白金太郎小説(1)


機械化帝国との戦いが終わったあとの話を、妄想してみました。前に書いた「金太君小説」とは関係ありません。


登場人物

白金太郎。愛称「金太」。マグナザウラーの元パイロットで硬派な柔道少年。女の子は苦手。

水原結花。金太に好意を持っているようだが・・。

峰崎拳一。金太のクラスメートで、ゴウザウラーの元メインパイロット。快活な少年。

マグナザウラー。金太が6400万年前から持ち帰ったロボット。金太の愛機。


──春休み。
来月から、もう中学生か・・。
時が経つのは、本当に早いもんだな・・。


機械化帝国との戦いが終わってから、俺は以前と同じ生活に戻っていた。
マグナザウラーと共に戦った1年間は、あっという間だった気がする。
でも、その短かった1年は、俺の最高の思い出として、永遠に残り続けるだろう。
俺は機械化帝国との戦いの中で学んだ。
勝負は"力"じゃない。
"心"だ。
人が人を思いやる心があれば、それを信じあえる仲間がいれば、どんな強大な相手でも倒せるんだ。
ザウラーズのみんなが、俺に教えてくれた。
その心が分かったから、俺はみんなと・・そしてマグナザウラーと共に戦い抜くことができたんだ。


──マグナザウラー。
俺が仲間を信じて、時空の穴に入ったとき、俺の心に共鳴してくれたロボット。
一緒に最後まで戦い抜いてくれた、俺の熱い相棒。
俺はマグナザウラーのことをひと時だって、忘れたことはない。
いまでも、マグナザウラーのコックピットの感覚が手に取るように分かるんだ。


今になってみて、俺は思う。
マグナザウラーはロボットだったけど、人間と同じ心を持っていたんじゃないかと。
俺がそんな風に思うのは、マグナザウラーが、いつも俺の心を受け止めてくれてたから。
それを証明しろと言われれば、難しいけど・・。
でも、相手が人間だとか、ロボットだとか、そんなのは関係ないんだ。
俺とマグナザウラーは、ずっと心がつながっていた。
俺はそう信じている。


マグナザウラーは、卒業式のあとどこかに行っちまった。
時空を超えて、恐竜時代に戻っちまったのかな。
またいつか会える日がくるかなと、俺は柄にもなく、センチメンタルなことを考えちまう。
もし、マグナザウラーともう一度会うことが出来たら・・。
たった一言でいい。
「ありがとう」ってお礼を言いたい・・。




ほんの数週間までは、地球は機械化される寸前だった。
しかし、戦いが終わった春休みは、驚くほど穏やかに過ぎていた。
拳一はボンとチョビと、サッカーで遊ぶ。
しのぶやえりは、買い物をして鬱憤を晴らす。
マーボーと育代は食べ放題の店へ行って、大食い。
元ザウラーズの面々は、それぞれのスタイルで違った楽しみをしていた。


「こ、こんなもんかな・・」
金太は鏡をみながら、髪の毛をサッとクシでとかしていた。
髪の毛をクシでとかすなんて、生まれて初めての行為かもしれない。
顔がこわばり、緊張気味だ。
(いまからこんなに緊張しちまってどうするんだよ・・・俺・・・)
フッと大きく深呼吸する。
洋服は、普段のパーカーがついた服に、半ズボン。
金太のスタンダードファッションとでもいうべきか。
だが、今日はいつもと違って、どことなく小奇麗にまとめている。
「えーっと、ハンカチは持ったし、お金も持ったし・・・あと忘れ物はないよな・・」
ふと、横を見ると、そこには小型の最新式トランシーバー。
「ああっ、いけねぇ。これをもっていかないと、結花に怒られちまう」
金太はその機械をズボンのポケットにしまい込む。
そのまま、少し緊張気味に家を出る。
金太が向かったのは、いつも柔道の練習をしている公園。
そこで結花と待ち合わせをしているのだ。


──つい3日ほど前。
公園で柔道の練習をしているとき・・。
結花がいつも通り、おにぎりの差し入れを持ってきてくれた。
夕陽が2人を暖かく照らす中で、
 金太は照れながら、結花と公園のベンチで一緒におにぎりを食べた。
結花のおにぎりは、形は少し変だけど、とてもおいしい。
金太と結花の、微妙なベンチでの距離。
くっつきもせず、離れもせず。
この距離が、5月の柔道大会からずっと続いていた。



