陵辱表現の限界に達したので、今回で終了とします。
登場人物
ホァンです。中国の山奥で、ひっそりとミニ四駆を楽しむ12歳の少年。
ズオウです。白い毛で覆われたビッグフット。
──ホァンの家の食卓。
「お父さん、いま、なんて言ったアル!?」
ホァンは、箸を放り上げて、大声を出していた。
村に戻ったホァンは、夕食をとりながら、家族に日本での土産話を語っている途中だった。
食卓に並ぶ、母親の自慢の料理。
楽しい家族の団欒。
ホァンが長旅から戻ったことを祝ったものだ。
大好物の豚足や、鶏の丸焼きが、こげた匂いを漂わせている。
しかし、いまのホァンには、すべてが目に入らなかった。
「ビッグフットが、この村に現れたって、本当アルか?」
「本当だ」
「死んだかもしれないって・・・どういうことアル!」
ホァンは、口からご飯粒を飛ばしながら、大声を張り上げていた。
「だから、さっき話した通りだ」
「どうしてそんな大変なことが起こったのに、何も教えてくれなかったアルか!」
「村は無事だったんだ。お前に心配はかけたくないと思ってな」
「そんな・・まさかズオウが・・」
「ズオウ? お前はビッグフットのことを知っているのか?」
「ボクはそんな話、信じないアル! これから確かめてくる!」
「もう夜だぞ! 待たんか!」
ホァンは食事を放り出して、一目散に家を飛び出していった。
親の叫び声を無視して、ホァンは暗闇が支配する村を走っていた。
(まさか・・・まさか、こんなことになるなんて・・ズオウが・・・なにかの間違いアル・・)
真っ暗で、方向もロクに分からない山道。
村を出てから、ホァンは全速力で、迷いの森に向かっていた。
目に涙を溜めながら・・・。
父親が話した事件は、次のようなものだった。
──ホァンが日本に旅立ってから半年ほど経ったとき・・・。
村に突然、よそ者が現れたというのだ。
その者たちは、銃で武装しており、村を襲って食料や金目のものをすべて略奪しようとした。
当然、ホァンの村には、よそ者に対抗できるような武器も力もない。
無抵抗な村人たちは、よそ者に殺されかけた。
そのとき村を救ったのが、白いクマのようなビッグフットだというのだ。
そのビッグフットは、よそ者の何人かを力でねじ殺したらしいが、銃で撃たれたという。
そのあとも、よそ者たちは、ビッグフットを追って迷いの森に入っていったが、
誰も帰って来る者はいなかったというのだ。
ただ、数日の間、鋭い銃弾の音と、ビッグフットが吼える声が、迷いの森に響き渡っていたという。
父親がいうには、ビッグフットとよそ者たちが争って、お互い死んだのではないか、ということだった。
ホァンはすぐに思い浮かべた。
そのビッグフットが、ズオウであることを。
・
・
いつのまにか、ホァンの目の前には、漆黒の森が広がっていた。
一体、どこをどう走ってきたのか、ホァンは覚えていない。
気がつくと、ここに立っていたのだ。
──迷いの森。
まさか、このような形で、迷いの森の前に立つことになるとは、ホァンは夢にも思わなかった。
ホァンは、目に溜まった涙を腕で拭う。
そして、目を閉じて、精神を集中した。
(お願い・・ボクをあの大樹へ導いて・・・)
しかし、ホァンが目をあけても、漆黒の闇が広がるだけだった。
光の道は、どこにも見えない。
ホァンはもう一度、ギュッと目を閉じる。
両方の拳を握り締め、奥歯を噛み締めながら・・。
(どうしたアル・・ボクを導いて! ズオウ!)
肩を震わせながら、ギュッと瞼を閉じて集中する。
額に滴る嫌な汗。
しかし、いくら待っても、森の中に光の道が現れることはなかった。
「ズオウ、どこに行ったアル! ボクだよ、ホァンが帰ってきたアルよ!」
ホァンは、無我夢中で叫んでいた。
「ズオウ! いたら返事をするのことヨ!」
左右に声を張り上げながら、ホァンは迷いの森に、気がつくと歩を進めていった。
月明かりが照らしているとはいえ、森の中には光はほとんど届かない。
まるで、目隠しをされたような状態で、森を歩いているようなものだった。
(ボクはもう一度ズオウに会いたいアル・・・いや、会わなくちゃいけないんだ・・。
だって、ズオウはボクのトモダチなんだもの! ズオウが傷ついているなら、助けなくちゃいけないアル!)
