この物語はパラレルとなります。本編の第17話「ユーミちゃん気をつけて」を参考に書いてみました。健太のどアホヒーロー小説(?)になる予定です。
登場人物
三沢健太。ユーミに思いを寄せる少年。
花園ユーミ。おてんばな少女で健太の気持ちに全く気づかない。
浮浪者。正体は袋小路さんの執事の国光だが、デブショタ専?
花園ダン吉。愛称"家元"でユーミの祖父。花園冒険流の家元で健太のことを気に入っている。
フラワータウンはどんよりと曇に覆われ、ここ数日雨が降り続いていた。
そんな暗い空を吹き飛ばすかのような、大人と子供のはしゃぎ声。
ユーミの家の中からだ。
「ヘーヘヘッ。スーパー健太、貴様の運命もそれまでだ!」
「そのセリフ、そのままお前に返してやるぞ! ダン吉デビル! どっからでも、かかってこい!」
「とりゃーーっ!」
手作りの赤いマントを羽織った健太。
一方、怪しいマスクをしたダン吉。
正義の味方VS悪の権化の、壮絶な戦いが開始されている。
壮絶といっても、ハリセンで叩き合っているだけなのだが。
(健太くんたち、ものすごい元気だなぁ・・)
正義の味方ごっこをする健太とダン吉を、半分呆れ顔で見ているユーミ。
狭い部屋で暴れる2人は、まるで親子のようだ。
あまりな元気な声に、描いていた絵の筆が途中で止まってしまった。
「ちょっと、健太くん。少しは静かにしてよ!」
「ユーミちゃん、これはね・・痛てて! 家元、離してよ!」
ダン吉にぎゅうぎゅうとコブラツイストを決められて苦戦する健太。
「なんじゃ、スーパー健太。もう降参か?」
「正義が悪にやられちゃ、なんにもならないじゃないか!」
「うるさい、勝てばこっちが正義なんじゃ」
「なんだそりゃ・・」
健太が"家元"と呼んでいる人は、ユーミのおじいちゃんのことで、"花園ダン吉"という。
花園流冒険家の家元で、跡継ぎを探しにユーミの家に居候中だ。
もっとも、冒険家といっても、何をしているのかは実際は不明なのだが。
かなりの老齢ではあるが、ターザンのように森を飛び回っており、かなり元気がいい。
しかし、健太とヒーローごっこをしている姿は、老人というよりは、子供にしか見えない。
ダン吉は、なぜか健太のことを気に入っているらしく、一緒に遊んだり、恋の悩みの相談相手になったりしていた。
相変わらず「えいやっ」とヒーローごっこを続ける健太とダン吉。
あまりの幼稚さに、ユーミはふぅと息をつき、健太に尋ねる。
「健太くん、一体その格好はなんなの?」
健太が着ている手製の赤いマントに、さすがのユーミも突っ込みたくなったようだ。
「これはね、僕が正義の味方っていう印だよ。見て分からないの?」
「ただ、赤いマント着ているだけじゃないの」
「だって、ヒーローは格好いいマントしてるじゃないか」
「健太くんが、ヒーローだなんて・・・アハハハッ」
急に腹を抱えて笑い出すユーミ。
あまりに笑いすぎて、涙を堪えている。
「そんなっ。ユーミちゃん、なんで笑うんだよ!」
「ハハハ。ごめんね。でも、健太くんはヒーローってよりは、ヒーローに助けられる側かもね」
「な、なにそれ?」
「ほら、正義の味方が現れる前に、縄で縛られて捕まっちゃう人いるじゃない。そういう人のことよ」
「ひ、ひどいよ、ユーミちゃん!」
口を尖がらせ、真顔で怒る健太。
しかし健太にとって、ユーミの言っていることが核心をついていることも否めない。
(たしかに僕は弱虫だけどさ・・・。
でも、僕だって、いざとなればユーミちゃんのことを守れるんだ)
そう心に言い聞かせながら、健太はヒーローごっこを続けていた。
・
・
あまりに暇そうなユーミを見た母親は、頼みごとをしようと声をかけた。
「ちょっと、ユーミ」
「なに? お母さん?」
「このバラ酒を、隣町のおばあちゃんのところに持っていってくれないかしら? 今日は店が忙しくって・・」
「えーっ!」
突然、面倒ごとを頼まれて、しかめっ面をするユーミ。
しかし数秒後、なにかを思いついたのか、にっこりと微笑んだ。
「うん。いいわよ」
「あら、今日はずいぶんと素直なのね」
「私、いつだって、素直でしょ」
いつもなら、確実に面倒臭がって頼みごとを受けないユーミだが、今日は違うようだ。
実は先日購入した赤いレインコートを早く着たい・・いや、見せびらかしたくて仕方なかったのだ。
今日は雨が降っているし、レインコート姿もバッチリ決まるだろう。
ユーミはそう考えていたのだ。
ユーミは部屋で支度をすると、階段をコツコツと降りていった。
そして、正義の味方ごっこをする健太の前で、赤いレインコートを颯爽と見せびらかす。
「どう? 健太くん?」
クルッと一回転するユーミ。
まるであかずきんちゃんのような、その可愛い姿に健太の目が釘付けになる。
「わぁ・・」
思わず感嘆の声をあげる健太。
「健太くん、どうしたの? なにか言ってよ」
「い、いや・・その・・」
健太は、両の人差し指をツンツンとくっつけて、なにやら頬を赤くしている。
どうやら照れているのか、うつむき加減だ。
「なによ、健太くん。この姿が気に入らないの?」
「そんなことないよ。ユーミちゃん、とっても似合ってるよ!」
「やっぱりそう思う?」
幸せそうに手を合わせるユーミ。
