白金太郎小説(7)


金太&結花VS電気王、開戦。


登場人物

白金太郎。愛称「金太」。

水原結花。金太のことを気にかけているようだが・・。

電気王。機械化帝国四天王の1人。力こそすべてと考える実力主義者。

金太は柱の影から、チラッと電気王の動向を探る。
どうやら電気王は反対の方向を向いて、なにやら考え事をしているらしい。
まだ時間はありそうだ。
さらに金太は、キョロキョロと周りを注意深く見渡した。
その奇怪な行動を見て、結花は不思議そうに尋ねる。
「金太くん、なにやってるの?」
「鏡がないか、探しているんだ」
「鏡?」
「この工場は鏡だらけなんだ。だから、電気王にこの場所も見つかっちまうんじゃないかと思ってさ」
金太の話を聞いて、結花も一緒にキョロキョロと上方を見回した。
「金太くん、この柱の影は死角になっているみたいだよ。
  ここに割れた鏡が一枚落ちているだけで、他にはみえないもん」
そういうと、結花は金太に鏡の欠片を渡す。
「よかった・・。それからアイツの電撃は鏡で反射するんだ。だから、移動するときは鏡に注意しなくちゃダメだ」
「電撃が反射するって、そんなことあるの・・?」
「あぁ。俺は随分と攻撃を喰らったんだぜ。それにアイツ自身が"反射する"って言っていたからさ。
  まったく、どうしてこんな鏡で、電撃が反射するんだっ」
金太は鏡の破片を眺めながら、ジッっと考えこむ。
「金太くん・・どうしたの?」
「もしかして・・この鏡は逆に俺たちの味方になるんじゃないかって・・・」
「どういう意味?」
金太はひらめいたことを、結花にコソコソと耳打ちする。
結花はウンウンと金太の言うことに、頷いていた。


「ウーム・・・」
金太はその後も、さらに考え込む。
(ダメだ・・いくら考えても思い浮かばねぇ・・。一体なにをどうすれば、電気王を倒せるのか・・・。
  アイツに近づけば圧倒的なパワーでひねられるし、遠くからでは電撃で攻撃されちまう・・。
  ちくしょう、全くスキがない・・・。でも、電気王にだって、なにか弱点があるはずなんだ・・)
必死に考える金太の姿を見て、結花は小さな声で話しかける。
「ねぇ金太くん。少し気になっていたんだけど・・」
「なんだ、結花? 何でも言ってみろよ」
「電気王って、どうやって動いているのかな・・?」
「えっ?」
「なんていえばいいのかな・・・電気王だってエネルギーは無限じゃないと思うの」
「無限じゃない?」
力で相手を倒すことばかりを考えていた金太にとって、結花の意見は新鮮に思えた。
結花は、結花なりに電気王を倒す方法を考え始めたらしい。
「私は思うんだけど・・・。
  いままでの電気王の行動の中に、絶対に弱点につながることがあると思うの」
「いままでの行動かぁ・・」
そういうと、金太は再び「ウーム」と考え込む。
金太自身、あまり熟考することは得意ではないのだが、いまはともかく頭をフル回転させるしかない。
(電気の弱点・・・電気の弱点ってなんだ・・。
  クソッ、こんなことなら、中島先生の理科の授業をちゃんと聞いておけばよかったぜ・・)
必死に考える金太に対し、結花はやんわりと金太に尋ねる。
「なにか、電気王におかしな行動はなかった?」
金太は電気王が現れてからの行動を思い出す。
(おかしな行動といってもなぁ・・。俺はずっとやられっぱなしだったし・・。
  特に変なことも言ってなかったしな〜。
  ん、ちょって待てよ? あいつ、1つだけ変なこと言ってたぞ。たしか「お前は少しだけ運がいい」とか・・。
  あれ、いつ言ったんだっけ。う〜〜〜んと・・・がんばって思い出さなくっちゃ。
  えーと、たしか・・・。そうだ! この工場にくる前だ。
  あのとき、一体何が起こったんだ・・? ま、まさか・・・)
金太はパチンと指をならす。


(そ、そうか・・・もしかして、アイツの弱点は・・)
金太は閃いたアイデアを、再び結花にゴソゴソと耳打ちする。
「うん。金太くん、それ正しいかもしれないよ。中島先生も授業でそんなこと言っていたもん」
「ほ、本当か? 結花?」
「うん」
結花は、金太よりは学校の成績はかなりいい。
結花の同意を得られれば、金太は自分の推測が正しいと判断できる。
「アイツのエネルギーは電気そのものかもしれない。
  だから電気を消費させちまえば、アイツはエネルギーが切れて動けなくなるかも! なにしろ機械の体だし・・」
「金太くん、それだよ!」
金太と結花は、暗闇の中に針の穴ほどの光明が見えたことに、お互い少しだけ頬を緩ませた。
(よし、なんとなくだけど、アイツのおかしな行動から弱点が見えてきたぞ・・。
  でも、まだ推測にすぎない・・。どうにかして、それを確かめる方法はないのか・・)
再び、金太は腕を組んで「ウーム」と考え込む。
そして、工場内をぐるぐると見渡す。
しばらく見渡したあと・・・。
金太はなにかアイデアが閃いたのか、結花に話しかける。
「結花、1ついいこと思いついたぜ。アイツに一気に電気を使わせちまう方法をさ」
「本当? だったら、結花も手伝う!」
結花の勇気のある言葉に、金太は困ったような汗をかく。


