ヤジロベーVS魔族(6)


シンバルとドラムの猛攻に耐え抜くヤジロベーだが・・?


登場人物

ヤジロベー。刀をもった大食漢で、ジャングルで風来坊な生活をしている。

シンバル。ピッコロ大魔王から生み出された魔族。太っているが動きは俊敏。

ドラム。ピッコロ大魔王から生み出された戦士タイプの魔族。怪力を持つ。


ヤジロベーは意識が朦朧とする中、ようやくまぶたを開いた。
シンバルとドラムが、上下逆さまになって、こちらに近づいてくる。
いや、正確には違った。
自分が岩に叩きつけられて、まるで逆立ちするような格好になっていたのだ。


(俺、ほんの少し気を失っただか・・?)
背中に強烈なキックを喰らって、吹っ飛ばされたところまでは覚えている。
そのあと、どうやら数メートル飛ばされて、岩に激突したらしい。
(こんなブザマにやられたのは・・・何年ぶりだべか・・)
徐々に大きくなるシンバルとドラムの姿をみながら、ヤジロベーはふとそんなことを思った。


(ま、まずいだ・・このままじゃ殺される・・)
ドラムは"<恥辱のコース>で許す"と言っていたが、いまとなっては虚しい口約束に思えた。
きっと魔族のことだ、自分を最終的には殺すに違いない。
(ちくしょう、こんなことになるんなら、アイツらにトドメさしておくべきだったな。
  それに、もっとうまいもん食っておけばよかったぜ・・・)
実際、ヤジロベーは実力的にはシンバルとドラムを圧倒していた。
ピッコロ大魔王だって、もしかしたらひたすら逃げ続ければ助かったかもしれない。
いや、そうするべきだったのだ。
自分の判断の甘さに、ヤジロベーはギュッと目を閉じた。


ノシリノシリと歩いてきたシンバルとドラム。
逆さに倒れたままのヤジロベーを見て、くけけっと笑いをこぼした。
ヤジロベーは薄っすらと目をあけて、ぼんやりと2匹の魔獣の姿を見つめた。


鼻血を垂らして、目の焦点が合わないヤジロベーに、シンバルが話しかける。
『情けねぇ姿だな、ジンジロベーよ』
「ヤジロベーですだ・・」
『いちいちうるさいヤツめ。どうした、さっきまでの元気がなくなったぞ』
「おめゃーら、卑怯だぎゃ・・」
『卑怯? なにが卑怯ってんだ?』
「俺が一生懸命、許してくれと謝っているのに、殴りまくりやがって・・こっちは無抵抗なんだべ」
『人間が抵抗しようがしまいが、俺たち魔族には関係ないってこった』
「きたねーだ・・」
『貴様こそ、ピッコロ大魔王様の名前を聞いた途端、へいこらしやがって。
  謝ったくらいじゃ、俺様をコケにした罪が償えるわけなかろう?』
「じゃ、どうすれば許してくれるだ・・?」
『さぁな。俺様の機嫌次第ってやつだ』
「そんなの答えになってないだに」
『しかし、お前もバカなヤツだ。そのまま戦っていれば俺たちに勝てたものを。
  そんなにピッコロ大魔王様が恐ろしいのか? 武道家として戦う勇気はないのかい?』
その質問に、ヤジロベーは表情を曇らせた。


ヤジロベーは、しばらくしておもむろに口を開いた。
「ピッコロ大魔王が怖いんでねーだ。俺は死ぬのが怖いんだ」
『ピッコロ大魔王様が怖いのも、死ぬのが怖いのも、同じじゃねーか。この臆病者め!』
「俺は臆病者じゃねーだ」
シンバルは、ヤジロベーの言葉の意味が理解できずに、首をひねりながら尋ねた。
『貴様は武道を多少かじっているようだな。武道家としてのプライドはないのか?』
「プライドだど・・?」
『多くの武道家が魔族に挑んだが、みなプライドをもって正々堂々と戦っていたぞ。
  それに比べて、お前は他の武道家とはずいぶんと違うな。おべっかを使ったり、コソコソと逃げおって』
「そのプライドの高い武道家たちは、結局どうなったんだ?」
『もちろん、我々魔族に殺されたさ』
「だろうな。だから俺はピッコロとは戦わないんだ。
  戦いにプライドしかかけられない武道家と、俺は違うだ」
『ほほう』
「俺にとって戦いはプライドじゃねーだ。生きるか死ぬかだ。ただそれだけだ」
『なるほど。おもしろいことを言うヤツだ』


シンバルはヤジロベーの話に興味をもったのか、さらに質問を続ける。
『おい、ヤジロベー。お前にとって"戦い"はなんだというのだ?』
「・・・その日の食事にありつくことだ」
『たった、それだけのことか?』
「たったそれだけで、わりかったな」
『負けて悔しくないのか?』
「どんなに格好悪くても、生き延びれば悔しくないだ。
  謝って許してもらえるなら、土下座でもなんでもする。手段は関係ねぇ。
  戦いにプライドしかかけられないヤツなんて、ただのバカだべ」
『ほう』
「俺は誰にも邪魔されずに自由に生きたいだけだ。ジャングルでうまいもん食いたいだけだがや」
きっぱりと言い切ったヤジロベーに対し、シンバルは小さく頬を上げて笑った。
『ハーハハッ。ヤジロベー、お前は面白いヤツだ。
  お前はいままで出会った"自称最強の武道家"と名乗る、どの人間よりも強いぞ。
  ひょっとすると、老いたピッコロ大魔王様に勝てないまでも、逃げ延びる力はあるかもしれねぇな』
「・・・」
『お前のように、生きることに異様に執着する人間は初めて見たぜ。
  それにその目だ。何度も生死をかいくぐってきた本物の目をしてるぜ。
  お前のことを臆病者といったことは取り消そう。
  俺はお前の強さとその精神が気に入った。お前をこのシンバル様に完全に屈服させたくなった』
「ど、どういう意味だべ・・?」
『お前の望みどおり、命は助けてやろう。ピッコロ大魔王様にもお願いしてやる』
「ほ、本当だが?」
『ただし、お前はこのシンバル様のものとなるのだ。いや、シンバル様のものにしてみせる。
  これから、いままで味わったことのない、壮絶な快感に打ち震えさせてな。
  きっと、お前から求めてくるようになるだろうぜ。俺様のテクニックと実力で屈服させてやる』
「なに言っとるだ・・?」
『実は俺様もドラムも、お前のようなデブの新鮮なエキスが欲しくて、うずうずしていたところだ』
どうやら死ぬことは回避できたらしい。
しかし、シンバルの言っている意味が分からずに、ヤジロベーは困惑した。


次回予告
ヤジロベー「シンバルってやつの言っている意味が全然わからんがや。一体コイツら何する気だ・・」

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