天城大地小説(3)


香坂の策略で真帆路に会うことなった天城だが・・?


登場人物

天城大地。巨漢だが繊細の性格な持ち主。真帆路との思い出が忘れられない。

真帆路(まほろ)。幻影学園のキャプテン。天城とは小学生のときに一番の友達だった。

香坂(こうさか)。小学校のときに天城と真帆路と3人でよく遊んでいた。


天城の心は晴れやかだった。
真帆路が自分のことを、嫌いではないと分かったから。
香坂の話では、真帆路はわざと自分がイジメられることで、天城を守ったというのだ。
(真帆路のヤツ、どうして話してくれなかったんだど・・・)
小学生のときの真帆路は、曲がったことが嫌いで、男気があるヤツだった。
だから、真帆路の心はなんとなく理解できる。
でも、素直に話してくれれば、お互いに苦しまずに済んだのでは・・という気持ちもあった。
だから、真帆路に会って、事の真相を確かめなくてはならない。
・・・。
天城はロッカールームで学生服に着替えると、すぐに公園に向かった。
その公園は、小学生のときに真帆路といつもサッカーをして遊んでいた思い出の場所だ。
香坂が、そこに真帆路を呼び出してくれるという。


天城は歩を進めながら、昔のことを思い出していた。
──もうすぐ小学生を卒業する頃。
なぜか、突然イジメられるようになった。


原因は分からないが、
 いま考えてみると、自分がドジでノロマな性格だったからかもしれない。
イジメが横行する中、真帆路だけは普段と変わらずに遊んでくれた。
苦しいときに助けてくれる友達こそ、「本当の友達」なのだろう。
イジメはずっと続いたが、真帆路と遊んでいるときは幸せだった。
真帆路が声をかけてくれて、一緒にサッカーをするだけで、どんなことよりも心が温かくなった。



ある日、自分が公園でイシメっ子たちに囲まれたとき。
「天城をイジメるな!」
真帆路がまた助けてくれた。
いまにも泣きそうな自分を、イジメっ子から守ってくれたのだ。
真帆路の頼もしい後姿。
それを見て、一生の友達でいようと決心をした。
しかし、次の日からなぜか真帆路は口を聞いてくれなくなった。
温かかった心が、急激に寒々としたものに変わっていった。
それからイジメはなくなったが、真帆路は卒業するまで一言も口を開いてはくれなかった。
どうして? なぜ?
真帆路は自分のことが嫌いになったのだろうか。
中学生になっても、考えていた。
ずっと、ずっと、理由も分からないまま3年が過ぎた。


香坂が訪ねてきてくれたおかげで、真実が分かった。
天城を「かばった」ことで、イジメの対象が真帆路へと変わったのだ。
真帆路が天城と仲良く会話をしたら、またイジメの対象が天城に向くかもしれない。
だから、真帆路は自身がイジメられ続けることを選んだ。
天城とワザと口を聞かないことで、天城をイジメっ子から守っていたのだ。
こんな友達想いの人間がいるだろうか。
(真帆路はやっぱり俺の本当の友達だったんだど・・)
そう思うだけで、天城は涙が出そうなほど想いがこみ上げた。
・・・。


天城が公園の中を歩いていくと、鉄棒に寄り掛かるように1人の少年が立っていた。
幻影学園のジャージを着ていることから、顔を見なくともそれが真帆路だとわかった。
真帆路とは小学校を卒業して以来、一度も話をしていない。
天城はゴクリと唾を飲み込む。
鉄棒のそばまでぎこちなく歩いていき、ゆっくりと立ち止まる。
数メートルの距離だった。


真帆路は昔よりも随分と揉み上げを伸ばしており、より精悍な顔つきをしていた。
しかし小学生の頃よりも、表情はどこか暗い感じがする。


天城は真帆路と目を合わすのが怖かったが、ゆっくりと視線を真帆路に向けた。
真帆路は表情を変えず、天城にジッと視線を向けていた。
久しぶりの対面に、天城は自分が緊張しているのが分かるほど、手に汗がにじんだ。
そして、声を振り絞って話しかけた。
「ひ、久しぶりだど」
「小学校以来だな」
「うん」
緊張のためだろうか。天城の声は体に似あわず、か細いものだった。
一方の真帆路は、機械が話しているように感情がまるでなかった。
「いつもここに来るのか?」
「た、たまに遊びにくるど」
「昔のことを思い出しにか?」
「そ、そうだど・・」
「相変わらず、弱虫だな」
天城が想像していたよりも、真帆路の言葉は冷たかった。


