香坂の策略で真帆路に会うことなった天城だが・・?
登場人物
天城大地。巨漢だが繊細の性格な持ち主。真帆路との思い出が忘れられない。
真帆路(まほろ)。幻影学園のキャプテン。天城とは小学生のときに一番の友達だった。
香坂(こうさか)。小学校のときに天城と真帆路と3人でよく遊んでいた。
天城の心は晴れやかだった。
真帆路が自分のことを、嫌いではないと分かったから。
香坂の話では、真帆路はわざと自分がイジメられることで、天城を守ったというのだ。
(真帆路のヤツ、どうして話してくれなかったんだど・・・)
小学生のときの真帆路は、曲がったことが嫌いで、男気があるヤツだった。
だから、真帆路の心はなんとなく理解できる。
でも、素直に話してくれれば、お互いに苦しまずに済んだのでは・・という気持ちもあった。
だから、真帆路に会って、事の真相を確かめなくてはならない。
・・・。
天城はロッカールームで学生服に着替えると、すぐに公園に向かった。
その公園は、小学生のときに真帆路といつもサッカーをして遊んでいた思い出の場所だ。
香坂が、そこに真帆路を呼び出してくれるという。
天城は歩を進めながら、昔のことを思い出していた。
──もうすぐ小学生を卒業する頃。
なぜか、突然イジメられるようになった。
原因は分からないが、
いま考えてみると、自分がドジでノロマな性格だったからかもしれない。
イジメが横行する中、真帆路だけは普段と変わらずに遊んでくれた。
苦しいときに助けてくれる友達こそ、「本当の友達」なのだろう。
イジメはずっと続いたが、真帆路と遊んでいるときは幸せだった。
真帆路が声をかけてくれて、一緒にサッカーをするだけで、どんなことよりも心が温かくなった。
ある日、自分が公園でイシメっ子たちに囲まれたとき。
香坂が訪ねてきてくれたおかげで、真実が分かった。
天城が公園の中を歩いていくと、鉄棒に寄り掛かるように1人の少年が立っていた。
真帆路は昔よりも随分と揉み上げを伸ばしており、より精悍な顔つきをしていた。
天城は真帆路と目を合わすのが怖かったが、ゆっくりと視線を真帆路に向けた。
真帆路と久しぶりに再会した天城は、彼と笑顔で話したかった。
天城はさらに、真帆路に向かって話しかけた。
真帆路の衝撃的な発言に、天城はただ茫然とした。
真帆路は冷淡な目で、キッパリと断言した。
次回をお楽しみに。次の話を読む
「天城をイジメるな!」
真帆路がまた助けてくれた。
いまにも泣きそうな自分を、イジメっ子から守ってくれたのだ。
真帆路の頼もしい後姿。
それを見て、一生の友達でいようと決心をした。
しかし、次の日からなぜか真帆路は口を聞いてくれなくなった。
温かかった心が、急激に寒々としたものに変わっていった。
それからイジメはなくなったが、真帆路は卒業するまで一言も口を開いてはくれなかった。
どうして? なぜ?
真帆路は自分のことが嫌いになったのだろうか。
中学生になっても、考えていた。
ずっと、ずっと、理由も分からないまま3年が過ぎた。
天城を「かばった」ことで、イジメの対象が真帆路へと変わったのだ。
真帆路が天城と仲良く会話をしたら、またイジメの対象が天城に向くかもしれない。
だから、真帆路は自身がイジメられ続けることを選んだ。
天城とワザと口を聞かないことで、天城をイジメっ子から守っていたのだ。
こんな友達想いの人間がいるだろうか。
(真帆路はやっぱり俺の本当の友達だったんだど・・)
そう思うだけで、天城は涙が出そうなほど想いがこみ上げた。
・・・。
幻影学園のジャージを着ていることから、顔を見なくともそれが真帆路だとわかった。
真帆路とは小学校を卒業して以来、一度も話をしていない。
天城はゴクリと唾を飲み込む。
鉄棒のそばまでぎこちなく歩いていき、ゆっくりと立ち止まる。
数メートルの距離だった。
しかし小学生の頃よりも、表情はどこか暗い感じがする。
真帆路は表情を変えず、天城にジッと視線を向けていた。
久しぶりの対面に、天城は自分が緊張しているのが分かるほど、手に汗がにじんだ。
そして、声を振り絞って話しかけた。
「ひ、久しぶりだど」
「小学校以来だな」
「うん」
緊張のためだろうか。天城の声は体に似あわず、か細いものだった。
一方の真帆路は、機械が話しているように感情がまるでなかった。
「いつもここに来るのか?」
「た、たまに遊びにくるど」