腕を前方を伸ばし、密集した木を手探りで避けながら、奥へと歩いていく。
しかし、どこまで進んでも進んでも、漆黒の闇が続くだけだった。
ホァンは自分がどこにいるかも分からず、森の中をひたすら歩き続けた。
その間も、ずっとズオウのことを呼び続けた。
声は枯れ果てた。
何度も泥沼や木の根に足を取られ、体中が傷だらけになった。
お腹が空いて、倒れそうになった。
一体、何日の間、森の中を彷徨ったのだろう?
(お願い、ボクをあの大樹に導いて・・・。
ズオウ・・・どこにいるアルか・・ズオウ・・生きて・・)
意識が朦朧となったホァンは、そのままガックリと膝をつき、そのまま地面に伏した。
・
・
「ううっ・・」
木の葉から落ちた雫が、頬に冷たい感触を残す。
ホァンが薄っすらと目をあけると、天から陽が差し込む大樹に、腰を下ろして寄りかかっていた。
そこは、ズオウと楽しい日々を過ごした巨樹の根元。
いつのまにか、その場所で眠っていたのだ。
ホァンが周りを見渡すと、そこには心配そうに見つめる小動物たち。
その光景を見て、ホァンの表情は柔らかくなった。
(そっか・・いままでと同じアル・・・何も変わってないのことヨ・・よかった・・)
何も変わらない情景に、疲れ切ったホァンは安心して、ゆっくりと目を閉じた。
ノシリノシリ・・・。
落ち葉で彩られた地面を踏みつける、鈍い足音がする。
だんだんとホァンの元へ、近づいてくるようだ。
ホァンは、足音がする方向へ、ゆっくりと視線を向けた。
すると、白い毛むくじゃらの姿が徐々に大きくなってくる。
ホァンは、その懐かしい姿に安堵するとともに、心がとても温かくなった。
大きな毛むくじゃらの姿は、さらにノシリノシリと近づき、ホァンの正面に立つ。
大樹に根元に座っていたホァンは、ゆっくりと視線をあげた。
「ズオウ・・・生きていたアルね。よかった・・。
ごめんアル・・1年も離れ離れになって・・本当にごめんアルヨ・・・」
ホァンは小さな声で呟くと、傷ついた体でヨロヨロと立ち上がる。
おぼつかない足どりで、ズオウの大きくて柔らかい胸に、顔を埋めようとした。
──しかし、次の瞬間。
そこにいるはずのズオウのフサフサな胸は、空気のように通り抜けてしまった。
ホァンは目の前にいるズオウに触れようと、何度も何度も手を伸ばした。
しかし、暖かくて柔らかいはずの、ズオウの真っ白な毛の感触を、得られることはなかった。
「ズオウ、どうなっているアル・・どうして触れないアルか・・?」
「ホァン・・・」
それはいつもと変わらぬ、ズオウの優しい声。
可愛くて女の子みたいな、体に似合わぬ甲高い声。
でも、少し寂しそうな感じがする。
「ズオウの体、どうなっているの・・?」
「ホァン、ごめんね。本当にごめんなさい」
「どうして、ボクに謝るアル・・? 謝るのはボクのほうのことヨ」
「ホァンと、もう一緒に寝ることができなくなって、ごめんなさい・・」
「ズオウ・・? 言っていること、分からないアル・・」
ズオウの寂しそうな顔。
一年前、ホァンが日本に行くと告げたときにズオウが見せた、あの寂しそうな表情とは違う。
もう2度と会えないような、そんな切ない表情。
それに、ズオウの顔に生気を感じられない。
体に血が通っているように見えない。
そんなズオウの姿をみているうちに、ホァンの内に留めていた感情が込み上げてきた。
「ズオウ・・生きて・・生きてるアルよね・・?」
「・・・」
「どうして黙っているアルか! いつものように笑顔で『うん』て言って欲しいのことヨ! お願いだから・・」
ホァンは目に涙を溜めながらも、それが滴り落ちるのを必死に堪えた。
涙を堪えて体を震わせるホァンに、ズオウからやんわりとした返事が返ってきた。
「僕、光蠍の村を守った。やっとホァンの村を守ることができた」
