千太君小説(7)


登場人物

千太キュンです。

山田さんです。

目の前に見知らぬ天井
そして僕はベッドの上
ここは病室か・・
「過労ですね」
声のほうに顔を向けると医療班の先生がいた
「鈴木さんが大騒ぎで運んできたときは何事かと想いましたが」
「えっ!鈴木さんが!」
思わず勢いよく起き上がる
「ええ、海野くんと一緒に」
「あぁ、千太と・・一緒」
ベッドに身を戻す
当たり前じゃないか、何を期待しているんだ僕は
胸がキュッと縮む感覚
僕はシーツをかぶり目を閉じた
もう、夢は枕の上でしか見れない


「山田さん大丈夫でしょうか?」
ボクは鈴木さんに話し掛ける、あんなことがあったから何か意識しちゃうよ
「山田漁太は男の子、過労くらい大丈夫だよ」
「はい」
「それにしても二人で何をしてたんだい?」
「え?えーと・・」
「・・・」
「その・・」
「床に散らばったコロッケの中に食べかけのが一つ、そこに倒れている山田・・てっきり千太が一服盛ったのかと思ったよ」
「そんなことないですよぅ」
「アハハハ、冗談だよ」
「ボク、コロッケにそんなことしません!」
「そっちかいっ」
そう言ってボクの頭をポンポン叩く、ちょっと気が楽になったな
あぁ暖かい手、鈴木さんの気遣いに心も温かくなってきたよ
「でもボク、山田さんにひどいことをしたのかも・・」
「山田なら大丈夫、つきあいが長いから分かるよ」
「・・はい」
「それにすごい頑張りでこの艦の一員になったんだ、707乗りの名は伊達じゃないよ」
「信じてるんですね」
「いや、“信じてる”じゃなくて“信頼してる”だよ」
あれ、何だろ、いま胸がチクって・・
「それに信頼してるだけじゃなくて−−−」
それを聞いたボクは思わず鈴木さんの手をとって走り出したんだ


山田さんの病室
山田さんは・・寝ている
「おい千太、いったいどうしたんだい?」
「さっきの話、山田さんに聞かせてあげてください」
「えーーー、眠ってるしまた今度な」
「ダメですよぅ、こういうことは眠っていても伝わるものなんです!」
「今ここでかい?」
「はい、ボクが山田さんのこと信じてるんですねって言ったら何て言いましたっけ?」
「“信じてる”じゃなくて“信頼してる”って」
「そして?」
「それに信頼してるだけじゃなくて、山田のことを・・」
「ことを?」
あれ、また胸がチクってした
「・・はい、ストップ」
「えー何でですかぁ」
「これ以上先は山田が起きてるときに言うべきだよ」
「・・・」
今度は胸がギュッて・・
「はい撤収っ、行くよ千太」
「・・はーい」
ボクは帰り際、山田さんに向かって一言つぶやいた
「ボクはあなたがうらやましいですよ」


僕は千太がずっと羨ましかった
どんな形であれ誰からも必要とされていた千太が
でも今、千太は僕を羨ましいって言った

僕はずっと起きていた
寝ようとしてもとても眠れなかったから
そしたら二人が入ってきて・・
「鈴木さんは僕のことを・・」
今ようやく分かった
鈴木さんが僕を見てくれなくなったんじゃない
僕が鈴木さんを見なくなっていたんだって

「僕は何やってたんだ・・」
僕にはまだ帰れるところがあるんだ、こんなにうれしいことはない

「ハハ・・アハハ・・ハ」
僕はうまく笑えているかな?
僕は・・僕は笑いたかったんだ

「あっ」

僕の涙は涸れてなんかいなかった


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