圧倒的な電気王のパワーの前に、金太は・・?
登場人物
白金太郎。愛称「金太」。
水原結花。金太のことを気にかけているようだが・・。
電気王。機械化帝国四天王の1人。力こそすべてと考える実力主義者。
エルドラン。地球を守る謎の戦士。金太にマグナザウラーに授けた。
マグナザウラー。金太が6400万年前から持ち帰ったロボット。金太の愛機。
金太は、電撃で貫かれた胸を押さえながら、ベルトコンベアにもたれかかっていた。
(ハァ・・ハァ・・・)
冷や汗が全身に流れる。
唇に滲んだ血を片手で拭く。
恐怖で震える足を、必死に押さえつける。
金太は、そっと脇から電気王の様子を覗く。
電気王は、両手に電撃のスパークを放ちながら、金太の位置を探しているように見えた。
(このまま少し時間を稼がなくちゃ・・。なんとかして逃げるんだ・・)
金太は工場内をあちこち見回してみるが、出口のようなものは見当たらない。
(くそっ・・マグナザウラーさえあれば・・)
窮地に立たされる中、金太の頭に真っ先に思い浮かんだのはマグナザウラーの姿だった。
(電気王が蘇ったっていうのに、エルドランはどうして現れてくれないんだ!)
神にも祈る金太に対し、電気王の冷たい声が、建物の中に響き渡る。
『フフフッ。白金太郎。隠れたつもりだろうが、私からは丸見えだぞ』
(な、なに!?)
まさか、電気王には透視能力もあるのか?
そんなバカことがあるもんかと、金太は周りをキョロキョロと観察する。
そして、ある一点に目が集中した。
(あんなところに鏡が・・・これじゃ、隠れても電気王から丸見えじゃないか・・!)
よくみると、工場の壁の至るところに鏡が固定されている。
道路の交差点に設置されているような鏡。
工場内のフォークリフトの通路用に、設置されていているものらしい。
『ハハハ。もはや逃げ場はないぞ! 白金太郎!』
不気味な電気王の声が、金太を追い詰める。
(クソッ、なんてことだ。この工場はアイツにとって有利な点ばかりじゃないか・・)
どうやら地の利も、電気王に味方しているらしい。
すべてが絶望に思える中、鏡の中に見える電気王は、ドシンドシンと金太に近づいてくる。
徐々に大きくなる電気王の姿に、恐怖で体が凍りつく金太。
(早くここから移動しなくちゃ! 殺されちまう!)
しかし、金太は動揺しながらも、鏡を見ながらあることに気がついた。
(待てよ・・・電気王が鏡に映ってるってことは、俺だってヤツの位置を把握できるってことじゃないか・・!)
電気王の位置が分かれば、時間をかせいで、体力を回復させることができるかもしれない。
金太は、電気王の動きを鏡で見ながら、ほふく前進するようにその反対に回り込もうとする。
(よし、これなら少し時間を稼ぐことができるぞ・・)
しかし、そう思ったのも束の間だった。
「うぎぁあああーっ!」
こともあろうか、ほふく前進をする金太の背中に、稲妻のような電撃が直撃したのだ。
「あっ・・あっ・・・ぐっ・・」
息も絶え絶えになり、苦しみながら悶える金太。
全身が痙攣する。
『フフフ。バカめ。時間を稼ごうとしてもそうはいかんぞ』
「ど、どうやって・・・電撃を・・」
『こうしたのだ!』
そういうと、鏡に映った電気王は、再び電撃を発射する。
鏡に向かって発射された稲妻は、反射して角度を変え、金太の体に直撃した。
「ぎゃあああああ!」
あまりの痛さに、金太は苦痛に顔をゆがめた。
『私の電撃は特殊でな。鏡で反射することができるのだ。
お前がどこに逃げようと、この建物の中では電撃の餌食だ。ハーハハハッ!』
(ううっ・・)
この建物の中では、金太はもはや袋のネズミ同然だった。
(うっ・・うっ・・どうすりゃいいんだ・・・。俺はここで死んじまうのか・・・。
どうしてエルドランは現れてくれないんだ・・・)
金太はコンクリートの地面に顔をうつ伏せ、悔し涙を堪える。
隠れて姿を見せようとしない金太に対し、電気王は薄気味悪い笑みを浮かべる。
『どうやら勝負の大勢は決まったようだが、貴様は逃げ回ってばかりいるな。
私の前に出てきて戦う意思はないのか! "人間の心の強さ"が聞いて呆れるわ。この腰抜けめ!』
(ううっ・・)
いまの金太は、電気王のどんな屈辱的な言葉にも反論できなかった。
『仕方ない。では、お前の方から私の前に出てきてもらうとしよう』
(え・・なんだって・・!?)
電気王はベルトコンベアの電源装置に向けて、電撃を放つ。
工場内をぐるっと囲っているベルトコンベアに、バリバリと火花が散る。
すると、「ウィーン」という機械的な音が工場内に轟き、ゆっくりと動き出したのだ。
(こ、こんなものまで動かせるのか・・)
『私は電気で動く機械ならば、自らの電気を与えることによって、
自由に動かすことが出来るのだ。つまり、この工場の物はすべて私の味方だということだ。ハーハハハハッ』
しかし、ベルトコンベアを動かして一体何の意味があるのか?