「昔のことを思い出しにか?」
「そ、そうだど・・」
「相変わらず、弱虫だな」
天城が想像していたよりも、真帆路の言葉は冷たかった。
しかし、真帆路は優しく答えてくれるどころか、まるで素っ気ない態度だった。
天城は言葉に詰まって、距離をあけてしばらく向かい合った。
今度は真帆路がおもむろに口を開いた。
「香坂に呼びだされたが、見なかったか?」
「いや・・知らないど・・」
「分かった。じゃあな」
そういうと、真帆路は鉄棒に寄り掛かるのをやめて、出口に向かって歩き始めた。
天城はその行動にあせりを感じて、思わず叫んだ。
「真帆路!」
天城の声を無視するかのように、真帆路は歩き続ける。
「真帆路、待つど! 俺、小学生のときにお前が口を聞いてくれなくなった理由が、やっと分かったんだど!」
真帆路は歩みをピタリとやめ、素っ気なく振り向いた。
「いま何と言ったんだ?」
「俺はあの日のことを忘れてないど。お前がイジメっ子から俺を守ってくれた日のことだど」
「・・・」
「真帆路が俺をかばってくれて嬉しかったど!」
真帆路はニコリともせずに、ただ沈黙していた。
天城は必死に話し続けた。
「あの日の帰りに、真帆路の家に行ったことも忘れてないど。
いつも一番の友達でいてくれたお前が、俺のことを"好きだ"って言ってくれた。すごい嬉しかったんだど!!」
「・・・」
「真帆路の家で色んなことをした。俺の体は全部覚えているんだど。
俺はもう一度あの日に戻りたい。だから、その・・真帆路、俺たちやり直せると思うんだど」
天城は3年間の想いを一気に吐き出すように、語りかけていた。
「次の日から、突然口を聞いてくれなくなったときは悲しかった。
知らなかったんだど。あの日のあと、イジメが真帆路に集中したなんて。すまなかったど・・」
「・・・」
「俺がイジメられないように、わざと真帆路がイジメられ続けたんだど。俺のために・・ごめん、真帆路・・」
天城は必死に気持ちを伝えていた。
真帆路のことを真剣に見つめて、そして訴え続けた。
「俺、いまでも真帆路のことが・・忘れられないくて・・」
一方の真帆路はしばらく黙っていたが、変わらない表情で返事をしてきた。
「いまの話を香坂から聞いたのか?」
その質問に、天城は視線を横にそらした。
「ち、違う。俺が考えたんだど。でもこれが真実なんだど!?」
「お前、勘違いしてるな」
「えっ!?」
「俺がお前と口を聞かなくなったのは、イジメの矛先をお前に向けないためじゃない」
「なら、どうして・・」
「お前が邪魔だったんだよ」
その瞬間、天城と真帆路の間にすきま風が吹いた。
「いま、なんて・・?」
「太っているくせに弱虫で気弱で、いつも俺に付きまとって。お前にはうんざりだったんだよ」
「ウソだど・・」
「本当だ」
「ウソだと・・言って欲しいど・・」
「現実を受け止められないのか」
なんとか切り返そうとしたが、言葉に詰まった。
心臓の鼓動が速くなり、手に汗が滲んでいるのが分かる。
真帆路は淡々と会話を続ける。
「お前、あの日のことが忘れられないと言ったな」
「う、うん」
「俺はあの日のことなんか覚えていない」
「えっ!?」
天城が3年間ずっと大切にしてきた、あの日のことを真帆路は正面から否定した。
それは天城にとって、耳を疑う事実だった。
握った拳はわなわなと震わせながら、天城は恐る恐る尋ねた。
「真帆路が忘れるわけないど・・。俺のことを"好き"って言ってくれたど!」
「俺がどうして"男"であるお前を、"好き"だと言わなければならないんだ」
「言ったど! ずっと一緒だって言ったど!」
「俺は知らない」
「真帆路が"太ってるほうが好きだ"っていうから、もっと太ったんだど!」
「デブに興味はない」
「ウソだど・・俺たち、やり直して・・」
「やり直しをする理由がない」
天城は何度も真帆路のことを信じて、そして訴えた。
しかし、永遠に否定し続けられた。
「お前はサッカーでフィフスセクターに逆らっているらしいな。
俺は次の試合で雷門を、そしてお前を倒す。もしお前が負けたら、もう二度と俺の前に姿をみせるな」
「そ、そんな・・」
「もうお前と関わるのはうんざりだ」
真帆路はうつむいたまま、背中を向ける。
そのまま公園をゆっくりと立ち去っていった。
そのあいだ、真帆路が天城に振り向くことは一度もなかった。
天城は、彼の姿を唇を噛んで立ちすくむしかなかった。