「これからやろうとしていることは、すごい危険な賭けなんだ。だから俺が1人でやる」
「でも、"最後まで2人であがこう"って金太くんが言ったんだよ。結花も手伝うよ」
「結花・・・」
キッパリと断言する結花は、以前にはない頼もしささえ感じる。
そんな結花に対して、金太は優しく微笑んだ。
「じゃあさ、結花に1つお願いがあるんだけどさ・・」
「なに?」
「さっき結花が話してくれたアレ、探してくれないか?」
「でも、そんな都合よくあるかなー?」
「向こうの通路の奥に、管理室みたいなのが見えるだろ? あそこを探してみるんだ」
「そっか。金太くんいろいろと周りを見ているんだね」
金太は「えへへ」と頬を掻きながら、さらに話を進める。


「もう1つお願いがあるんだけどさ」
「なに? 金太くん?」
「アイツを倒すには、この工場から出ないと無理かもしれない。ここから入り口のシャッターが見えるだろ?」
「うん」
「あそこに辿りつくまでの道で、鏡がない場所を見つけてくれないか?」
「えー、あんな遠くまで行くの?」
先ほどまでは強気だったのに、厳しい条件になるとすぐに弱気になるところが結花らしい。
そんな結花に対して、金太は目を大きく見開いて説得する。
「結花っ、なに怖がってるんだ。
  この工場から外に出られるかどうかで、俺たちの命運は決まっちまうかもしれないんだ!」
金太の勢いに、さすがの結花もたじろぐ。
「ご、ごめんなさい。結花もがんばる・・・」
「よし、じゃここからは別行動だ。いいか、もし俺になにかあっても、結花だけはなんとしても逃げるんだ!」
「金太くん・・変なこと言わないでよ・・・。金太くんも一緒に脱出するんだからね」
「分かってるって。そう心配するなよ・・」
そういうと、金太は出来る限りの笑顔を振り絞り、結花を見送った。
結花は何度も金太に振り返り、心配そうな顔で小走りに離れていく。
(俺もがんばらなくっちゃ・・・。
  絶対に電気王を倒して、もう一度結花の笑顔をみるためにも・・。とにかくやってみよう!)
しかし、柱の影から電気王を覗いている金太の顔は、死を覚悟するものへと変わっていた。


金太は、柱の横に並んでいるフォークリフトに近づく。
(よーし、このフォークリフトなら・・・あとはスイッチを入れておけば・・)
ゴソゴソとフォークリフトをいじった金太は、柱の場所に戻る。
そして、フウッと大きく深呼吸する。
(電気王。俺の命が先に尽きるか、お前の命が先に尽きるか勝負だ!)
ブルッと武者震いをした金太は、弱々しい表情で、柱の影から出て行った。
「電気王、待たせたな」
『ほう、逃げてばかりの腰抜けが、ようやく出てきおったか』
「・・・・」
『どうした? もう1人の少女との別れは済んだのか?』
「ああ。もう俺に勝てる見込みはねぇ」
『なるほど。ようやく覚悟が出来たというわけか』
「・・・電気王。死ぬ前に最後の頼みがある」
『なんだ?』
「お前の電撃で、ひと思いに楽に殺してくれないか・・?」
『なに?』
「どうせ死ぬなら、男として、いさぎよく死にたいんだ。お前なら俺の気持ちを理解してくれるだろう?
  俺の心臓に、お前が持っているありったけの電撃をぶち込んでくれ。
  俺の左胸に風穴をあけることくらい、お前なら簡単なはずだ」
そういうと、金太は「ここを狙え」とばかりに、自分の左胸を押さえた。


金太の男らしい決断に、電気王はなにやら満足したような笑みを浮かべる。
『フフフ。よく言ったぞ。白金太郎。腰抜けといったことは取り消してやろう。
  では、その勇気に敬意を表して、最大の電撃で心臓をぶち抜いてやる!』
「あぁ・・ありがとう。恩に着るぜ」
『覚悟はいいな』
「ああ。ここだぜ。しっかり狙ってくれ。お前の最大の電撃でな」
電気王は、ゆっくりと片手をあげ、電撃を発射する態勢に入る。
金太は目を大きく見開き、電気王の動きの一挙手一投足をみつめる。
(タイミングを外したら、本当に死んじゃうな・・俺・・・)
緊張のあまり、金太の額に汗が滴り落ちる。
静粛があたりを支配したそのとき・・。
『さぁ、これで最後だ! 白金太郎!』
そういうと、電気王の腕から、すさまじい閃光がほとばしる。
「いまだ!」
その瞬間、金太は右手に持っていた鏡の欠片を自分の心臓の位置に当てた。


次回へ続きます。

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