天城大地小説(6)


箱野たちに囲まれてしまった天城はどうなるのか?


登場人物

天城大地。巨漢だが繊細の性格な持ち主。真帆路との思い出が忘れられない。

箱野(はこの)。幻影学園のゴールキーパー。デブ専らしい。

幻影学園の選手たち。箱野に扇動されて集団で天城を襲う。


天城はピンボールスタジアムで、幻影学園の選手たちに取り囲まれてしまった。
凍りつくような雰囲気に、天城は喉がカラカラになり、ヒザがガクガクと震えた。
左右を見渡してみたが、どこにも逃げ場がなかった。
この状況・・・。
忘れかけていた最悪の思い出が、天城の脳裏によみがえった。
──小学校でイジメられた恐怖。
クラスの全員が敵になった。
クラスからのけ者にされて、嫌がらせを受けた。
そして暴行を受けた。
記憶の奥底にあった過去の辛い日々が、天城の脳内に鮮明に再現された。
「あ・・ああっ・・」
天城は大きな体をわなわなと震わせ、表情を凍りつかせた。


薄気味悪い笑みを浮かべて、箱野が話しかけてきた。
「お前、小学校のときにイジメられていたそうだな?」
「急になにを・・」
「それで真帆路に守ってもらっていたのか?」
「・・・」
「普通は逆だろ? 体のでかいヤツが小さいヤツを守るんじゃねーのか?」
「それはその・・」
「でかい体してるくせに、弱いんだな。デブでノロマじゃイジメられても仕方ないよな」
「お前にそんなこと言われる筋合いはないど」
「真帆路から聞いたんだよ。デブのくせに弱虫だってな」
「真帆路が・・・?」
「いまも足が震えてるじゃねーか」
「震えてなんかないど・・」
小動物のように足をガクガク震わせる天城を見て、箱野は確信した。
(コイツ、精神的にめちゃくちゃ弱いぜ。徹底的に潰してやる。そして、そのあとは・・ヘヘッ)


天城が苦悩に顔を歪ませていると、箱野がくけけっと笑いながら口を開いた。
「さて、俺たちもヒマじゃないからな。さっそく始めようか」
「な、なにをする気だど・・?」
「こうするんだよ。やれ!」
箱野がパチンを指を弾く合図をする。
<んじゃ、ボクからデブ君と遊ぶからね>
「な、なにを・・!」
背後の選手が、地面に転がっているボールを勢いよく蹴り飛ばした。


ボールはバナナのような形で回転し、斜めに軌道を描く。
奇術師集団の放つ、切れ味抜群のシュートだった。
気が付くと、強烈なカーブと鋭い回転で音を立てながら、天城の大きな背中に命中していた。
「がはっ!」
背中に激痛が走る。
<へい、一丁上がりだぜ!>
天城は、不意の激痛に思わず前のめりに倒れた。


「なにをするど!」
するとボールを蹴った幻影学園の選手が、ふて腐れたような声で話してきた。
<なにって、サッカーごっこだよ。ただお前が血ヘドを吐くまで続けるけどね>
「ふ、ふざけるな・・!」
天城は痺れた背中をかばいながら、なんとか起き上がる。
すぐ正面にいる箱野が、両手で足元にボールを運んだ。
「天城大地といえば、雷門の有名なディフェンダーだ。レギュラーの実力を見せてくれよ!」
「ま、まさかその距離で・・!」
「顔面を砕いてやる」


「やめるど!」
今度は箱野が至近距離で、ありったけの力を込めてシュートを放つ。
しかも故意的に、天城の顔を狙っていた。
鋭い回転のかかったボールが、天城の顔面を直撃した。
「ぎゃああっ!!」
頬にぶつかった物凄い威力のシュート。
その勢いで、天城の巨体が吹っ飛ばされる。
地面にドシンを尻もちをついた。
「あっ・・あわわ・・」
「なんだよ、でかい体をして、こんなシュートも防げないのか?」
「や、やるめんだど・・」
「てめーが地べたを這いずるまで、やめねーよ!」
<今度はこっちだ>
四方八方からサッカーボールが降り注いだ。


「ぎゃああっ!!」
複数のサッカーボールが、天城を狙って交差した。
幻影学園の選手たちは、天城の大きな体をめがけてボールを思いっきり蹴り続けた。
中心にいる天城は、どうすることもできなかった。
天城のどてっ腹にボールが食い込み、太い足にボールが直撃した。
「がっ、あっ、げほっ・・」
天城は自然と膝を地面につき、芋虫のような格好でグラウンドに四つんばいになった。


ただひたすら、シュートの痛みに耐え続ける。
「ハァハァ・・お前ら、どうしてこんなことするど・・」
「ヘヘッ、さぁ立てよ、雷門の背番号4番のデブ!」
唇から垂れた血を拭って、フラフラになりながらなんとか立ち上がる。
「お前ら・・自分たちのやっていることが分かっているんだど?」
息も絶え絶えの天城は、泣きそうな声で箱野に告げた。


「こんなのサッカーじゃないど・・。イジメだど・・」
「ほう、よく分かってるじゃねーか。
  しかしイジメとは違うな。俺たちはお前を潰してるんだよ。天城大地が二度とサッカーできないようにな」
天城は唇を噛みながら、必死に反論する。
「こんな非道なことはフィフスセクターだって許可していないど!」
「ならば、フィフスセクターに俺たちのことを話すか?」
「当たり前だど! 許さないど」
天城の強気な発言に、箱野はあっけらかんと笑った。
「できるかな? お前はピンボールスタジアムに無断で侵入したんだ。
  ここはフィフスセクターの管理下で、革命を起こそうとする雷門は入れないことになっている。
  もし、お前のことがフィフスセクターに知れたら、雷門は次の試合ではルール違反で失格だ」
「そんなバカな・・!」
「バカはお前なんだよ。お前がここに来た時点で、雷門はスパイ行為を行っていたことになるんだ。
  もしスパイ行為がバレたらどうなるかな? お前のせいで雷門が失格するんだぞ。革命は失敗、雷門は解散だな」
「そ、そんな・・」
「雷門のみんなはがっかりするだろうなぁ。お前のせいで革命が終わるんだから」
箱野の発言は、天城に絶望を植え付けるのに十分だった。
つまり、天城はピンボールスタジアムでは、どんな非道なことをされても従うしかなかった。
それが一方的なリンチだとしても。
もはや逃げ場はない。
カゴの中の鳥と一緒だった。




次回をお楽しみに。次の話を読む

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