せっかく来てくれた結花をチラッと見ながら、金太はなにか話さなくちゃと懸命に話題を探す。
「あのさ・・結花」
「なぁに、金太くん?」
「いやさ・・・機械神も倒して平和になったよな」
「うん。金太くんのマグナザウラーが大活躍だったよね」
「そ、そうか!?」
マグナザウラーの話ならば、いくらでも話せそうだが、
 それは結花にとって、興味のある話題なのかなと、金太は考え込む。


そうこうしてうちに、あっという間に時間は経ってしまった。
「じゃあ、そろそろ結花は帰るね」
そういうと、結花は立ち上がろうとした。
「ま、待てよ、結花!」
「どうしたの?」
「あのさ・・・今度の週末にさ・・・その・・・」
金太は真っ赤になって、指をモジモジとさせている。
目線は下に向いたままだ。
とても結花の顔を直視することはできない。
「金太くん、どうしたの?」
「いやさ・・・平和になったことだし・・ちょっとハイキングでも・・・なんちゃって・・」
「え、ハイキング?」
「あ、あぁ・・・別に・・・嫌ならいいんだけど・・」
金太の心臓は、これ以上ないというほど早く鼓動していた。
自分でも一体何を言っているのか・・・。
頭の中が真っ白な状態というのは、まさにこのことだ。


「わぁ、ハイキング? おもしろそう。結花も一緒に行ってもいいの?」
「あ・・・あぁ・・・(というか、結花しか誘っていないんだけど・・)」
「じゃあ日曜日の12時に、このベンチで待ち合わせだよ!?」
「あぁ」
「金太くんのお弁当作ってくるね!」
「あ、ありがとう・・」
そういうと、結花は手を振りながら帰っていった。
(ふぅ〜〜〜〜〜〜)
柔道の練習よりも、汗でダクダクになる金太。
ベンチにグッタリと寄りかかる。
(よ〜し、断られなかったぞ・・・やったーっ!)
金太は内心ホッとすると同時に、歓喜の雄たけびをあげた。





──日曜日の12時。
(結花のヤツ、まだ来てないみたいだな・・)
髪型をキチッとセットした金太は、
 公園のベンチに、恥ずかしそうにチョコンと1人座っていた。
座っているだけなのに、手のひらは汗でビッショリだ。
チラッ、チラッと横にある時計台をみる。
(もう12時すぎたのに・・・もしかして日にち間違えたのかな・・・)
どんよりと不安な気持ちが、金太の心を覆う。
(まさか、結花は俺のこと嫌いになって、来なくなったんじゃ・・)
こういう場合、人間はマイナス思考に走りやすい。
ありもしないことを、悪い方向へと自ずと考えてしまう。
結花が現れるまで、時が過ぎてゆくのを黙って耐えるしかない。


「きーんたくんっ!」
後ろから、透き通るような可愛い声。
その声の主が誰なのか、金太は振り向くまでもなく分かった。
「結花!」
金太は照れて頭を掻きながら、そっと後ろを向く。
「金太くん、ごめんね。待たせちゃって」
「そ、そんなことないって。俺もいま来たところだしさ」
「やだぁ、金太くんも遅刻したの?」
「そ、そうなんだよ・・・」
30分も前から来ておいて、我ながら情けない返事だと金太は思った。
しかし、結花の笑顔をみれば、そんなことはどうでもよいのだ。
結花はうれしそうに手を後ろに組んで、金太の正面に立つ。
「きんたくん、今日はすごい楽しみにしてきたんだよ」
「そ、そうか・・?」
可愛らしい仕草をしなから、金太にニコッと微笑みかける。
その笑顔にどう対応していいのか、金太は思わず顔が引き攣ってしまう。
「ねぇ金太くん。行き先は決めてるの?」
「あぁ。えーと・・その・・春風山の湖畔なんてどうかな・・。
  ちょっと歩くけど、あそこは人もいないし、とっても景色がいいからさ」
「あ、偶然だね。結花もそこがいいと思ってたの」
「ほ、ほ、本当か?結花?」
「うん。結花はウソなんてつかないよ!」
「そ、そうだよな・・ははは」
金太は真っ赤な顔をしながらも、自分の提案があっさりと承諾されたことに、安堵した。


淡々とした始まり方かなぁ・・。

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