登場人物
金太郎。足柄山で育った怪力少年で、モンスターと戦う見習いハンター。
ジライヤ。アイルーというネコ獣人で金太郎のサポート役。
ドドブランゴ。雪獅子と異名をとる牙獣種で、雪山のボス。
上空で爆発した閃光玉。
ブランゴ軍団は爆発した光に目が眩んで、全員がフラフラと倒れこんだ。
「やったぜ! 閃光玉の威力、思い知ったかぁ!」
金太郎はパチンと指を鳴らすと、マサカリを振り上げて見得を切る。
「なにをするのかと思えば、原始的な作戦だニャ・・」
「でも、みんな倒れたぞぉ?」
「いまどき、UFOなんて誰も信じないニャー」
「ジライヤも上を見ていたじゃないか」
「・・・・。今回は結果オーライだニャ」
初めて閃光玉を上手に操れてよほど嬉しいのか、金太郎は「へへん」と鼻をすすりながら喜んでいる。
ジライヤも、今回ばかりはうまくやったなと金太郎のことを認めざるを得ない。
「金太郎にしては、よくやったニャ」
「そ、そうか!? 遠慮しないでもっと誉めていいぞ。おいら天才かなぁ?」
(まったく・・ちょっと誉めるとすぐに調子に乗るニャ)
ジライヤはフッとため息をつくと、金太郎に真面目な声で話しかける。
「早くドドブランゴのところに行くニャ。これから案内するからついてくるニャー!」
「うん。分かった!」
ヒクヒクと倒れているブランゴたちを尻目に、金太郎はジライヤの後を追って、さらに雪山を進んでいく。
しばらく登っていくと、雪山の頂上が見える場所までやってきた。
この場所にはよくモンスター退治にくるのだが、ドドブランゴのアジトがあった記憶はない。
「こんなところに、ドドブランゴがいたっけ?」
すると、ジライヤは雪山の山頂を指差した。
「山のてっぺんに、ドドブランゴのアジトを見つけたニャ」
「えーっ、てっぺん? どうやっていくんだ?」
「これから案内するニャ!」
ジライヤは、小走りに山の壁沿いに歩くと、ある場所で立ち止まる。
「金太郎、ここに小さな穴があるニャ。ここをしゃがんで通り抜けるニャー」
「へぇ・・こんなところに抜け道があったのかぁ・・」
ジライヤが指を差した方向をみると、まるでカマボコのような形をした円筒形の穴があった。
金太郎は、四つん這いの格好になって穴を通り抜けていった。
穴を抜けると、そこには頂上につながると思われる急な斜面があった。
(雪山にこんな場所があるなんて・・おいらにはまだ知らない場所があるんだなぁ・・)
ジライヤは雪山のありとあらゆる場所を知り尽くしているらしい。
おそらく、自分が行ったことがない未知の場所が、まだ多く存在するのだろう。
金太郎とジライヤは、ロッククライミングをする要領で、斜面を登っていく。
そして、頂上と思われる場所にたどり着いた。
(うわー、下を眺めると景色がきれいだぁ!)
頂上といっても、雪で真っ白な平地が拓けており、想像以上に広い場所だった。
山頂からはきっくりと地平線が見え、麓の村がアリのように小さく見えて、壮大な景観だ。
金太郎がキョロキョロと辺りを見渡すと、その一角に大きな白い雪獅子がゴロンと横になって眠っていた。
おそらく手下のブランゴに任せて、意気揚々と眠っているのだろう。
<ZZZzzzz・・・>
金太郎は、鼻からちょうちんをあげて眠っているドドブランゴの後ろからそっと近づく。
小声でジライヤに話しかけた。
「なぁジライヤ? コイツ、寝てるよ。どうする?」
「構わないから首を撥ねて、村長のところに持って帰るニャ」
「でも、それはちょっと卑怯じゃねーか?」
「コイツはブランゴ軍団を差し向けて、金太郎を襲ったニャ。自分は寝ているだけで、卑怯もクソもないニャ」
「そりゃそうだけど・・・なんか腑に落ちない勝ち方だなぁ」
金太郎は、マサカリを両手で持ち、ゆっくりと振り上げる。
「とりゃ〜!!」
威勢のよい声とともに、ドドブランゴの首をめがけて振り下ろした。
ドスン・・!!
