天城大地小説(8)


箱野と一対一で勝負をすることになったが・・?


登場人物

天城大地。巨漢だが繊細の性格な持ち主。真帆路との思い出が忘れられない。

箱野(はこの)。幻影学園のゴールキーパー。デブ専らしい。


天城の顔にはまるで生気がなかった。
表情が青くなり、心が完全に折れる一歩手前まで追い詰められていた。
<速く歩けよ、雷門のデブ!>
<こんな弱っちいヤツが、真帆路の幼馴染なんてウソだろ>
なにやら陰口が聞こえた。
天城は耳をふさぎながら、センターサークルに到着する。
(アイツのシュートを絶対に止めるど・・そうしないと俺は大変なことに・・)
気合を入れなおすために、両手で頬をパチンと叩いた。
息を大きく吸って、ゴールポストにいる箱野に向かって叫んだ。



「準備はいいど。さぁ、シュートしてくるど!」
「ほほう、泣いたカラスが少しは元気が良くなったな。では行くぞ」
箱野はハァと気合を入れる。
すると背中から紫色の光が伸び、やがてその光は化身となった。


「あれは、まさか・・・」
「勝負師ダイスマン!」
箱野の"気"から具現化されたのはルーレットのような派手な色をした化身だった。
驚きを隠せない天城に、箱野はせせら笑う。
「この"勝負師ダイスマン"はキーパーとして使っている能力だ。
  だが攻撃する能力も半端ないぞ。行くぞ、ラッキーダイスショット!」
化身からサイクロが振られると同時に、まるで稲妻のようなシュートが天城に放たれた。


突然の化身の出現に、天城は唖然としたが、すぐに我に戻った。
「化身なんかに負けないど! ビバ! 万里の長城!」


天城は拳で思いっきり地面を殴りつける。
すると石を積み上げた建造物がせり上がってきた。
その建造物は、天城が叫んだとおり、あらゆる攻撃を防御する壁、まさに万里の長城を彷彿とさせた。
天城は万里の長城の砦に、腕を組んで仁王立ちとなる。
しかし箱野は余裕の笑みを浮かべて、話してきた。
「いいぞ、天城大地。その技を見たかったんだ」
「どういう意味だど!?」
「万里の長城は、お前の努力の賜物だろう? それが破られたときどうなるのかな?」
「させないど!」
「フフフッ、精神力がどこまでもつかな?」


「行け、勝負師ダイスマン!」
「絶対に負けないど!」
両者の意地と意地がぶつかり合う。
ダイスマンから放たれたシュートは矢のように、城の壁に突き刺さった。


天城は傷ついた体にムチを打って、全身に力をみなぎらせる。
化身の力と同様に、必殺技の力も精神力によるところが大きい。
いまの天城には、必殺技の"万里の長城"を出現させるのでさえ、限界の精神状態だった。
それに加えて、化身のシュートの威力に耐える力はほとんど残っていない。
しかし、この勝負に負ければ、真帆路と完全に離れ離れになってしまう。
意識を失いそうらなりながら、必死に壁を持ちこたえさせた。
ボールはしばらく壁にめり込んだまま、なんとか持ちこたえる。
「ほほう、あれだけ痛めつけたのに、まだこんなに力が残っていたとは」
「まだ・・やれるどっ」
「そうだよなぁ。ここで負けたらお前はもうおしまいなんだ。
  最後の力まで、すべて出し切るがいいさ。そして力を使い果たしたときがお前の最後だ」


天城は最後の力を振り絞る。
一方の箱野からは余裕さえ感じ取れる。
「ハーハハッ、頑張るな」
「うっ・・負けない・・ど・・・」
「お前の精神力はもう限界にきているはずだ。あまり無茶すると、本当に息の根が止まるぜ」
周りから見ると、一進一退の攻防に思われたが、天城の衰弱は激しかった。
幻影学園の選手からリンチのような攻撃をされた後では、さすがに精神力も体力も底をついていた。
一方、化身のシュートの威力は衰えることを知らなかった。
「うぐぐっ・・」
箱野の化身の力は、天城の想像を超えるほどの威力だった。
徐々に万里の長城の壁にヒビが入り始める。
そして、天城の気力が限界に達したとき・・。
「うわわぁぁぁ!」


天城の断末魔のような叫びだった。
ヒビの入った壁に亀裂が広がり、万里の長城は木端微塵に崩壊した。
天城は悶絶しながら、グラウンドに落ちて叩きつけられる。
その哀れな姿に、箱野は満足気な表情を浮かべた。
「ワーハハッ、俺の勝ちだ!」


天城はグラウンドに大の字に倒れたまま、ビクビクと体を震わせていた。
すべての力を使い果たし、立ち上がる力さえ残っていなかった。
天城は涙をためて、つぶやいた。
「俺・・負けたんだど・・。真帆路とも、さよならなんだど・・」
真帆路と二度と会えないであろう現実。
受け止めるだけの気力も失われた。
「うっ・・・ううっ・・」
目に涙が滲んできた。
天城はグラウンドに倒れたまま、心に大きな穴がぽっかりと空いたような、そんな喪失感に襲われていた。


箱野はゴールポストから、ノシリノシリと歩いて近づいてきた。
天城の顔を覗き込む。
箱野の想像通りに、天城の表情は悲しみにうちひしがれたものだった。
「ヘヘッ、そうだ。お前のその顔が見たかったぜ。天城大地」
「俺の・・なにを見たいんだど・・?」
「お前のすべてがみたいな」
天城の顔は、先ほど勝負したときとは別人のように、弱々しい顔をしていた。
人間の望みが失われると、こんな顔になるのかと箱野は思った。
箱野は勝ち誇ったように笑う。
「これで天城大地は俺のものになった」
「俺をこれからどうするんだど・・?」
「さて、どうしようかな」
箱野は自分の目的が達成され、思わず口元が弛んだ。


<なんかつまねんねーぞ>
<箱野がデブ好きなのはわかるけど、1人だけずるくねーか?>
<俺たちも楽しませろよ>
<天城大地は俺たちで解剖する約束だろ>
2人だけの世界に浸っていた箱野に、予想外のことが起きていた。
幻影学園の他のメンバーが、いつのまにか箱野と天城を囲って、不満を言い出したのだ。




次回をお楽しみに。次の話を読む

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