白金太郎小説(完)


ご都合主義的な部分が多いですが、今回で強引に終了です。


登場人物

白金太郎。愛称「金太」。

水原結花です。金太の恋人にようやくなりました。

電気王。機械化帝国四天王の1人。力こそすべてと考える実力主義者。

死神のような声が、湖から響き渡る。
「ま、まさか・・?」
金太は冷や汗をかきながら、恐る恐る湖の中にいる電気王の方向を振り向く。
そこには、バチバチと火花を散らし、目に不気味な閃光を宿す電気王の姿があった。
まるで投棄されたゴミのように、頭だけを水面に出している。
ほぼすべての電気が流れ出してしまったのか、その姿は以前とは比べ物にならないくらい、惨めなものだった。
『私だけが、死ぬわけにはいかん・・』
「生きて・・いるのか・・?」
『たかが人間ごときに、機械王であるこの私が敗北するなど、あってはならないことだ・・』
「ど、どうする気だ・・・」
電気王は、金太を睨みつけるような閃光を宿しながら、話を続ける。
『人間に"心の力"があることだけは認めてやろう・・・』
「待て! 本当は、お前にだって心があるんじゃないのか!?」
『機械にそんなものはありはしない。心の力など理解できるものか・・・』
その言葉が終わらないうちに、金太の足元に電気コードがズズッと這いずる。
それは、先ほど金太が握っていた電気コードの切れ端。


そのコードは、まるで生きているかのように、金太の足首にクルクルと絡みついた。
「うわっ、なんだ!?」
金太の足に絡みついたコードは、金太の片足をグイッと引っ張る。
その勢いで、金太はステンと仰向けに転倒させられた。
「な、なにをするんだ!」
『フフフフッ。ハーハハハ』
「なにがおかしい!」
『この湖は、いまや電気に満ちた巣窟だ。
  貴様がこの湖に落ちれば、全身に電気が回って、あっという間に感電死だ』
「ち、ちくしょう! ここまでがんばったのに・・・やられてたまるか!」
金太は持てる限りの力で、必死に足に絡まったコードを解こうとする。
しかし、力を使い果たした金太には、そのコードを引きちぎる力は、残されていなった。
「クソッ、俺にはもう力が残ってないのか!」
金太の必死の叫びも虚しく、体ごとズルズルと湖へと引っ張られていく。


そのときだった。
「金太くん、やだー!!」
必死にもがく金太の姿を目の当たりにして、結花は泣きながら金太の元へ駆け寄った。
「来るな! 結花まで巻き込んじまう!」
「いやだよー、金太くんが死んじゃうなんて、絶対にいやだー!」
「結花・・・」
湖へズルズルと引きずられる金太の元へ、結花は懸命に走っていく。
「死ぬときは一緒だよ! 結花は金太くんのことが大好きだもんーっ!」
「バカッ! やめるんだ!」
「どうして、金太くんはいつも格好つけて、全部1人で背負っちゃうの・・。
  結花はずっと金太くんと一緒にいたいもん。金太くんと一緒なら、結花は死ぬのは怖くないもん!」
「結花・・!」
結花の言葉に、金太は思わず涙が出そうになる。
結花は走りながら、足を引きずられる金太の胸に向かって飛び込む。
「はぁはぁ・・やっと追いついたよ。これでずっと金太くんと一緒だね・・」
「バカヤロウ・・・死んじまったら、終わりなんだぞ!」
「それでも、いいもん!」
結花の顔は、涙でグシャグシャになっていた。
金太は倒れこんだ結花を、自分の胸にギュッと抱きしめてあげる。
電気コードに引きずられながらも、結花を傷つけないよう、ギュッと胸に優しく包みこむ。
湖の畔の斜面を、ズルズルと落ちていく2人。
その2人の姿を見て、電気王は不敵に笑う。
『フハハハ。2人で死ぬか・・・これが心を持つものの最大の弱点だ。
  最後の最後で、貴様らは"心"があるが故に無駄死していくのだ! ハーハハッ!』
しかし、そんな電気王の嘲笑を聞いても、金太の口調は穏やかなままだった。
「そうだな・・。お前の言うとおりかもしれねぇ・・。
  でも、人間には弱さがあるから仲間もできるし、信頼し合うこともできるんだ・・」
『フン。仲間がいても、結局死ぬことに変わりはないではないか』
「あぁ、そうだ。でも、俺は全ての力を出し尽くした。だから後悔しない。
  それにこれからはずっと結花と一緒だから・・もう思い残すことはない・・」
『なにを訳のわからんことを・・・』
金太の悟ったような言葉に、電気王は返す言葉が見つからなかった。