「守る・・?」
「僕はずっと昔、悪いことばかりしてた。村で暴れてみんなに迷惑かけた」
「ほ、本当なの・・?」
「うん。だから、僕は神様に怒られた。こんな姿に変えられちゃった。
神様から光蠍の村を見守るように、この森に閉じ込められた」
「神様って・・何のことを言ってるアルか・・・」
いままで、一度も語らなかったズオウ自身の過去。
ズオウがいまになって、自分のことを話し始めた理由を、ホァンはこのときまだ分からなかった。
ズオウは小さく頬をあげて、笑顔を作った。
しかし、それが作り笑いであることは、ホァンには容易に察しがついた。
「僕、村を守ったけど、人間を殺めてしまって・・だからまた神様に怒られた。
そして、今度は森にも居られなくなっちゃった・・。ホァン、本当にごめんなさい」
そういうと、ズオウはすまなそうに、顔を伏せた。
「何を言ってるのか、わからないアル・・変な冗談はやめるアルよ・・」
ホァンには、ズオウが話している意味は分からなかったが、
ズオウが、すでに自分の手の届かない遠い存在になってしまったことを、なんとなく感じとっていた。
しかし、そんなことは絶対に認めたくなかった。
「ボクはただ、ズオウと一緒にいたいだけアル・・。
一緒に寝たいだけアル・・それもできないアルか? うっ・・ううっ・・」
「ホァン、僕のために泣いてくれるの? ありがとう」
「泣いてないアル・・・」
いつのまにか、頬に涙が零れ落ちているのを、ホァン自身も気がつかなかった。
ズオウはホァンにゆっくりと近づく。
半分透明になった腕で、ホァンの頬を伝わる涙を拭いてあげようとした。
しかし、その手はホァンの頬をすり抜け、いつまでも零れる涙を拭うことはなかった。
ホァンは、ズオウの手を握ろうとしたが、空気のように通り抜けるだけだった。
それでもホァンは、ズオウの胸と思われる部分に、必死に手を当てた。
「どうして、触れないアル・・どうしてズオウがこんな姿になったアル・・。
神様って何のことか教えて! 一緒に寝れないって・・もう会えないってことアルか・・?」
ホァンは、ズオウに必死に気持ちを伝えようと、瞳を見つめた。
すると、ズオウは優しい目をしながら、答えてくれた。
「僕は何百年も、光蠍の村を守ってきた。
この森の中で、ずっと1人ぼっちで・・。寂しかった。
でも、ホァンに初めて会ったとき、とてもうれしかった。
ホァンが僕の胸に甘えてくれたとき、すごいうれしかった。
ホァンと一緒に眠っているとき、一番幸せだった。
ホァンとトモダチになれたことを、一生忘れない。
本当にいままでありがとう」
ホァンは、その言葉にいままで抑えていた感情が一気に溢れてしまった。
目から溢れる雫で、ズオウの顔はよく見えなかったが、不思議と柔らかいように見えた。
「そんなの・・そんなの嫌アル! また一緒に遊ぶアル! 一緒に寝るのことヨ! だってボクたちはトモダチ・・」
「ホァン、とってもとってもありがとう。
神様に一生懸命お願いしたら、もう一度この姿でホァンに会えることができた。だからうれしい。
本当はホァンのこと、とっても心配。これから1人で生きていけるか心配。
でも、ホァンにはたくさんトモダチできた。ミニ四駆のトモダチ。
それに、青い髪のとっても元気なトモダチがいる。だから大丈夫」
「青い髪って・・まさか、豪のことを言ってるアルか? でも、違う・・ズオウだけは違うアル!」
「ホァン、大好きだよ。大好き。さようなら」
「さよならなんて、したくないアル!」
ホァンが大粒の涙を拭って、ズオウを見上げたとき・・。
ズオウは、いつのまにか視界から消えていた。
・
・
「ズオウ! どこにいったアルか!」
ホァンは大樹の周りを懸命に走り、ズオウの姿を探した。
目から涙を溢れさせながら。
