ピンボールスタジアムに閉じ込められた天城は・・?
登場人物
天城大地。巨漢だが繊細の性格な持ち主。真帆路との思い出が忘れられない。
箱野(はこの)。幻影学園のゴールキーパー。デブ専らしい。
ピンボールスタジアムで、天城はたった1人で幻影学園の選手たちからリンチとも取れる制裁を受けていた。
誰も助けてはくれない。
取り囲まれて、シュートを打ち続けられる。
天城に打つ手はなかった。
いつまで続くのかわからない暴行のような行為に、天城は体中にアザを作りながら、耐え続けた。
体を丸めて豚のように耐える天城に、だんだん箱野はイラついてきたのだろうか。
「おい、雷門のデブ!」
「・・・・」
「天城大地、返事をしろよ」
大きな体からは想像もつかない、か細い声で返答をした。
「もう・・やめてくれど・・」
「意外とがんばるじゃねーか。体だけは丈夫みたいだな」
「・・・・」
すると別の幻影学園の選手が口を開いた。
<箱野、もう面倒くさいから、全員でこのデブをリンチにしようぜ>
<そうだ、ボールを使う必要ないぜ>
その発言に、天城は顔から血の気が引くのを感じた。
小学生のときに殴られた苦痛を思い出し、背筋にぞっと寒気が走った。
箱野は全員がイラついている様子を見て、天城に切り出した。
「天城大地くんよ、みんなはお前のことを本格的にリンチにしたいんだとさ」
その言葉を聞いただけで、天城は目に涙を浮かべた。
「うっ・・それだけは・・」
絶望の淵に追い込まれた天城に、箱野はニヤリとして問いかけた。
「ならば、俺から提案があるぜ。一対一で勝負しよう」
「一対一だど・・?」
箱野が悪巧みを考えているのだろうか。
なにか嫌な予感がする。
しかし、リンチにされるよりはマシかもしれない。
そう考えた天城は、箱野に向かって恐る恐る尋ねた。
「一対一でなにをするど?」
「天城大地といえば、すごい必殺技を持っているよな。
地面を叩いて、ドーンとでかい建物が出てくるアレだよ。万里の長城だっけか?」
「俺の必殺技のことを知ってるんだど?」
「まぁな。俺のシュートを必殺技で止めてみろや。もし防げたら許してやるよ」
「ほ、本当だど!?」
「その代わり、もし負けたら」
「負けたら・・?」
箱野はニンマリと笑った。
「真帆路のことは忘れろ。そして俺に絶対服従だ」
「真帆路を忘れろだど・・・?」
できるわけがない。
ずっと友達であり続けたい真帆路を忘れろなんて・・!
「俺にはそんなこと・・できないど・・」
「やるんだよ。どうせ今でも見捨てられているんだ。悪い条件じゃないだろ?」
「だども・・」
「ならば、このままリンチを続けるか? 本当にサッカーができない体になるぜ?
真帆路には潰せと言われたが、俺はお前を救ってやろうと言ってるんだ。やさしいだろう?」
箱野の言うとおり、このままでは一方的になぶり殺しにされるだけだ。
この場からなんとか逃げ出したい天城は、従うしかなかった。
しかし、もう一つの条件が気になる。
「『絶対服従』って、どういう意味だど?」
「ほほう、勝負をする気になったか?」
「負けた時のことは考えたくないけど、質問に答えてほしいど」
すると箱野はニヤついた顔で返答した。
「俺は天城大地のことが前から気になっていてな。
いまこうして初めて会って、お前はやっぱり俺好みなことが分かった。だから俺の好きなようにさせてもらう」
「意味がわからないど」
「お前と付き合ってみたいんだ。悪いようにはしない」
天城にはやはり理解できなかったが、この救いがたい状況よりはマシのようだ。
「・・・分かったど。お前と勝負するど」
「なら決まりだな。センターサークルまで歩け。俺はこのゴールポストからシュートをする」
箱野は天城が提案を受け入れて、内心ほくそえんでいた。
なぜなら、天城の必殺技を破ることは、彼に最も精神的なダメージを与えると思ったからだ。
天城の一番自信をもった技を破れば、
すべての努力がムダになるような、そんな喪失感を与えることができる。
しかも大勢の前で行われれば、なお効果的だ。
これはもはや、天城の公開処刑に近い。
だから箱野は天城を潰すために、いや自分のものにするために、わざと必殺技を要求したのだ。
天城はボロボロの体を、無理やり叩き起こした。
センターサークルまでヨタヨタと歩を進める。
体のあちこちが悲鳴をあげて、苦しい。
周りの幻影学園の選手たちは、天城をみてヘラヘラと笑っていた。
(どうしてこんなことになったんだど・・どうして・・?)
ピンボールスタジアムに入るまでは、希望に満ち溢れていたのに・・。
天城はすぐに泣きたいくらい、虚しい気持ちになった。
センターサークルへの道は、まるで地獄への道しるべのように思えた。
次回をお楽しみに。次の話を読む