威勢のよい声とともに、振り下ろされた金太郎のマサカリ。
それは、ドドブランゴの頭の横に、地面に穴を開けて突き刺さっていた。
金太郎の行動に、ジライヤが怒ったような口調で地団駄を踏んだ。
「金太郎、どうしてドドブランゴの首を撥ねなかったニャ!」
「だって・・」
「ドドブランゴを倒す絶好のチャンスだったニャ。どうしてわざと外したニャ!」
「おいら、眠っているドドブランゴを倒しても全然嬉しくないもん」
「でも、村の平和を守るには、ドドブランゴを倒すのが先決だニャ!」
「村の平和よりも、コイツと戦いてぇ」
金太郎の言葉を聞いて、ジライヤは思った。
金太郎は、いつも強い相手と戦いたいのだ。
そのために村にやってきて、わざわざ危険を冒してまで強敵に立ち向かっている。
なにが金太郎をそうさせるのか、理由は分からないのだが・・。
悔しそうに唇を噛む金太郎の姿をみていると、ジライヤは、これ以上叱責することはできなかった。
金太郎が地面からゆっくりマサカリを抜く。
すると、マサカリが突き刺さったことなどまるで意に介していないような、ドスの利いた声が聴こえた。
『どうした? この俺様の首を撥ねないのか?』
まだ寝転がって横になったままのドドブランゴの声だった。
後ろを向いて寝ているので、表情は分からないが余裕を感じる。
雪山のボス格というだけあって、その声は低くて、落ち着いていて、雄々しい。
金太郎は、寝たままのドドブランゴに向かってキッパリと言い放った。
「おいら、卑怯者じゃねーもん!」
『俺様を倒す最後のチャンスだったかもしれんぞ』
「おめー、おいらのマサカリを避けなかったけど、当たらねーと分かっていたのか?」
『さぁな。だがどちらにしても当たらなかっただろう』
「猿のくせに格好いいこと言うなぁ。そういや、言葉も喋ってるぞぉ」
ドドブランゴはずっと金太郎に背を向けたまま、話し続ける。
『俺様は猿ではない。ところで手下のブランゴ軍団はどうした?』
「あー、アイツら? おいらがやっつけたぞ。今度はおめーがおいらと本気で戦え!」
『"戦え"だと・・? 俺様に命令するとは、随分と生意気な口を叩く小僧だ。死にたいか?』
「おいら、死なないもん」
『たいした自信だな。死んであの世で後悔するがいい』
ドドブランゴはゆっくりと起き上がり、金太郎のほうに向きなおす。
顔はマントヒヒともゴリラとも言えぬ、それでいて威圧感のある雰囲気が漂っていた。
据わった目で金太郎を見下ろす。
『フゥ・・では戦うとするか』
ドドブランゴは目にも留まらぬ速さで四つん這いになったかと思うと、一瞬にしてその場から風のように姿を消した。
「は、速ぇえ!」
「どこ行ったニャ!」
ジライヤは完全にドドブランゴを見失い、その場で腰を抜かす。
しかし、金太郎はしっかりと目で敵を追っていた。
「ジライヤ、上だぁ!!」
『遅いわ!』
数メートル飛び上がったドドブランゴは、両手のツメをグイッと伸ばして、真下にいる金太郎とジライヤに襲い掛かる。
「ジライヤ、危ねぇ!」
金太郎は、アタフタとするジライヤを胸の前で抱っこして、そのまま前方に倒れこんで地面に滑り込む。
ドドブランゴのツメは、わずかに金太郎の背中をかすめ、ビュンと音を立てて空を斬った。
まさに一瞬の出来事。
完全に避けきったと思われたドドブランゴのツメ攻撃だが、