しかし、ズオウの柔らかくて大きな体は、どこにも見つからなかった。
「いやアル! ボクをひとりにしないで・・」
少年は、陽が落ちるまで、泣きながらその場に立ち尽くした。
──それから数日後。
ホァンは、シャイニングスコーピオンを片手に持ち、朝日が昇るのを待っていた。
真っ暗な地平線から、少しずつ陽の光が漏れ出し、やがて地表を橙色に染めていく。
太陽の光は、村の中心にある岩肌に反射する。
そして、岩肌にある「光蠍」の模様をはっきりと映し出していた。
「光蠍さん、おはようアル・・」
心地よい風が少年の前髪を、揺らす。
顔には、涙が幾重にも通り過ぎた跡が残っていた。
「今日は東から気持ちいい風が吹いているアルね・・。
ボクはやっと分かった。この光蠍の模様は何百年も前から存在していたんだ。
そして、これを描いたのは、ズオウ・・。
きっと村を守ることを神様に誓うために、描いたものなんだ・・。
だからズオウは、ボクの村の人たちを守るために、命をかけてくれた。
ありがとう。ボクの村を守ってくれて。
ありがとう。ボクのトモダチになってくれて・・。
ボクは絶対に忘れない。ズオウと過ごした楽しい日のことを絶対に忘れない」
ホァンは、光蠍に向かって一生懸命に笑顔を作った。
「ボクには分かるよ・・。東の風が吹く日は、ズオウの魂がここに現れることが。
だって、光蠍の模様が、あんなに美しく輝いているんだから・・。
ねぇズオウ・・ボクのことを、見てくれているアルか?
ボクはこうしていると、ズオウの心を感じることができるアルよ」
1人、岩肌の蠍に向かって話しかけるホァン。
先ほどまで笑顔を作っていたが、自然と頬に涙が零れていた。
ホァンは、光蠍に向かって、言葉をつなげていく。
「もう泣かないって心に決めたのに・・・。まだボクは弱いアルね・・。
ズオウがどうしてボクのトモダチになってくれたのか、やっと分かった気がするアルよ・・。
ズオウは、ボクに勇気と力を与えてくれた。
大切なものを守ることを教えてくれた。
今度はボクが、ズオウの心に応える番アル。
ボクは、村のみんなを守れるような強い人間になりたい。ズオウみたいに・・。
だから、もう絶対に泣かないアルよ。ボクのこと、ずっと見守っていて! 約束だからね!」
少年は涙を拭うと、風の中を元気よく走っていった。
最後まで読んでくださったかた、ありがとうございました。
ホァン君ネタでなにか書いてみようと以前から思っていたのですが、豪絡みだとネタが出尽くしている感じがするし・・。そこで、ちょうどケモ系(?)のネタを書いて見たいと思い、ズオウと絡ませてみました。しかし、あんまりケモ系の感じはでませんでしたけど・・。
ホァンの場合、アニメだと「〜アル!」という言葉が特徴的なので、小説として書いたときに「アル」言葉にしてしまったほうが分かりやすいと思って、これにしちゃいました。
ズオウはアニメを見ていない人には、どういう喋り方なのか、どういう感じなのか、ニュアンスが伝えるのが難しくて・・。子供っぽい感じなんて、どうセリフ書けばいいのかなーと・・アニメ見ていないと分かりにくかったかも・・。どういう声で脳内変換されるのか、ちょっと不安な感じもしてます。(^^;
それから、ホァンのスイカのタネは小説仲間の××さんから、久しぶりにエロいアイデアをいただきました。
この小説を書くために、もう一度「レジェンズ」みました。ズオウ語を確認するためなんですがw。そのとき、最終回のズオウとメグに感情移入してしまって、自分もちょっと切なくて、悲しい別れみたいなのを、小説でかいてみたくなりました。だから、当初の予定から少し変わって、ラストが悲しい終わり方になってしまいました。それと、最終回のズオウのセリフが大好きなので、それをホァンに対して、思いっきり使わせてもらいました。