真帆路に想いを馳せる天城だったが…?
登場人物
天城大地。巨漢だが繊細な性格。真帆路との思い出が忘れられない。
真帆路(まほろ)。幻影学園のキャプテン。天城とは小学生のときに一番の友達だった。
香坂。小学校のときに天城と真帆路と3人でよく遊んでいた。
──その日の練習のあと。
天城がロッカールームに入ると、影山が近づいてきた。
「あのー、先輩に会いたいっていう人が来ているんですが・・」
「俺に会いたい?」
「はい。香坂(こうさか)さんっていう女の子なんです」
「香坂って、まさか・・!」
「天城先輩の恋人ですか? あれ、先輩!?」
天城は影山の言葉も聞かずに、ロッカールームから飛び出していた。
──香坂幸恵(こうさかゆきえ)。
天城の幼馴染で、小学校の頃は真帆路と香坂の3人でよく遊んでいた。
彼女は幻影学園中に進学し、真帆路と一緒の学校だ。
だから、今の真帆路の状況も理解しているはず。
香坂から話を聞くことで、なにかきっかけが掴めるのではないか。
そう期待した天城は、ただ夢中で走っていた。
廊下の先には、藤色の髪を左サイドに束ねた女の子が、寂しそうに立っていた。
天城は彼女の前で立ち止まると、ふっと息をついて香坂に語りかけた。
「ひ、久しぶりだど」
「うん。久しぶり」
「どうしてここに来たんだど?」
「あの・・うちの学校と雷門が戦うことになったでしょ、真帆路君と天城君が。
だから伝えておかなくちゃいけないと思ったの。あのときのことを」
「あのときって・・」
「真帆路君がイジメっ子たちに歯向かったときのことよ。『天城君をイジメるな』って」
そのとき天城の脳裏に、小学生のときにイジメにあった日々のことがよぎった。
真帆路がイジメっ子から、自分を守ってくれたときのことを。
天城は表情を曇らせて、口を開いた。
「伝えるも何も、俺が一番知ってるど。
あれから真帆路は俺と口もきいてくれなくなった。俺はアイツに絶交されたんだど」
「ううん、違うわ。真帆路君はあなたを嫌いになったわけじゃないのよ」
「えっ!?」
「あのとき、天城君をかばったことでイジメの矛先は真帆路君に向いたの。
だから彼はあなたを巻き込まないために、あなたと喋らなくなった。自分と一緒にいるとまた天城君がイジメられるからって」
「ほ、本当なんだど・・・?」
香坂の口から出た衝撃の事実に、天城は頭の中が混乱した。
真帆路が自分を無視したのは、自分のことを嫌いになったからではない・・?
いや、むしろ自分を守るために、真帆路が犠牲になった・・?
そのような回りくどい方法を取らなくとも、他に解決方法はあったのではないか?
天城はすぐに状況を飲み込めず、どのように返事をしてよいのか困った。
──真帆路は自分のことを嫌いになったわけではない。
香坂から告げられた3年前の真実。
ようやく事態を飲み込んだ天城は、表情が柔らかくなった。
「やっぱり真帆路は俺のことを嫌いじゃなかったんだど・・」
「うん」
「香坂、ありがとうだど。俺、少しだけ勇気が湧いてきたど。
でも、どうして今になって真帆路のことを話す気になったんだど!?」
天城の問いかけに、香坂は沈んだ表情で口を開いた。
「私は真帆路君の苦しい姿を見るのが嫌なだけ」
「どういう意味だど?」
「真帆路君がイジメられ続けた結果、彼から笑顔がなくなったの。私はそれがつらいの」
「・・・」
「今度は天城君が真帆路君を助ける番だと思うの」
「わ、わかったど。俺、いままで真帆路に会うのが怖かった・・・」
「そうだったんだ。でも天城君にも勇気を出してほしいの」
「うん・・だけど、もう大丈夫なんだど!」
天城が急に明るくなった様子を見て、香坂は表情が柔らかくなった。
香坂はニコリとして天城に尋ねた。
「天城君、これから時間はある?」
「これから?」
「私が真帆路君に連絡をして、あの公園に真帆路君を呼び出すわ。
そして真帆路君に"天城君の言葉"で気持ちを伝えてほしいの。3年間も苦しんだ真帆路君を助けてあげて」
突然の提案に、天城は動揺した。
これから真帆路を呼び出す・・?
天城は内心に不安がよぎったが、いま会わなければチャンスはないだろう。
意を決した天城は、真剣なまなざしで返答した。
「わかった。俺、真帆路に会うど!」
「よかった。それと、この話は私から聞いてって言わないで。約束できる?」
「もちろんだど。俺、真帆路と仲直りするど! がんばるど!」
「じゃ、私は真帆路君に連絡するから、急いでね」
天城が嬉しそうにロッカールームに戻る姿を見て、香坂は冷たい視線を送った。
「ほんと、天城君って単純でデブで弱虫で、昔から何も変わってないのね」
香坂はくすくすと笑いをこぼす。
「真帆路君はずっとイジメられ続けて、苦しんだわ。
そして誰も信じなくなった。いまさら天城君に同情されても、心を開くことはないわ。
だって、弱虫の天城君に同情されたら、自分がやったことがすべて否定されてしまうんだもの。
それに彼は本当のことを言われるのが、大嫌いな性格なのよ。
天城君が私の言葉をそのまま真帆路君にぶつけたら、彼は怒って反発するだけ」
香坂は嫌らしい笑みを浮かべながら、さらに続ける。
「私の大好きな真帆路君から笑顔を奪ったのは、天城君、あなた自身なのよ。
真帆路君がどうして天城君のために、3年間も苦しむ必要があったの?
しかも真帆路君は、いまでも心のどこかで天城君のことを考えている。
私にはそれが許せない。
デブで弱虫のあなたに、真帆路君が振り回されていることが許せない。
天城君さえいなければ、真帆路君は私と一緒に楽しく3年間過ごせたのよ。
だから私が断ち切ってあげる。
天城君からサッカーも友達も、なにもかも奪ってあげるわ。
真帆路君に代わって復讐してあげる。天城君の心をズタズタにして、二度と立ち直れないようにしてあげるから」
香坂は静かに、雷門中から立ち去った。
香坂の設定が怖すぎてすみません。次回をお楽しみに。次の話を読む