真帆路と仲直りできなかった天城は・・?
登場人物
天城大地。巨漢だが繊細の性格な持ち主。真帆路との思い出が忘れられない。
真帆路(まほろ)。幻影学園のキャプテン。天城とは小学生のときに一番の友達だった。
香坂(こうさか)。小学校のときに天城と真帆路と3人でよく遊んでいた。
いつの間にか空が曇で覆われ、大粒の雨が降り始めていた。
しかし、天城はその場を離れることができずに、がっくりと膝を落とした。
「どうして・・。
やっと真帆路の気持ちが分かったと思ったのに・・。もう一度仲良くになれると思ったのに。
もうあの時の真帆路ではなくなってしまったんだど・・。誰よりも優しかった真帆路はいなくなってしまったんだど・・」
目から涙がこぼれてきた。
「サッカーを続けていれば、いつか仲直りできるかもって思っていたど。
もうサッカーを続ける理由がなくなっちまったど・・・。一人ぼっちはイヤだど・・」
大きな体を縮こまらせて、しばらく立ち上がることができなかった。
・・・。
「天城君・・」
背中から声がした。
天城は涙を見られまいと、慌てて頬をぬぐって振り向いた。
そこに立っていたのは、傘をさして悲しそうな顔をした香坂だった。
「もしかして、真帆路君とうまくいかなかったの?」
香坂が尋ねてきたが、天城はすぐに返事ができるほどの余裕はなかった。
「天城君・・しっかりして」
香坂の問いかけに、天城は必死に声をしぼりだした。
「ごめん。きっと俺の言い方が悪かったんだど。真帆路を助けられなかったど・・」
「真帆路君にはきちんと話したの?」
「話したど。イジメの矛先を俺に向けないために、
わざと口を聞かなくなったことを、真帆路に直接確かめたど。だけど、違うって・・」
「真帆路君はなんて言ったの?」
その質問に、天城は口を貝のように閉ざした。
「天城君、真帆路君は何ていったの?」
香坂は何度も問いかけてくる。
仕方なく天城は、弱々しい声で告げた。
「俺が弱虫で邪魔だったから、口を聞かなくなったって言われたど」
香坂は、深くため息をついて返事をしてきた。
「それは真帆路君の本心ではないと思う」
「ど、どういうことだど?」
香坂はうつむいたまま、語り始めた。
「真帆路君、3年間もずっと苦しんできたでしょ。
だから天城君にいきなり本当のことを言われて、なんて答えてよいのか分からなかったんだと思うの」
「でも、真面目な顔をして答えられたど」
「真帆路君は真面目っていうより、感情を出さないから・・・。
天城君と口を聞かなくなってから、笑ったことがないの。
サッカーでは"笑わないストライカー"なんて言われているわ。シュートを決めてもニコリともしないって」
「そうだとしても、あの様子じゃ、もう話すことができないど」
「・・・」
香坂は曇った表情で、しばらくうつむいたままだった。
トゥルルル・・。
香坂の持つ携帯電話の音だろうか?
「天城君、ちょっとごめんね」
香坂は天城から離れて、なにやら携帯電話で話をしているようだった。
天城はそのあいだ、死んだ魚のような目でただ空を見上げていた。
顔に雨粒が落ち、頬に滴り落ちた。
それが天城自身にも、涙か雨粒なのか、分からなかった。
しばらくして香坂が駆け足で戻ってくる。
香坂は目を輝かせるように、話しかけてきた。
「天城君、いま真帆路君から電話があったのよ」
「真帆路から!?」
「ええ」
「それで何を話したんだど?」
「天城君にひどいことを言って申し訳なかったって」
「ほ、本当だど!? でもどうして?」
「天城君に真実を言われて動揺してしまったらしいの」
香坂の話に、天城は生気が蘇ってきた。
先ほどの真帆路との会話では、もはや関係を修復することは不可能と思われた。
しかし、まさか真帆路も動揺していたなんて。
まだ2人の関係は終わったわけではないことに、天城は安堵した。
天城は香坂に尋ねた。
「それで・・それで真帆路は他に何て言っていたど・・?」
「もう一度、天城君ときちんと話したいって」
「本当だど!?」
「昔のように一緒にサッカーをしながら語り合いたいって言ってたわ」
「サッカー・・?」
「来週に試合が行われる"ピンボールスタジアム"があるでしょ。
明日そこで待っているから、一緒にサッカーをしてお互いの心をぶつけようって」
天城は、真帆路の意図が呑み込めずに、少し頭をひねった。
そして何かがひらめいたのか、突然声を大きくした。
「そうかー! 真帆路のヤツ、言葉では恥ずかしいから、サッカーをやろうっていうんだど!?」
「うん、そうみたい」
「ははは、真帆路らしいど!」
急に元気になった天城を見て、香坂はクスッと笑った。
天城は上機嫌だったが、1つ腑に落ちない点があった。
ピンボールスタジアムのことだ。
「ピンボールスタジアムって、今度試合をするところだど。入れないんじゃ?」
「幻影学園はフィフスセクターに管理されているチームだから、スタジアムを自由に貸し切ることができるの」
「そ、そうなんだど?」
「うん。ピンボールスタジアムは普通のサッカースタジアムとは少し違うの。
色々と仕掛けがあるから、フィフスセクターが幻影学園に有利なように、使わせてもらってるのよ」
「そんなの汚いど!」
「私もそう思う。だからスタジアムの様子も偵察するといいんじゃないかしら?」
少し話がそれたところで、香坂はもう一度天城に向かって話を続けた。
「それで真帆路君の話に戻るんだけど・・。
明日の夕方に、真帆路君が1人でピンボールスタジアムで待っているって。
今度こそ真帆路君とサッカーで仲良くなってね。真帆路君に笑顔を取り戻してあげて」
「うん、分かったど。俺、もう一回頑張るど!」
「よかったね、天城君」
「ありがとう、香坂のおかげで助かったど。やっぱり真帆路は友達だったんだど!」
天城は先ほどまでの鎮痛な面持ちから一転して、気持ちよさそうに胸を張った。
そして、元気に雨の中を走って行った。
香坂は立ち去った天城の姿を見て、あざけり笑った。
「本当に単純なのね、天城君って。
あれだけ真帆路君にボロボロに言われても、まだ友達に戻れると思っているんだから」
香坂は携帯をもう一度取り出し、ボタンを押した。
「あ、箱野君? 例の話なんだけど・・。
うん、明日天城君が、ピンボールスタジアムに1人で来るわ。
箱野君の好きなようにしていいけど、私からの条件は分かってるわね?」
電話の向こうの声を聴いて、香坂はクスッと笑った。
「ええ。そう。箱野君、天城君みたいなデブが大好きなんでしょ。
強引な方法でも構わないから、天城君からサッカーと真帆路君を奪ってほしいの。
徹底的にやってしまって構わないわ。ただし、絶対に真帆路君にはバレないようにね。
やっと私の復讐が果たせるわ」
香坂は電話を切ると、そのまま無表情で公園から立ち去った。
次回からが本番です。次の話を読む