ピンボールスタジアムに呼び出された天城の運命は・・?
登場人物
天城大地。巨漢だが繊細の性格な持ち主。真帆路との思い出が忘れられない。
真帆路(まほろ)。幻影学園のキャプテン。天城とは小学生のときに一番の友達だった。
香坂(こうさか)。小学校のときに天城と真帆路と3人でよく遊んでいた。
箱野(はこの)。幻影学園のゴールキーパー。デブ専らしい。
──翌日。
天城はサッカー部の練習を休み、1人でピンボールスタジアムに向かった。
試合を目前にした大切な練習を休むなど、雷門のレギュラーとしてあるまじき行為であることは分かっている。
それでも、真帆路との関係を修復したかった。
いま、真帆路と分かり合えなければ、一生悔いが残るだろう。
それにピンボールスタジアムの偵察もできるし、雷門のためにもなると考えたのだ。
・・・。
天城がスタジアムに到着すると、そこには幻影学園の制服を着た香坂の姿があった。
「天城君、来てくれたのね」
「あぁ。真帆路は?」
「グラウンドで待っているわ。天城君もユニフォームに着替えてね」
「わかったど! 真帆路とサッカーするど!」
天城は意気揚々とスタジアムの中へ、進んでいった。
香坂は冷やかにつぶやいた。
「天城君、今日で何もかもおしまいね・・フフフッ」
天城は誰もいないロッカーで雷門のユニフォームに袖を通した。
(よーし、真帆路と仲直りするどぉ!)
今度こそ、真帆路と心を通じ合わせたい。
天城はピンボールスタジアムへ、自然に歩を進めていた。
通路の先には、にこやかな顔をした真帆路が待っているに違いない。
そう考えただけで、天城の心は弾んだ。
しかし、また昨日と同じような誤解を繰り返したくないという不安もあった。
天城はぼんやりと昨日の出来事を思い出していた。
(俺がいきなり真実を切り出したから、真帆路が混乱したんだど・・。
俺の話し方が悪かったんだど。
俺だって香坂から真実をいきなり言われたときは、何が何だか分からなかったんだから。
まずは楽しくサッカーをして、真帆路と昔のことを語り合うんだど!
そうすれば、絶対に仲直りできるはずだど!)
通路を出ると、そこはピンボールスタジアムのグラウンドだった。
しかし真っ暗で、照明らしきものは何も点灯していなかった。
(なにかおかしいど・・・真帆路がからかっているのか?)
シーンとして不気味なグラウンド。
天城はなんだか心のなかが、ざわざわとした。
真っ暗なグラウンドを、中央に向かってゆっくりと進んでいく。
それにしても、明らかに何かおかしい。
凍りつくような雰囲気に、鳥肌が立った。
天城は恐怖を振り払おうとして、思わず叫んだ。
「真帆路、どこにいるんだど! 俺はここだど!」
天城が叫んだ瞬間。
──カシャン!
スイッチのような音がしたかと思うと、スタジアムの照明が一斉に明かりを放った。
まぶしい。
目がくらむような明るい光。
天城は思わず両手で目を覆った。
真帆路のイタズラなのかと思い、反射的に叫んだ。
「真帆路、変なイタズラはやめるど!」
「ヘヘッ、雷門の背番号4、天城大地か。待ってたぜ」
聞いたことがない声だった。
真帆路ではない。
徐々に目が慣れてきた天城は、両手の隙間からゆっくりと周りを見渡した。
スタジアムの客席には人は誰もおらず、静まり返っていた。
地面にはフリッパーピンボールを思わせる模様が、描かれている。
とてもサッカーのグラウンドとは思えないような派手な場所だった。
しかし、天城が恐怖を感じたのは、自分の周りにいる人間たちだった。
幻影学園と思われる10人くらいの選手が、不敵な笑みを浮かべて、天城を円形に取り囲んでいたのだ。
「ど、どういうこと・・だど・・」
奇術師集団と呼ばれる幻影学園の選手の容貌。
その不気味さに、背筋にぞっと寒気が走る。
天城はゴクリと唾を飲み込んで、声を振り絞った。
「真帆路は・・真帆路はどうしたんだど・・?」
天城の正面にいた幻影学園の選手が、一歩前に出てきた。
彼はゴリラのようにガッチリした体格で、色黒の肌に白目が黒くて薄気味悪かった。
「俺は幻影学園の箱野だ。ここでお前とサッカーをしたくて待ってたんだぜ」
ドスの効いた低い声だった。
天城は冷静を保とうとして、負けじと切り返した。
「俺は真帆路とサッカーをしに来たんだど!」
「真帆路とサッカーだと? ハハハッ、笑わせるぜ」
「何がおかしいど!」
「お前はとっくに真帆路に見捨てられてんだよ。
真帆路が言ってたぜ。雷門の背番号4のデブがしつこくて邪魔だとな。
弱虫で現実を受け入れられない臆病者だと笑っていた。そうだ、お前のことだよ!」
「ウ、ウソだど・・」
天城は言葉に詰まり、握った拳はわなわなと震えさせた。
目の前の現実は、すべてウソだと信じたい。
現実を否定するかのように、天城は悲鳴のような声で返した。
「お前らは誰なんだど!?」
「俺たちは幻影学園の選手に決まっているだろう。ここで練習していたんだよ」
「でも、真っ暗だったど!」
「そんなことは、どうでもいいじゃねーか。
お前こそ、勝手にグラウンドに入ってきて、どうなるか分かっているんだろうな?」
「どうなるって・・?」
「フィフスセクターの管理内に勝手に侵入したんだ。罰せられるのが当然だろう」
「そんなこと聞いてないど! 真帆路に呼ばれたから来たんだど!」
天城の発言に、箱野は腹を抱えて笑った。
「ハーハハッ、お前はバカじゃねーのか?
さっきから言っているだろう? 真帆路はここにはいない。
真帆路はもうお前の顔を見たくないんだとさ。お前、ずいぶんと嫌われているよなぁ・・ハハハッ」
「ウソだど! 真帆路がそんなことを言うわけないど!」
「おめでたいヤツだな。
ならば、この状況をどう説明するんだ? 真帆路はここにはいないんだぞ」
「そ、それは・・」
「真帆路はこう言っていたぜ。
天城大地が次の試合で恥をかくのが可哀想だから、今日ここで潰してやれと。
真帆路はやさしいよなぁ。お前のことを考えて、二度とサッカーをできないようにしてやれとさ」
「ウソだど・・そんなのウソだど・・」
「哀れだな。現実を受け入れられないデブが!」
箱野の発言は、天城に計り知れないショックを与えていた。
一体自分はどうなってしまうのか。
考えただけで、天城は目の前が真っ暗になり、恐怖のあまりガクガクと震えだした。
次回をお楽しみに。次の話を読む