さらなる強敵に対し、ヤジロベーはいかに?
登場人物
ヤジロベー。刀をもった大食漢で、ジャングルで風来坊な生活をしている。
ドラム。ピッコロ大魔王から生み出された戦士タイプの魔族。怪力だが俊敏な動きをする。
シンバルは虫の息で、呟いた。
『ヘヘッ、やっと援軍がきたぜ』
「な、なんだと!?」
ヤジロベーが慌てて振り向くと、そこには緑色をしたバケモノが立っていた。
この世のものとは思えない不気味な姿から、
後ろに立っているバケモノが、シンバルの仲間であることは容易に想像がついた。
(こりゃまた、ずいぶんとゲテモノが来ただ・・)
格好はドラゴンタイプのシンバルよりは、人間に近い。
背の高さはヤジロベーの倍ほどあり、横幅も相当にある。
肌はウロコな模様があり、いかにも硬質な感じがする。
かなり太っており、動きは鈍そうだ。
しかし、シンバルの俊敏さを考えると、"魔族"というヤツらは見た目では判断はできないなと、ヤジロベーは思った。
「いちおう、聞くけんど、誰だおめゃ〜は?」
ヤジロベーが尋ねても、その緑色の巨人は黙って腕を組んでいる。
「おめーも、魔族とかいう田舎の部族だな?」
『フニョニョ。俺様の名前はドラムだ』
「ドラム? 変わった名前だんな」
『シンバルもだらしないぜ。まさかこんなチビでデブな野郎にやられるとは』
『くっ・・うぬぬ・・』
その言葉を聞いて、シンバルはグッと唇をかみ締める。
ヤジロベーはシンバルのお腹からヒョイと飛び上がり、ドラムの方向へ歩を進めた。
不敵に笑うドラムの体を、ジッと観察してみる。
全身が贅肉にしかみえない、動きが鈍そうな緑色のバケモノ。
しかし、雰囲気がシンバルとは何か違う。
ヤジロベーには、なんとなく分かるのだ。
コイツも、かなりの強敵だと。
だが、不思議と勝ち目がない相手のようにも思えない。
「おめゃーも、あんまりうまそうじゃねぇな。焼かねーと、まずそうだに」
『ムヒョヒョ。まさかこのドラム様に勝つつもりなのか?』
「あたりまえでしょー!」
『俺様は魔族の中でも、戦士タイプだ。シンバルと一緒にしてもらっては困るぜ。このデブが!』
「デブじゃない! おめぇのほうが、よっぽどデブでしょーが! あー頭くるだ!」
『ムヒョヒョ、このデブ! デーブ!』
「だからデブじゃない! 俺様はジャングルの貴公子、ヤんジロベー様だ!」
『アルマジロか』
「こんのやろう、わざとらしく間違えやがって!」
『フヒョヒョ。その首から垂らしているボールをよこしな。
そうしたら殺すのだけは勘弁してやるぜ。ただしたっぷりと痛めつけるがな』
「うるせー。お前も刺身にして食ってやる!」
『よほど死にたいらしいな』
ヤジロベーは、ドラムを正面にとらえて、フーッと息を吐く。
ゆっくりと武術の構えに入る。
ヤジロベーの格好を見て、ドラムも攻撃の態勢に入った。
「たりゃーっ!」
先に仕掛けたのはヤジロベーだった。
地面を蹴り飛ばして、猛スピードでドラムに近づく。
そして、得意のパンチとキックを連続でドラムに打ち込んだ。
(ほう、人間のくせに速いな)
ドラムは、ヤジロベーの俊敏さに驚いたが、難なく攻撃を両手で受け止めていく。
「とりゃ、たぁ!」
『フン、この程度の攻撃が、ドラム様にきくか!』
ドラムはヤシロベーのパンチをすべて受けきった後、背後にスッと回り込む。
『ヘーヘヘッ。背後をとったぜ』
「うわわっ!」
『死ねぇぃ!』
ドラムはヤジロベーの背中に、ハンマーのようなパンチをぶち込んだ。
グギッとかボギッという、背骨が軋む音がする。
「うぎゃっ!!」
『ハーハハッ、モロに決まったぜ!』
ヤジロベーは、軽く数メートルは吹っ飛ばされる。
そのまま地面に、大股開きでバッタリと倒れた。
ピクリとも動かない。
ドラムは薄ら笑いを浮かべて、ヤジロベーを眺めた。
『ムヒョヒョ。あっという間に勝負がついてしまったか。人間など所詮はこんなものよ』
全く動かないヤジロベーを見て、ドラムは勝利を確信する。
どんなに人間が進化しようが、魔族の力を凌駕することなどあり得ないのだから。
人間の行き着くレベルなど、たかが知れているのだ。
ドラムは、天を向いて倒れているたヤジロベーに、ゆっくりと歩を進めた。
