
設定は多少変えさせてもらいました。しかし、なんか先が読めるような・・。