金太郎の背中に、薄っすらと縦にツメの引っ掻き傷の跡が浮かび上がっていた。
わずかに血も流れているようだ。
『ほほう、よく避けたな』
「痛てて・・。おめー、とんでもなく速いな。おいら、びっくりした!」
実力者同士の戦いとなると、展開が速い。
金太郎は、すぐに飛び起きてドドブランゴと距離をとる。
「ジライヤは地面に潜ってろ! スキを見て援護してくれ!」
「わ、分かったニャ!」
金太郎はマサカリを正面に構える。
一方のドドブランゴは、特に身構えることもなく自然体で四つん這いに立っていた。
時折、ブォーと白い息を吐き、相手を威嚇する。
金太郎は、ドドブランゴの一挙手一投足を見逃すまいと、気を張り続けた。
「久しぶりに、おいら震えてきたぞ・・・。ションベンしたくなるくらい、うれしいぞぉ!」
『ハーハハッ、ションベンを漏らしたの間違いではないのか?』
「ちょっぴり漏らしちゃったけどね、えへへ」
『コイツ、小僧のくせに余裕がありやがる』
並のハンターならば、ツメの一撃でビビッて逃げ出してしまうだろう。
しかし、金太郎は逃げ出すどころか、戦い自体を楽しんでいるかのように見えた。
それが雪山のボスであるドドブランゴには、気に食わなかった。
(このクソ生意気な小僧が!)
ドドブランゴは、大きく息を吸い込む。
『ウォオオ!』と咆哮をあげると、穏やかに降っていた雪が、一瞬にして吹雪に変わった。
雪山のボスというだけあって、雪を自在に操る力があるらしい。
『フフフッ、この寒さにどこまで耐えられるかな? 凍ってしまえ!』
「どんなに吹雪いても、おいらは平気だぁ。ちゃんとホットドリンクを飲んでるからね」
金太郎は、大木のように両足を地面につけて踏ん張り、荒れる吹雪では飛ばされないように構える。
それは金太郎の下半身が、強靭に鍛えられている証拠だった。
『小僧がぁ! 死ねぇいい!』
ドドブランゴは雄たけびとともに、金太郎に向かって思いっきり地面を蹴る。
体ごとタックルをするように、猛然と金太郎に飛び掛った。
ドドブランゴは、体を半回転させながら、金太郎のいる場所に地響きを鳴らして滑り込む。
大きな体を活かして、金太郎をペシャンコにする作戦だ。
『ハーハハッ、俺様の巨体の下敷きになって死んだか? 一瞬の勝負だったな』
ドドブランゴは、金太郎の死体を確認しようと、ゆっくりと起き上がる。
しかし、地面には人間が潰れたような痕跡はなにもなかった。
『なにっ・・どこに行きおった・・?』
ドドブランゴが額に汗を垂らしながら、キョロキョロと周りを確認していると・・。
「おいらなら、ここだぁ!!」
『上だと!?』
金太郎が上空から真下にいるドドブランゴに向かって、マサカリを振り下ろしていたのだ。
第4話「ブリザードブレスVSマサカリストリーム」をお楽しみに。次の話を読む
おまけコーナー
今回登場したモンスター
ドドブランゴ
雪山をねじろとする猛獣型モンスター。雪山のボス格で、手下にはブランゴというモンスターがいる。非常に動きが機敏で、突進や飛び掛り、バックステップなどの体術が得意である。さらに大きく息を吸い込んだ後、冷気のブレスを吐いてハンターを雪だるまにしてしまう。小説本編では人語を話し、威風堂々としている様子は同じ。冷気のブレス=「ブリザードブレス」を必殺技としており、金太郎と死闘を繰り広げる。