そして、ヤジロベーのかたわらにしゃがみこむと、首にかけているボールに視線を向ける。
『これがドラコンボールか。まったく世話かけさせやがって』
ドラムがヤジロベーから、ボールを奪おうと手を伸ばしたとき・・。
『ほんげっ!!』
ドラムの体中から冷や汗が垂れた。
こともあろうに、ヤジロベーの短い足が、ドラムの下腹部を真下から直撃していたのだ。
『があ・・あっ・・そんな・・卑怯な・・』
「魔族にも、チンチンあるだか?」
『あるわけな・・がっ・・はっ・・・』
ドラムはヤジロベーが即死したと、油断していた。
なぜなら、先ほどの一撃は、普通の人間ならば軽く背骨をへし折り、内臓を潰すのに十分な威力だったからだ。
──生きているわけがない。
そう決め付けてしまったのが、ドラムの大きな誤算だった。
ヤジロベーは、ドラムへ下腹部の一撃を決めると、ニッと笑う。
「おんめー、パワーはすごいけど、頭は悪いだな」
『はっ・・うっ・・』
「いまの攻撃で、おめぇの強さがだいたい分かったぜ」
『なんだと・・』
「今度はこっちの番だぎゃ!」
ヤジロベーは素早く起き上がると、ドラムのみぞおちに強烈なキックを連続してぶち込んだ。
ドラムの脹れたお腹が、グシャッと潰れる。
『グワッ! オエエエッ!!』
胃液のようなものを吐き出すドラム。
「おめーはまずそうだから、スープにでもすっかな!」
そのまま、左右のパンチの連打を浴びせ、さらに膝を顔面にぶち込む。
ヤジロベーはさらに連続で攻撃を加えていく。
「たりゃ」とジャンプすると、そのままシンバルの顔面を思いっきり蹴飛ばした。
──グエエエエッ!!
ドラムは、あっという間に地面に打ち据えられた。
腹を押さえて、バッタリと倒れたドラムを見て、ヤジロベーは両手をあげてバンザイする。
「ざまぁみりゃ、バカきぃ!」
『ぬぐぐ・・・』
「魔族ってのも、案外弱いんだべな。どこの田舎の部族だ?」
『クソッ、魔族をバカにしおって・・!』
「このヤジロベー様が強すぎるんだな。うん、そうだ、そうに決まっとる」
ヤジロベーの言葉に、ドラムはグッと唇を噛み締める。
不意の一撃を喰らったとはいえ、たかが人間のガキにやられるなど、悪い夢を見ている気分だ。
ヤジロベーは、ゆっくりと刀を抜く。
「さてと、どっちから料理するかな。こっちのほうがまずそうだから、スープにするか」
ヤジロベーは脇に差している刀を、ドラムの顔前にチラつかせる。
そのとき、倒れているドラムから声がした。
『おい、待て・・』
「なんだ? てめーまだ喋れたのか?」
『俺様を殺したら、次はピッコロ大魔王様が、お前を殺しに来るぞ』
「ピッ、ピッコロ?」
『そうだ。俺様はなんと、あのピッコロ大魔王様の手下だ』
「へっ?」
『ピッコロ大魔王様がじきじきにお前を殺し、そのボールを奪うだろう』
「ピッコロって、どこかで聞いたことあるような・・」
ヤジロベーは、ドラムの意味深な発言に、しばし考え込んだ。
「ピッコロ大魔王、聞いたことある名前だ・・。俺が小さい頃、たしか昔話で・・・」
そのとき、ヤジロベーの記憶の奥底にあった話が、電気信号のようにつながった。
「げげっ、思い出した! うわわわっ」
ヤジロベーは急にオドオドしだし、体が震えだした。
ピッコロ大魔王といえば、その昔、全世界を恐怖のどん底に陥れた大悪党だからだ。
シンバルやドラムが、いままで見たこともないバケモノだったのも、
彼らがピッコロ大魔王の手下であると考えれば、納得がいく。
本当にピッコロ大魔王がやってくれば、命がいくつあっても足りないだろう。
「あわわわっ・・」
『ヘヘッ、ピッコロ大魔王様の名前は知っていたようだな』
「はい、知ってます、まさか本当にあのピッコロ大魔王の・・?」
『そうだ。魔族とは、ピッコロ大魔王様の一族のことだ』
「どうりで、普通の人間とは違うバケモンだと思ったら・・まさかピ、ピッ、ピッコロ大魔王の・・」
『フフフッ』
まさかの真実を知り、ヤジロベーは背筋にぞっと寒気が走った。
次回予告
ヤジロベー「こいつら、あのピッコロ大魔王の手下らしいぞ・・。こりゃまずいことになっただ。なんとか許してもらえねーだろうか・・」