金太は、震えている結花を必死に抱きしめる。
「結花、ごめんな・・」
金太は目に涙を溜めながらも、表情は柔らかかった。
「俺は約束を破っちまった。"結花だけは死なせない"っていう約束をさ。俺はウソツキの大バカ野郎だ」
「金太くん、もういいの。もう何も言わなくていいよ」
「結花・・・ずっと2人で一緒にいような・・・」
「うん・・」
金太は結花を、大きな胸の中にギュッと抱きしめる。
そして、2人で死を覚悟したとき・・。
暗雲が立ち込める空に、渦が巻き始めた。
やがてその空の渦は徐々に大きくなり、中心から眩いばかりの光が漏れ出す。
その光を、ジッと見つめる金太。
「な、なんだ・・・あれ・・?」
暗雲から溢れる光を見ながら、金太はなにか暖かいものを感じた。


ドッシーーン!
突然巨大なものが、天の渦の中から轟音とともに落ちてきた。
それは、大きな鉄の塊。
剣のような形をしたそれは、金太と湖の間にズシンと物凄い音を立てて、地面に深く突き刺さった。
一瞬、巨大な地震が起こったように、山全体が揺れる。
その鉄の塊は、金太の足を束縛していたコードを途中で寸断していた。
『な、なんだと!? あれは・・まさか・・・』
電気王は、背筋を凍らせながら、上空を見上げる。


金太と結花は、ズルズルとした斜面を転げていたところを、
 地面に突き刺さった剣の壁にぶつかり、体を止めらていた。
金太はそのままグッタリと、剣の壁にもたれかかる。
そして、ゆっくりと上空を見上げた。
金太は、眩いばかりの光の中から、降りてくる巨大な物体を見て、安堵の表情を浮かべていた。
そして、独り言をいうように呟いた。
「遅せーぞ・・・いまごろ来やがって・・・」
金太が見上げた先には、懐かしささえ感じる緑色の巨大なロボット。
空から降りてきた巨大な物体が地面に近づくと、地響きがするような音が森に響き渡った。


金太は目を閉じながら、「ふぅっ」と大きく深呼吸をする。
そして、ゆっくりと立ち上がり、結花に手を差し出した。
「結花、大丈夫か?」
「うん・・」
まだフラフラとしている結花に、金太は急いで肩を貸してあげる。
そして、2人で上空から降りてくる巨大な物体を、笑顔で見つめた。
「金太くん、あれって・・」
「あぁ。俺のマグナザウラー・・・・いまごろ、ノコノコと出てきやがって・・・」
金太はそういいながらも、マグナザウラーが自分を助けにきてくれたことが、素直にうれしかった。


天使のように舞い降りたロボットは、いつのまにか湖の畔に着陸していた。
金太は黙ったまま、マグナザウラーの顔をじっと見上げる。
そしてマグナザウラーも、それに気がついたのか、金太の方へ顔を向けた。
お互い、それぞれの存在を確認するかのように。
──しばらく経って・・。
金太はなにかを感じたのか、ニコッと微笑みを浮かべる。
マグナザウラーも、金太の微笑みにうなづいたように見えた。


金太とマグナザウラーは、ただ、お互いをじっと見つめるだけだった。
その2人の姿をみて、電気王は遠くなる意識の中で、小さく呟いた。
『白金太郎とマグナザウラーは何も語らない・・。
  だが、あの2人は言葉がなくても、お互いの"心"が通じ合っているのか・・。
  ロボットにも"心"があるというのは、本当だったのかもしれんな・・』
力尽きて徐々に沈んでいく、電気王の体。
『私はいまやっと分かった気がする。人間に勝てなかった理由が。
  私とデスボルトも、あの2人のように心で結ばれていれば・・固い絆があれば・・。
  もし、私がもう一度生き返ることがあれば・・そのときは・・・私もあのような勇気ある少年と・・心というものを・・・』
バチバチと音を立てて、電気王は湖の底へと沈んでいった。
しかし、その表情は機械のような冷たさはなく、なにか暖かみを感じるものに変わっていた。