真帆路と久しぶりに再会した天城は、彼と笑顔で話したかった。
しかし、真帆路は優しく答えてくれるどころか、まるで素っ気ない態度だった。
天城は言葉に詰まって、距離をあけてしばらく向かい合った。
今度は真帆路がおもむろに口を開いた。
「香坂に呼びだされたが、見なかったか?」
「いや・・知らないど・・」
「分かった。じゃあな」
そういうと、真帆路は鉄棒に寄り掛かるのをやめて、出口に向かって歩き始めた。
天城はその行動にあせりを感じて、思わず叫んだ。
「真帆路!」
天城の声を無視するかのように、真帆路は歩き続ける。
「真帆路、待つど! 俺、小学生のときにお前が口を聞いてくれなくなった理由が、やっと分かったんだど!」
真帆路は歩みをピタリとやめ、素っ気なく振り向いた。
「いま何と言ったんだ?」
「俺はあの日のことを忘れてないど。お前がイジメっ子から俺を守ってくれた日のことだど」
「・・・」
「真帆路が俺をかばってくれて嬉しかったど!」
真帆路はニコリともせずに、ただ沈黙していた。
天城は必死に話し続けた。
「あの日の帰りに、真帆路の家に行ったことも忘れてないど。
   いつも一番の友達でいてくれたお前が、俺のことを"好きだ"って言ってくれた。すごい嬉しかったんだど!!」
「・・・」
「真帆路の家で色んなことをした。俺の体は全部覚えているんだど。
  俺はもう一度あの日に戻りたい。だから、その・・真帆路、俺たちやり直せると思うんだど」
天城は3年間の想いを一気に吐き出すように、語りかけていた。



天城はさらに、真帆路に向かって話しかけた。
「次の日から、突然口を聞いてくれなくなったときは悲しかった。
  知らなかったんだど。あの日のあと、イジメが真帆路に集中したなんて。すまなかったど・・」
「・・・」
「俺がイジメられないように、わざと真帆路がイジメられ続けたんだど。俺のために・・ごめん、真帆路・・」
天城は必死に気持ちを伝えていた。
真帆路のことを真剣に見つめて、そして訴え続けた。
「俺、いまでも真帆路のことが・・忘れられないくて・・」
一方の真帆路はしばらく黙っていたが、変わらない表情で返事をしてきた。
「いまの話を香坂から聞いたのか?」
その質問に、天城は視線を横にそらした。
「ち、違う。俺が考えたんだど。でもこれが真実なんだど!?」
「お前、勘違いしてるな」
「えっ!?」
「俺がお前と口を聞かなくなったのは、イジメの矛先をお前に向けないためじゃない」
「なら、どうして・・」
「お前が邪魔だったんだよ」
その瞬間、天城と真帆路の間にすきま風が吹いた。
「いま、なんて・・?」
「太っているくせに弱虫で気弱で、いつも俺に付きまとって。お前にはうんざりだったんだよ」
「ウソだど・・」
「本当だ」
「ウソだと・・言って欲しいど・・」
「現実を受け止められないのか」



真帆路の衝撃的な発言に、天城はただ茫然とした。
なんとか切り返そうとしたが、言葉に詰まった。
心臓の鼓動が速くなり、手に汗が滲んでいるのが分かる。
真帆路は淡々と会話を続ける。
「お前、あの日のことが忘れられないと言ったな」
「う、うん」
「俺はあの日のことなんか覚えていない」
「えっ!?」
天城が3年間ずっと大切にしてきた、あの日のことを真帆路は正面から否定した。
それは天城にとって、耳を疑う事実だった。
握った拳はわなわなと震わせながら、天城は恐る恐る尋ねた。
「真帆路が忘れるわけないど・・。俺のことを"好き"って言ってくれたど!」
「俺がどうして"男"であるお前を、"好き"だと言わなければならないんだ」
「言ったど! ずっと一緒だって言ったど!」
「俺は知らない」
「真帆路が"太ってるほうが好きだ"っていうから、もっと太ったんだど!」
「デブに興味はない」
「ウソだど・・俺たち、やり直して・・」
「やり直しをする理由がない」
天城は何度も真帆路のことを信じて、そして訴えた。
しかし、永遠に否定し続けられた。


真帆路は冷淡な目で、キッパリと断言した。
「お前はサッカーでフィフスセクターに逆らっているらしいな。
  俺は次の試合で雷門を、そしてお前を倒す。もしお前が負けたら、もう二度と俺の前に姿をみせるな」
「そ、そんな・・」
「もうお前と関わるのはうんざりだ」
真帆路はうつむいたまま、背中を向ける。
そのまま公園をゆっくりと立ち去っていった。
そのあいだ、真帆路が天城に振り向くことは一度もなかった。
天城は、彼の姿を唇を噛んで立ちすくむしかなかった。




次回をお楽しみに。次の話を読む

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