太一くん小説(3)


大二郎に助けられた太一だが・・?


登場人物

亀山太一。16歳の高校一年生で、デブで運動神経が悪いために、クラスから疎んじられている。


大(だい)ちゃんは、小学生のころから人一倍体が大きくて、力も強かった。
いわゆる、クラスのガキ大将のような存在で、誰も大ちゃんには逆らえなかった。
高校に入ってから、さらに身長が伸びて、いまは175cm以上はあるのかな?
僕よりも頭1つ分は大きい。
髪の毛は、ボサボサにしているけど、下半分は刈り上げていて、スポーツマンっぽい感じを出している。
大ちゃんは、横幅もけっこうあって、デブなんだけどガッチリしている。
柔道をするには、ちょうどいい体型っていえばいいのかな?
僕は脂肪がついた不健康な太り方だけど、大ちゃんの太り方は筋肉と脂肪がバランス良くついている。
中学生のときに、たまたま健康診断で大ちゃんの上半身の裸を見たときは、
 ドキッとするほど胸の筋肉が逞しかった。カッコイイ胸板ってああいうのを言うんだろうなぁ。
僕もあんな風に逞しければいいのになぁ・・。
口には出さないけど、僕は大ちゃんに憧れてるんだ。



太一は大二郎ににっこりと笑いかけて近づく。
すると、大二郎は突然、驚いたような声をだした。
「どうしたんだ、その顔のバンソウコウは!? まさかアイツらにやられたのか?」
「ち、違うよ」
「じゃ、そのアザはなんなんだ?」
「そんなに大声出すと、みんなに聴こえちゃうから・・・」
「かまいやしねぇ。言ってみろよ!」
「と、とりあえず、道場の裏で話そうよ・・」
「なんでだ?」
「いいから、早く!」
太一は、大二郎の背中を力一杯押して、道場の裏へと連れて行く。
どうやら大二郎は、太一とは違って、人生を平穏に生きようなんて発想はこれっぽっちもないらしい。
太一が目立つことが嫌いな性格は分かっているはずなのに、全員に聴こえるような大声を出す。
おそらく、根っからそういう性格なのだろう。


道場の裏に、隠れるように駆け込んだ太一と大二郎。
大二郎は山のような大きな体で、太一を見下ろす。
そして、尋ねてきた。
「太一、早くそのケガを説明しろよ」
太一がなかなか切り出さないのが不満なのか、大二郎は少し口を尖らせていた。
腕組みをして、ちょっぴり怖い顔だ。
しかし、太一は大二郎に対して臆することもなく、少し照れながら話しかけた。
「なんか久しぶりだね。大ちゃんとこうやって面と向かって話すのは」
「そんなことはどうでもいい。その顔はどうしたんだ?」
「実は、ボクシングで殴られちゃって・・えへへ」
「太一がボクシング?」
「うん。ちょっと痩せようと思って・・」
太一の言葉に、大二郎はなぜか少し目尻を吊り上げた。


大二郎は怒ったような口調で話してかけてきた。
「どうしてボクシングなんか始めたんだ?」
「えっ?」
「ボクシングなんて野蛮だろ。すぐにやめるんだ」
「違うよ。ボクササイズっていう痩せる運動のために・・・」
「痩せる必要なんてないだろ」
「痩せないと、クラスのみんなにイジメられるし、妹の美香も口を聞いてくれないし・・」
「太一がイジメられたら、俺が殴り返してやる。いつもそうだったじゃないか」
「う、うん・・でも・・」
「でも、なんだ?」
「いつまでも、大ちゃんに助けてもらうことはできないから・・」
「バカヤロッ。忘れたのか?」
「え?」
「俺は約束しただろ。ずっとお前のことを守ってやるって」
「う、うん・・」
大二郎の力強い言葉に、太一はなぜか心がドキドキとした。
そして、両手をこすり合わせてモジモジしながら、大二郎からスッと視線をそらした。


太一はしばらく黙っていたが、再び大二郎のことをゆっくりと見上げた。
そしてニコッと笑いながら、言葉を続けた。
「僕はボクシングを嫌々やっているわけじゃないよ」
「どういう意味だ?」
「そりゃ苦しいし、痛いこともあるけど、汗をかいたあとのご飯は最高においしいんだ」
「・・・」
大二郎は、太一の言葉になにやら眉をひそめている。


大二郎はその大きな手で、太一の両肩をギュッと鷲掴みにした。
「太一!」
「大ちゃん、痛い・・」
「お前はボクシングなんてする必要ないんだ。ケガしたらどうするんだよ」
「でも・・」
「誰がボクシングをやらせたんだ!? お前の妹か?」
「違うんだよ、大ちゃん」
「なにが違うんだ?」
「僕、生まれて初めて、自分の意思でやろうと思ったんだ」
「ウソつけ!」
「ウソじゃないよ。ボクシングジムには、蔵田さんっていうトレーナーがいて、
  僕にボクシングを教えてくれるんだ。だから、安心してボクシングできるし・・・。
  それにボクシングでかいた汗はとっても気持ちよくて、
  夜はたくさん眠れるし、この間も遅刻しそうになっちゃって・・」
すると、大二郎は唾が飛ぶような大声で怒鳴ってきた。
「トレーナー!? 蔵田? ふざけんなっ!!」
「ひぃっ」
激怒して声を荒げる大二郎に、太一の表情は凍りついた。


いつも、笑顔で接してくれる大二郎。
だから、突然の怒声に、太一は驚いて涙目になった。
大二郎が怒る顔をみたのは、小学校のとき以来だろうか?
いや、大二郎が本気で怒ったのは、初めてかもしれない。
(大ちゃん、どうして怒ってるんだろう・・?)
太一には、大二郎が怒る理由がさっぱり分からなかった。
太一にとって、ボクシングは初めて自分の意思でやろうと決めたもの。
初めて、がんばろうと思ったもの。
まさか大二郎が、ボクシングに挑戦したことを怒るとは思わなかった。
大二郎ならば、がんばろうとやる気になった自分を、褒めてくれると思ったのに・・。


しばらくして、大二郎は僅かに震える太一の肩を、もう一度しっかりと掴んだ。
そして、視線をしっかりと太一に向ける。
「す、すまん・・・ごめんな。太一」
「大ちゃん・・?」
「でも、お前ががんばる必要はないんだ」
「大ちゃんも、僕ががんばるのを許してくれないの?」
「がんばるなら、ボクシングじゃなくて、もっと他にやることがあるだろう?」
「う、うん・・でも・・」
「約束だからな。俺がお前を守ってやる。だからボクシングなんて危険なことはするんじゃねぇぞ!」
キッパリと断言した大二郎は、背を向けて道場の入り口に向かって立ち去っていった。
その背中は、大きくて逞しくて、凛々しい感じがして・・。
太一はその背中を、ただ見つめるだけだった。
どうして大二郎が怒ったのか、理由も分からずに。


次回をお楽しみに。

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