バンソウコウだらけの顔で、登校した太一だったが・・?
登場人物
亀山太一。16歳の高校一年生。デブで運動神経が悪いため、クラスで友達もいなく、疎んじられている。
──放課後。
先生にも顔のバンソウコウを笑われたが、それ以外は特に変わったことはなかった。
ジッと耐えていれば、一日の授業なんてあっという間に過ぎる。
学校なんて、その繰り返しだ。
太一は教室から解放され、うつむき加減で校門に向かって歩いていた。
<亀山〜>
後ろから嫌な声がする。
太一がゆっくりと振り向くと、
そこにはいつもクラスで太一をからかっている、茶髪の2人組がいた。
<亀山ちゃ〜ん>
「・・・」
<その顔、マジで何? ちょっとウザいんだけどさー>
「ご、ごめんね・・」
この手の不良は、ヘタに反抗すると余計に絡んでくる。
だから、いつも「ごめんなさい」と謝って、ただ下を向いて黙っているのが一番いい。
しかし、今日の茶髪の2人組は、いつもよりもしつこく絡んでくる。
<そのバンソウコウって、何のケガだよ?>
「・・・」
<なんか言えよ、亀ブタちゃん>
「えっと・・その・・階段から、転げ落ちて・・」
<体重が重すぎて、転げ落ちたのかよ、アハハハ!>
「・・・」
人との付き合いが苦手な太一は、早歩きで立ち去ろうとする。
逃げようとする太一。
だが茶髪の2人組は、太一の行く手を阻むように、前後から太一を挟み撃ちにする。
<亀ブタ! ウソつかないで、本当のこと言えよ>
太一の髪の毛を掴んで、ぐしゃぐしゃに撫でる。
そして、ムリヤリに肩を組まされる。
<相変わらず、いい肉してるじゃん>
「やめてっ・・」
<キャハハ、コイツの腹、すっげーいい感触>
望みもしないのに、わき腹の肉をつままれる。
<俺たちの仲じゃん。教えてくれよ。その顔どうしたのかさ>
鬱陶しい。
毎日を平穏に生きたいと考える太一が、一番嫌いなタイプの人間だ。
しかし太一は黙って、コイツらがどこかに行ってくれるのを我慢するしかない。
<おい、なんか言えよ。なにやってもダメでグズな亀ブタ!>
「くっ・・」
その言葉に、太一は一瞬目を吊り上げる。
しかし茶髪たちは、太一の気持ちなど知らずに、
太一のわき腹の余った肉を、ぎゅうぎゅうと摘んでくる。
<おい、お前ら! 太一に何しやがる!>
突然、校庭に大声が響き渡った。
低くて、野太い声。
太一は、顔をみなくても誰だかすぐに想像がついた。
<やべぇ、大魔神の大二郎だ!! 逃げろ!!>
茶髪の2人組は、その声の主に相当に恐れをなしているのか。
這い出さんばかりに慌てて逃げ出した。
ホッと一息つく太一。
そのままゆっくりと、校庭の端にある道場の入り口に振り向いた。
(ふぅ、助かった・・)
そこには、太一よりもかなり恰幅のいい、大きな柔道着の姿の男。
太一はにっこりと微笑む。
そのまま、大きな男の立っている道場の入り口に歩いていった。
安堵した表情を浮かべて。
「いつもありがとう」
「またイジメられてたのか?」
「ううん、そんなんじゃないよ」
「あの茶髪の野郎、もう一回シメてやらねーとな」
「そこまでしなくてもいいから・・」
太一は思わず、苦笑いをする。
──権藤大二郎(ごんどう だいじろう)。
小学校からの知り合いだ。
僕は「大(だい)ちゃん」って気軽に呼んでる。
他のみんなは、「大魔神」とか「鬼の大二郎」とか呼んでいて、恐れているみたいだけど・・。
大ちゃんと僕は幼馴染なんだけど、すごい仲が良いというわけでもない。
実は、大ちゃんとは友達なのか、自分でもよく分からない不思議な関係なんだ。
小さいときは一緒に遊んでいたけど、いま違うクラスで、会話をすることも少ない。
単に、中学も高校も一緒なだけ。
でも、僕がイジメられているときに、突然現れて僕のことを守ってくれる。
僕とっては、ヒーローのような憧れのような存在かな・・。
不良を怒鳴っただけで追い払えるなんて、ものすごいカッコイイ。
僕はクラスで友達がいない。
おまけに、デブでノロマで運動神経も悪いから、クラスのみんなに鬱陶しく思われている。
僕が廊下を歩くと、床が抜けるとからかわれるし、イスに座ると壊れると笑われる。
普通なら、毎日陰湿なイジメに遭っていただろう。
でも、僕があまりイジメられていないのは、すべて大ちゃんのおかげなんだ。
もし、大ちゃんが僕のことを守ってくれなかったら、
僕の高校生活は、考えるのも嫌なほどユウウツなものになっていただろう。
もしかしたら、学校に行くことも、気が滅入ってやめていたかもしれない。
大ちゃんは、見た目は決して優しそうには見えない。
眉毛が太くて、イカつい表情をしていて、いつも怒っているように見える。
だから、「大魔神」なんてあだ名をつけられるんだろうけど・・。
それに言葉遣いも、お世辞にもいいとは言えない。
かなり粗暴だ。
でも、僕はそんなぶっきらぼうな大ちゃんが好きだ。
大ちゃんは、本当はとっても優しい人間なんだ。
だって、弱虫の僕のことを、いつも守ってくれる。
大ちゃんがそばにいるだけで、とても安心できる。
それに、大ちゃんが声をかけてくれて、僕の肩を触ってくれるだけで、なぜかちょっとドキドキするんだ。
次回をお楽しみに。←ォィ