ヤジロベーVS魔族(4)


ドラムとシンバルがピッコロ大魔王の手下だと知ったヤジロベーはいかに・・?


登場人物

ヤジロベー。刀をもった大食漢で、ジャングルで風来坊な生活をしている。

シンバル。ピッコロ大魔王から生み出された魔族。太っているが動きは俊敏。手から雷を放出する。

ドラム。ピッコロ大魔王から生み出された戦士タイプの魔族。怪力だが俊敏な動きをする。


──ピッコロ大魔王。
はるか昔、全世界を恐怖に陥れたという、史上最悪の殺人者。
どんな武道家も敵わないほどの絶対的な力を持つという噂だ。
シンバルとドラムが、ずいぶんと人間とは違う姿をしているのもそのためだろうか。
ヤジロベーにとっては、悪夢と思いたい事実。
顔を引き攣らせながら、しどろもどろでドラムに話しかける。
「ほ、本当にピッコロ大魔王の・・?」
『フフフッ、よくも魔族の誇りにキズをつけてくれたな』
「キズをつけるなんて、滅相もない」
『魔族を田舎者呼ばわりしていたな?』
「そげなこと言うわけないでしょ〜。立派な都会の部族だがや」
『チッ、貴様、口は達者のようだな。それがジャングルで生き残るコツなのか?』
「そんなことあるわけないでしょー」
その場をごまかそうと、ヤジロベーは額に汗を浮かべながら受け答えする。


『さっきはよくもやってくれたな』
後方から意地の悪い声がする。
ヤジロベーが振り向くと、先ほど虫の息だったシンバルが、立ち上がっているではないか。
ピッコロ大魔王の手下というだけあって、回復は相当に早いらしい。
シンバルは、大きな翼を広げて、ノシリノシリと重たい体を近づけてきた。
『このデブめ!』
ヤジロベーは、体を僅かに震わせながら返事をする。
「あ・・あの・・さっきは悪かったでな。俺、知らなかったモンで・・」
『知らなかっただと? このシンバル様をコケにしやがって』
「こ、こ、このボールあげるから許してちょ」
ヤジロベーは急いで首から垂らしているドラゴンボールを、はずそうとする。
『貴様、俺様のプライドをズタズタにしおって。どうなるか分かってるんだろうな?』
「いや、その、どうなるだべな、ハハハ・・」
ヤジロベーが答えに窮していると、隣で倒れていたドラムも、ゆっくりと起き上がった。
前後から挟みうちにされて、表情が凍りつくヤジロベー。
とりあえず、手のひらを顔の前に差し出し、無抵抗な仕草をしてみる。



「みなさん、そんな怖い顔せんと・・・」
ドラムは怒ったように言葉を返す。
『おい、アルマジロ!』
「ヤジロベーですだ」
『よくもやってくれたな』
「へへへ、冗談で殴っちまったきに、痛かった?」
『俺がテレパシーでピッコロ大魔王様に呼びかければ、すぐにやってくるぞ』
「ひぃええ! 俺、ピッコロ大魔王様を尊敬しとだがに。だから許して・・」
ヤジロベーの発言を聞いて、ドラムはニンマリと笑みを返す。
なにか妙案を思いついたらしい。
『そんなに許して欲しいか?』
「も、もちろんです」
『ムヒョヒョ。では、魔族の誇りにキズをつけた罰として、制裁を受けてもらおうか。そうしたら許してやるぜ』
「制裁って・・?」
『魔族の制裁は2つある。どちらか好きなほうを選べ。
  1つ目は、<半殺しのコース>だ。貴様をなぶり殺しにする。
  2つ目は、<恥辱ちじょくのコース>だ。貴様の体にある液体をいただく。さぁ、どっちがいい?』
「体の液体・・? ち、ちじょく・・?」
一体、何のことか理解できずに、必死に頭を巡らせるヤジロベー。


(液体ってなんだ・・。体にある液体・・液体・・。
 そうかー、わかったぞ! 魔族のヤツら、俺の血を吸い取ろうっていうことだな。そうに決まっとる)
魔族とは、人間の血が好物なドラキュラのような存在なのだとヤジロベーは思った。
体の血ならば、多少吸われたとしても、死には至ることはないだろう。
これ以上、痛い思いをしなくても済みそうだ。
(なんだか分からんけど、ラッキーだな。血を吸われる程度で済むだべ)
ヤジロベーはドラムに向かって話しかける。
「じゃ、<恥辱のコース>ってほうでお願いしますだ」
『フヒョヒョ。実は俺様は、お前のようなデブが大好物でな』
「へ?」
『先ほどからチラチラ見えている、赤いフンドシが気になってるんだぜ。たっぷり恥辱にまみれるがいい』
「なんのことか分からんけんど、ホレ、腕だすから血を吸えや」
ヤジロベーは、自慢の太い二の腕を、ドラムのほうに差し出した。


ドラムはけげんな顔をして、ヤジロベーに尋ねる。
『貴様、なにをしている?』
「だから、この腕から血を吸ってちょーだい」
『ハーハハ、なにか勘違いしているようだな』
「勘違いもなにも、液体っていったら、血しかないでしょーに」
『ムヒョヒョ。俺が欲しいのは血ではない。血を吸ったところで、恥辱が与えられるわけなかろう』
「・・?」
ドラムの言っているが分からずに、頭にひねるヤジロベー。
あれこれと考えて見るが、やはり意味が分からなかった。


そのとき、静観していたシンバルが、突然横からヤジロベーに話しかけてきた。
『おい、ジンジロベー!』
「ヤジロベーですだ。今度はなんですか?」
『このシンバル様の要求は違うぞ。
  お前にやられた屈辱を晴らすために、<半殺し>と<恥辱>の両方をさせてもらう。お前に選ぶ権利はない』
「な、なんだぎゃ、そりゃ!?」


『ドラムは<恥辱のコース>で許したが、この俺様は納得がいかないのでな』
「そ、そんなー! いっとることがムチャクチャだがや!」
『ムチャクチャなもんかい』
「ムチャクチャだがや! どっちか1つにしてけろ」
『ピッコロ大魔王様に、いまテレパシーで報告しても構わんのだぞ』
「うっ・・それだけはご勘弁を・・」
『よしよし。それでいい。たっぷりと可愛がってやる。ジンジロベーめ!』
不当とも取れるシンバルの要求に、唇を噛み締めるヤジロベー。
(コイツら、このヤジロベー様をよってたかって・・。
  そうだ、逃げるだ。逃げるが勝ちだぎゃ。ヤバイことにこれ以上関わる必要はないだぎゃ!)
ヤジロベーは2匹の様子を見ながら、隙をうかがった。


次回予告
ヤジロベー「なして半殺しまでされなきゃいかんのだ。こうなったら逃げるだ。絶対に逃げるだ!」

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