金太とマグナザウラーは、しばらくの間、言葉を交わすことはなかった。
なぜなら、金太にはマグナザウラーがここに現れた理由が分かっていたから。
にっこりと微笑んだ金太は、ようやく口を開いた。
「なぁ、マグナザウラー? 本当は、最初からずっと俺のことを見守ってくれてたんだろ?」
<・・・・・>
無言のマグナザウラーに、金太はさらに言葉をつないでいく。
「俺、やっとふっきれたよ。
  俺はお前と別れた後も、どこかで頼っていたんだ。
  なにかあれば、すぐにエルドランが来てくれるって。お前が俺に力を貸してくれるって。
  俺は"マグナザウラーに選ばれた特別な人間"だから・・なんて考えてたのかもしれない」
マグナザウラーは、何も語らずに金太の言葉を聞いているように見えた。
「お前がここに来てくれたってことは、俺はすべての力を出せたってことかな・・?
  でも、もう体ボロボロだしさ、立っているのもやっとなんだぜ」
そういうと、金太は自分で自分の言葉がおかしかったのか、クスッと笑みを浮かべる。
その様子をみて、隣にいる結花は首を傾げながら、金太に尋ねた。
「金太くん、マグナザウラーはロボットなんだから、話しかけても分からないんじゃないの?」
その言葉に、金太は穏やかな表情をして返事をした。
「いや、マグナザウラーは何も喋らないけどさ・・。
  俺のいうことは何でも分かってくれるんだ。そして、俺もコイツのことは一番よく分かってるつもりさ」
結花には、金太とマグナザウラーが何も会話せずに、分かり合えることが理解できなかった。
そして、金太とマグナザウラーの関係に、ほんの少しだけ嫉妬した。


「マグナザウラー・・・俺さ・・・」
そう金太が言いかけたとき、マグナザウラーは、ゆっくりと膝を落とした。
そして、巨大な手のひらを金太の前に差し出す。
なにやらマグナザウラーは、金太に自分のコックピットに乗れといっているらしい。
「そっか・・・これが最後ってことだな・・」
金太が小さく呟いた言葉を、結花は聞き逃さなかった。
「金太くん、最後ってどういう意味?」
「これでマグナザウラーに会うのは最後っていうこと・・」
「え、どうして?」
金太は、結花の問いかけに、目を閉じて黙ったままだった。


金太は、一瞬マグナザウラーの指に足をかけようとしたが、途中で足を降ろした。
「なぁ、マグナザウラー? 俺ともう一度、空を飛びたいか?」
<・・・・>
「俺はお前とずっと空を飛んでいたいけどさ・・・でも、もういいんだ。
  なぜなら、俺はお前の操縦席も、レバーを引いたときの感触も・・、
  ペダルを押したときの感覚も・・・なにもかも覚えているし、一生忘れることはないと思うんだ」
金太の言葉を聞いて、マグナザウラーは降ろしていた手を元に戻し、立ち上がる。
「これからは、俺は俺自身の力で生き抜いてみせる。
  そして、結花を一生大切にしていくつもりだ。
  だから、お前も俺たちを、どこかでずっと見守ってくれよ。
  な? それくらいはいいだろ? 頼むぜ!」
金太の言葉に、マグナザウラーはしばらく静止していたが、やがてゆっくりと地面からマグナブレード抜いて、元に戻した。
そして、ウィーンという機械音とともに、空へと上昇しはじめた。
金太は、そんなマグナザウラーの姿をみて、大声で叫んだ。
「最後に1つだけいわせてくれ!! マグナザウラー、いままでありがとうな!!」
マグナザウラーは別れ惜しそうに、上空でしばらく金太を見つめていた。
そして、そのまま時空の彼方へと消えていった。





金太と結花は、2人で肩を貸しあいながら、ゆっくりと湖を離れていた。
結花は金太の顔をふと見上げて、尋ねた。
「ねぇ、金太くん? マグナザウラーと最後の別れだったのに、悲しくなかったの?」
その言葉を聞き、金太は一瞬悲しそうに目をギュッと瞑る。
しかし、すぐに正面を真っ直ぐみながら話した。
「男ってのは、メソメソするもんじゃないんだ。それにマグナザウラーは俺の心の中にずっとあるからさ」
金太らしい言葉に結花は安心したが、同時に少しだけ頬っぺたをムッと膨らませる。
「ケガは大丈夫なの?」
「あ、あぁ・・・あちこちボロボロだけどさ・・こんなの柔道やってればケガのうちに入らないぜ」
「金太くん、いつも強がるんだから」
「へへっ」
そういうと、金太は照れたように頬を赤く染める。
「そういえば、金太くんって、女の子が物凄い苦手だったよね?」
「え゛?」
「結花と肩を組んでるのに、平気になったの?」
「こ、これは・・あの・・・」
結花の言葉に、金太は突然我に返る。
突然、体がコチコチになって、顔が温度計が振り切れたように赤くなった。
「ち、ち、ちが、違うんだ、結花っ! これは・・」
「もう、金太くんったら!」
金太らしいリアクションにおかしかったのか、結花はクスッと小さく笑う。
金太はいつもなら、ここで体が震えて倒れてしまうのだが、
  いまは真っ赤になりながらも、必死に結花の肩に手を置き続けた。