金太はしばらくウィーンと唸る機械音を聞きながら、考える。
そして、あることに気がついたとき・・・。
金太は自然に大声をあげていた。
「し、しまった! 結花っ!!」
金太は、すっかり忘れていた。
ベルトコンベアに乗せられていた結花のことを。
それは、金太が「死」という現実を目の当たりにし、周囲のことが見えなくなっていたからだ。
金太はヒョイとベルトコンベアの上に顔を出し、結花が倒れていた地点を探す。
「結花ーっ、どこだー!」
金太の記憶では、結花が乗せられたベルトコンベアの先にプレス機があったはずだ。
(ま、まずいぞ・・)
金太は、まだ痺れが取れない体を、根性でムリヤリ動かして立ち上がる。
そして、必死に結花の姿を探す。
「結花! 返事をしてくれ!」
金太が工場内を必死に見渡すと、ベルトコンベアに乗った結花はプレス機のすぐ近くまで移動しているではないか。
大きなハンマーのようなプレス機は、
ベルトコンベアから落ちた鉄くずをすべてペシャンコにするように、上下にドシンドシンと作動している。
(大変だぞ・・・このままじゃ、結花が潰されて死んじまう!)
金太は、まだこんな力か残っていたのかという勢いで、結花の場所に必死で駆け寄る。
そして、結花がプレス機の寸前に迫った瞬間。
「結花ーーっ!」
金太は、間一髪でベルトコンベアの上の乗った結花を抱きかかえる。
そして、そのまま反対側の床にドスンと落ちた。
「はぁはぁ・・・よかった・・・」
金太は結花を抱きかかえながら、窮地から救い出したことにホッとする。
「あ、あれ・・・金太くん・・?」
どうやら床に落ちた衝撃で、結花もようやく目を覚ましたらしい。
「おい結花、気がついたか!?」
「うん。でも、ここは一体・・・?」
そういうと、結花はキョロキョロと辺りを見渡した。
金太は、結花の顔を間近に見ながら、怒鳴るように叫ぶ。
「覚えてないのか! 俺たちは電気王に殺されそうになってるんだぞ!」
しかし、その言葉に、結花はなにかに怯えたような顔をする。
「き、金太くん・・・!」
「どうした?」
「あっ・・あっ・・後ろ・・・」
「えっ!?」
その瞬間、金太の背後から電気コードのようなものが、ぐるぐると巻きつく。
金太は両腕と胴体を、電気コードで束縛されてしまった。
「し、しまった!」
『ハハハ。ようやく捕まえたぞ。この虫けらが!』
体にぐるぐると巻かれた電気コードに、まるで身動きが取れない。
「ちくしょう! 放しやがれ!」
金太は、それを引きちぎろうと、持てる力をすべて腕に入れる。
しかし、電気王から延びた強靭な黒いコードは、ミシミシと音を立てるだけで、微動だにしなかった。
『フフフッ。まずは私の足元に、引きずり出してやろうか』
そういうと電気王は、胸から伸びた電気コードを、徐々に引っ張り始めた。
「うわっ!」
体に巻きついたコードに突然引っ張られ、金太は背中からドシンと倒れる。
そして仰向けのまま、金太はズルズルと電気王も元へ引きずられていく。
「いやだぁ、金太くーーんっ!」
結花は顔面が蒼白になり、悲痛な叫び声をあげる。
そしてブルブルと震えたまま、完全に体が硬直してしまった。
金太は、ついに電気王の足元まで、引きずり出されてしまった。
体を縛られたまま、地面にうつ伏せで倒れている金太。
「くっ」と諦めに近い声をあげながら、上目づかいで電気王に視線を向ける。
『フフフ。手も足もでない芋虫のような格好だな』
「黙れっ・・」
さらに金太の心を逆撫でするような、電気王の高笑い。
『ハーーハハハッ。みじめだぞ、白金太郎!』
「ううっ・・」
『さて、じわじわと苦しんでもらおうか。私の今までの屈辱を晴らしてやる』
電気王は悪魔の笑みを浮かべると、そのままコードに高圧電流を平然と流した。
「ぎゃああああっ!」
電気王から発せられた電流は、バチバチと不気味な音を発しながら、黒い稲妻となって金太の体を襲った。
全身を、青白い電撃が襲う。
「ぐあああっ、やめてくれっ!」
金太は体を仰け反らして、その場で悶え苦しんだ。
体の関節という関節がミシミシと音を立てる。
このまま、体がバラバラになってしまいそうな凄まじい痛み。
金太は何度も気を失いそうになった。
『ハハハッ。何も反撃できないのか、白金太郎!』
「うぐっ・・がっ・・」
しばらくすると、グッタリとして動かなくなった金太。
『どうした? なにか答えてみろ。この芋虫が!』
電気王は足の裏で、金太の背中を思いっきり踏みつける。
まるで道に落ちているゴミを踏みつけるかのように。
「ぐはっ!あがっ!」
背骨がミシミシと軋む。
あばら骨が嫌な音を立てる。
金太はあまりの痛みに、意識が遠のいていった。
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金太は、いつのまにか暗闇の中を彷徨い続けていた。
(どこなんだよ、ここ・・まさか、俺、死んじゃったのか・・)
出口が見えない世界を、金太は必死に走り続ける。
しばらく彷徨っていると、正面からなにやら声がする。
<少年よ・・・>
「えっ・・?」
<私はエルドラン・・・>
その声を聞いて、金太はうれしさのあまり飛び上がった。
先ほどまでの不安な顔が、満面の笑みに変わる。
「エルドラン!? 助けに来てくれたんだな!」
声がする方向に全力で走っていく。
徐々に明るくなったその先には・・。
高層ビルのようにそびえたつ、大きな物体が立っていた。
「マグナザウラー!!」
緑色を基調にした巨大なロボット。
金太の愛機。
肩に装備されている2本のキャノンが凛々しい。
「うっ・・うっ・・」
金太はその勇姿を見て、いままで抑えていた感情が一気溢れてしまった。
普段は絶対に涙を見せない金太だったが、それを押さえつけることなどできなかったのだ。
ちょっとやりすぎだろうか・・?<俺