ユーミ自身は似合うと確信を持っていたレインコートだが、やはり他人の評価が気になっていたのだ。
実際に健太に褒められて、ユーミは有頂天な様子だ。
赤いレインコートに、バラ酒を入れたバスケットを持つユーミ。
まさに、可愛いあかずきんちゃん。
その姿を見て、健太は尋ねた。
「ユーミちゃん、雨が降っているのに、どこかに行くの?」
「うん。隣町のおばあちゃんの家まで、バラ酒を届けに行くの」
「だったら、僕も一緒にいくよ」
「健太くんが一緒に? どうして?」
首をかしげるユーミ。
「だって、危ないじゃないか」
「やだぁ、健太くんったら。まさか。襲われるとでもいうの?」
「オテンバのユーミちゃんだから、襲われることもないと思うけど・・」
その言葉に目尻を吊り上げるユーミ。
「なによ、いま、何て言ったの!?」
「いや・・その・・な、なんでもないよ!」
健太は困ったように頬を掻いた。
健太にとって、ユーミは一緒にいたい特別な女の子。
ユーミと一緒にいるだけで幸せを感じる。
いつから、そんな恋心が芽生えたのか、健太自身にも分からない。
今日は雨。
雨の中を、2人きりになれるシチューエーションを思い浮かべるだけで、ロマンチックな妄想がよぎる。
「今日の僕は、正義の味方なんだ。だから、ユーミちゃんを悪い奴らから守ってあげるね!」
「あははっ。まさか、健太くんが守ってれるの?」
「もちろんだよ!」
そういうと、健太は胸を張って、拳をギュッと胸の前にかざす。
そんな健太の心意気に、ユーミはクスッと笑う。
「じゃ、スーパー健太くんに守ってもらおうかな・・?」
「ほ、本当? ユーミちゃん?」
「(あんまり頼りにならないけど、まぁいいか)」
「え、ユーミちゃん、なにか言った?」
「いや、なんでもないわ。一緒に行こうね!」
そのままユーミは、健太の腕を握る。
ユーミに腕を握られただけで、ポッと赤くなる健太。
「何してるの、健太くん。早くいきましょ!」
「ちょ、ちょっとユーミちゃん、まだ準備が・・」
「準備なんて、別にいいじゃないの!」
自分が「こう」と決めたら、ユーミは行動が早い。
相変わらず、健太に対するわがままぶりは、度を超して凄まじい。
あっという間に健太を外に連れ出されてしまった。
・
・
──シトシトと雨が降る中に、傘が2本。
それは、赤い傘と青い傘。
2本の傘は、寄り添ったり離れたりしながら、ゆっくりと道を歩いていた。
フラワータウンからしばらく歩くと、やがて人もいなくなり、森道へと入る。
クネクネと曲がった森の小道。
「隣町まで、随分と薄気味悪い森が続くのね・・」
「うん・・。ユーミちゃん、大丈夫?」
「ちょっと怖いけど、健太くんがいるから、平気よね?」
「そうだよ、任しといて!」
「ところで健太くん? なんでまだ赤いマントしてるの?」
その言葉に、健太は驚いて自分の背中を振り向く。
(げげ、まだマントしていたんだ・・)
「ユーミちゃんが慌てて出かけるから、そのままにしちゃったじゃないか」
「なによ、健太くん。私のせいだっていうの!?」
「いや、違います・・」
「せっかくだから、そのままにしておきなさいよ!」
「そんな・・・」
健太自身、マントのことは気がつかなかったのだが、街をこの格好で歩いていたと考えると、かなり恥ずかしい。
(もう、ユーミちゃん早く言ってくれればいいのに!)
少しだけ、頬ぺたをプッと膨らませる健太。
森が深くなると、雨も届かなくなり、傘をささなくても問題ないようだ。
2人は傘を閉じ、顔をニコッと見合わせながら歩いていた。
その姿はどこからみても、小さな恋人同士だ。
健太は、ユーミと雑談をしながら恋人気分を満喫していた。
(雨の中をユーミちゃんと歩けるなんて・・幸せだなぁ・・)
鼻の下を伸ばす健太。
しかし、突然・・。
──ゴソッ。
なにか草むらから怪しげな音。
「ユ、ユーミちゃん、いま変な音しなかった?」
「気のせいよ」
「いや、でも・・・」
「健太くん、怖いんでしょ?」
「そ、そんなことないよ!」
──ゴソッゴソッ!!
草むらが揺れたかと思うと、なにやら怪しい人影が現れた。
「ひぇ!」
健太は慌てて、ユーミの後ろに隠れる。
健太が恐る恐るユーミの肩から、前方を覗いてみると・・。
そこには、サングラスにヒゲを生やした怪しい男。
黒い帽子に、黒いマント。全身黒ずくめだ。
浮浪者・・なのだろうか?
健太は喉をからからにしながら、必死に叫んだ。
「だ、誰だ、お前は!」
すると、男は陰湿な声で話しかけた。
「こんにちは。実はおじさん道に迷ってしまったたべ・・。散々歩いてしまって喉が渇いてしまって・・。
そのバラ酒、いや持っているビンの中身を一口飲ませてもらえないかのう・・?」
なにやら、長い理屈をつけているが、ユーミの持っているバラ酒を飲みたいらしい。
ユーミは、バスケットを隠しながら叫んだ。
「これは、おばあちゃんに届けるものだから、ダメよ!」
「なんだと・・素直によこさなねぇか!」
「い、嫌よ!」
「クソッ、こうなれば力ずくでも・・!」
浮浪者は両腕をあげて、ユーミに襲い掛かろうとした。
まるで、狼があかずきんに襲い掛かるように・・。
国光さんが単なる変態ですね・・。格好が変態だからいいか。