「へ、へっ、平気さ。だって、俺と結花は・・あの・・その・・・」
「恋人同士だもんね」
「そ、そう・・・それ・・・こい・・び・・と・・」
先ほどとは別人のような金太のオドオドした口調。
そんな金太を見て、結花はクスッと笑う。
そして、プイッと金太と反対の方向を向いて小さな声で呟いた。
「私、ちょっとだけ嫉妬しちゃった」
「えっ?」
「マグナザウラーに」
「・・・?」
「私ね、中学生になったら、もう"金太くん"のことを"金太くん"って呼ばないよ。
  "白金くん"って呼ぼうと思っているの」
結花の脈絡のない話に、金太は困ったように頬をかいた。


「えーっ、いいよ・・なんか照れくさいしさ。俺は別に"金太"ってあだ名は嫌いじゃないんだぜ」
「でも、私がボーイフレンドを友達に紹介するときに、"白金くん"のほうがカッコいいもん」
「カッコイイって・・」
結花が突然現実的なことを話し始めたので、金太は戸惑ってしまう。
やはり、金太にとって、女の子の気持ちは謎そのものらしい。
金太はゴホンと咳払いをしながら、結花に話しかける。
「でもさ、拳一たちが結局俺のことを"金太"って呼ぶだろうしさ・・変わらないと思うぜ」
「いいの。結花にとって、今日から金太くんは特別な人になったんだもん。
  それに"金太くん"のままだと、"金太くん"の恋人は、ずっとマグナザウラーな気がするんだもん・・」
なぜか結花の声が突然小さくなる。
「えっ? いまなんて言ったんだ?」
「な、なんでもないもん。これは結花が決めたことだからね! 
  結花は"金太くん"の恋人じゃなくて、"白金太郎くん"の恋人になるんだから!」
「分かったよ。結花の好きなようにしてくれ。俺は俺だしな!」
そういうと、2人はニコッと笑いあう。
そして、ぎこちない格好ならがも、肩を寄せ合いながら丘を歩いていった。


最後まで読んでくださった方、ありがとうございました。相変わらず暴力描写が多くてごめんなさい。
随分前から、電気王×金太という陵辱小説を考えていたんですが、陵辱に飽きてきたのでシリアス系に変更して書いてみました。最初は、金太が電気王を1人で倒すという内容だったのですが、小説仲間の××さんから「結花も成長させてほしい」という意見をいただき、途中で金太と結花が協力して電気王を倒す内容に変更しました。その甲斐あってか、最後で結花が金太と共に死を覚悟するシーンや、マグナザウラーに焼餅を焼くシーンは、説得力がでたんじゃないかと思います。ただし、電気王の弱点や倒し方はかなり強引になりましたけど・・w (そうしないと金太が勝てないし)
エルドランは子供に機械を与えて自分はなにもしないという、エルドランシリーズの踏襲に基づき、最後までわがままで自分勝手な設定にさせてもらいました。電気王は復讐のために金太を殺しにやってくるという、ターミネーターのような恐ろしい存在なのですが、武人のような性格があるから、最後はもしかすると心を理解して金太を認めるのかなぁと。マグナザウラーに関しては、最初は登場させるつもりはなかったのですが、それだとあまりに冷たいロボットになってしまう。そこでエルドランの意思に叛いて、マグナザウラーだけは金太のことを理解していて、見守り続けている。そして、金太が成長することを願っていて、金太がすべての力を出しきったとき、彼は初めて目の前に現れるということにしました。ちなみにタイトルの「白金太郎小説」というのは、最後に結花が「白金君」と呼ぶ、つまり金太は「金太」を卒業して、「白金太郎」になるという意味でつけました。

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