登場人物
金太郎。足柄山で育った怪力少年で、モンスターと戦う見習いハンター。
ジライヤ。アイルーというネコ獣人で金太郎のサポート役。
ポッケ村の村長。クエストをハンターに依頼する。
──次の日。
「けーったぞー!!」
ポッケ村に響く、金太郎の底抜けに明るい声。
金太郎はマサカリを背中に担ぎ、村の奥へと向かう。
のっしのっしと大股を開いて歩く金太郎に、近くにいた村人が駆け寄って話しかけてきた。
<今日もモンスターを退治したのか?>
「おいらが負けるわけねーぞ」
<どんなモンスターがいたんだ?>
「ブランゴが6匹とドドブランゴだ」
<今日はお宝があったのかい?>
「あぁ。ジライヤが雪山草をたくさん取ってきたぞぉ!」
金太郎は、村長のいるところに向かうまでに、何人もの村人に声をかけられる。
ポッケ村では、すでに金太郎はハンターとして有名であり、金太郎の武勇伝を聞きたいという人間も多いのだ。
金太郎は、村人の質問にいつも明るい声で、元気に返事をする。
そんな素直で屈託のない金太郎の笑顔は、数年間モンスターに苦しめられていた村人たちに勇気と希望を与えていた。
金太郎とジライヤが村の一番奥まで歩くと、石碑の前に1人の老婆が立っていた。
──ポッケ村の村長。
そう呼ばれる者は、金太郎よりも随分と背が小さくて杖をついた老婆だった。
すでに腰が曲がり、耳が悪いのか、なにを尋ねても首を傾げてくる。
しかし、不思議な力を持ってくるらしく、ポッケ村の近くに出没するモンスターの気配を感じ取ることができるらしい。
ただし、巨大な気を持つ、いわゆる"ボスモンスター"の気配だけだ。
日本でいうところの、"巫女"のような存在なのだろうか?
「婆ちゃん、帰ったぞ」
「よいよーい」
「帰った」
「ほれ、ニャレメ」
金太郎はやれやれという表情で、倍の声で叫んでみる。
「婆ちゃん、いま帰ったぞ!!」
「そうかそうか。金太郎よ、無事でなによりじゃ」
「なんだ、聴こえてるじゃねーか」
「お前のような子供が、ブランゴ相手に互角に戦えるとは、このオババも鼻が高いわい」
「互角じゃねーぞ。ブランゴなんて、おいらの敵じゃねーもん。ドドブランゴもついでにやっつけた」
「雪山の
「うん」
金太郎の返事に、村長は持っている杖に気を集中して、なにかを探り出した。
しばらく村長はなにかを探った後、曲がった腰を伸ばして、ゆっくりと顔をあげる。
そして先ほどとは少し違った声で、キッパリと断言した。
「金太郎よ」
「なんだ、婆ちゃん?」
「おぬし、きちんとトドメを差さなかったな。虫の息のようじゃが、気配を感じる」
「えー、本当に!?」
「沼地の方向からじゃ」
「じゃあ、いまから沼地に行って、ドドブランゴをやっつけてくる。アイツと戦いてぇ!」
その言葉を聞いて、村長は金太郎に忠告をする。
「金太郎、勝手な行動は許さん。
ハンターに登録された者は、正式なクエストの依頼なしには、モンスターを狩ってはならんのじゃ。
ルールを守れない者はハンターをやめてもらう。それがこの村のおきてじゃ」
「どうしてそんなルールがあるんだ? やっつけたほうが早いじゃねーか」
「多くのハンターに、公平にモンスターを討伐する機会を与えるためじゃ」
「ハンターっても、今はおいらしかいないのに」
ブツブツと不満をいう金太郎に、カッと睨み付ける村長。
ある意味、モンスターよりも鋭い眼光に、金太郎はビクッとする。
「金太郎、聞き分けをもたんか!」
「う、うん・・・婆ちゃんごめん・・その・・分かったよ」
「よしよし、分かればよいのじゃ」
少しシュンと気落ちした金太郎に、村長がやんわりと話しかける。
「ところで、今回のクエストの収穫はどうだったんじゃ?」
「あ、そうだった!」
金太郎はニコッと笑い、隣にいるジライヤを指差す。
「ジライヤ、雪山で拾ったものを婆ちゃんに渡してくれ」
「分かったニャ」
ジライヤは腰にぶら下げた袋から、なにやらゴソゴソと取り出した。
「雪山草が5本、薬草が10本、ハチミツが3個、ネンチャク草が7本・・・・それにブランゴの毛が2本だニャ」
「ジライヤ、今日は随分といっぱい取ったんだな」
「そりゃそうだニャ。金太郎が眠っているうちに、村の貴重な資源になるものを取っているだニャ」
その言葉を聞いて、村長がいぶかしげな声で尋ねる。
「眠っているうちじゃと?」
ジライヤは額に汗をかきながら、慌てて返事をした。
「い、いや、金太郎もちゃんと雪山草を取っているニャ。金太郎は戦い以外も立派にこなすハンターだニャ」
「それならばよい。ハンターたるもの、モンスターを倒すだけでは・・」
「それ以上のご高説はもう結構ですニャ。早く収穫品の品定めをして欲しいニャー」
ジライヤがすべてにアイテムを村長に渡す。
「フムフム。貴重な草木が多いな。ドドブランゴは討伐できなかったので、今回はブランゴ討伐の報酬だけじゃ」
村長からは取得したアイテムの報酬として、相応のお金が手渡された。
──モンスターを倒して、報酬をもらう。
それがポッケ村の基本的なルールだ。
ポッケ村はここ数年、近くの雪山や密林、沼地に、たくさんのモンスターが現れるようになった。
雪山に行こうものなら、ブランゴ軍団に襲われてケガをする村人が続出し、
沼地に行けば、イーオスという鳥竜が毒液を吐いて襲ってきて、身ぐるみはがされてしまう。
そこでポッケ村では「ハンター制度」というものを設立し、世界各地から猛者を集めた。
モンスターを狩れば、それ相応の報酬を出すことに決めたのだ。
村人がモンスターに襲われた場合、村長に報告がされる。
そして村長が「クエスト」と呼ばれる、モンスター退治の募集案内を正式に告示するのだ。
ちなみに今回、金太郎が受けた「クエスト」の内容は、隣村と商売をしている村人からの依頼で、
『雪山を荒らしまわるブランゴの討伐を依頼したい』というものだった。
モンスター退治のクエストが告示されると、内容と報酬額、難易度も同時に村長から知らされる。
村にやってきた力自慢は、ハンターとして登録され、
村に告知される「クエスト」の内容を見て、どの依頼を受けるか自分で決める。
そして、村長から正式にクエストを依頼されて、初めてモンスターを倒すことが許可される。
ハンターは、速やかにモンスターを倒すか捕獲した後、村長に報告して報酬を得るのだ。
つまりハンター制度とは、「賞金首制度」のようなシステムと言ってもいい。
このシステムの噂はすぐに広まり、モンスターを倒してお金を儲けようとする力自慢が、各地からたくさんやってきた。
そしてクエストの告知を見ると、先を争うように依頼を受けて、雪山に飛び出していった。
しかし、雪山から戻ってくるものはいなかった。
ポッケ村周辺に現れたモンスターは、凶暴な動物ではなく、常識を超えた強さを持つ真の「モンスター」だったのだ。
ポッケ村は、結局孤立したまま、数年が過ぎていた。
そして、ハンターとして名乗る者もいなくなっていた。
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村長が金太郎に話しかける。
「金太郎、早く自分の家に戻って休むのじゃ。いつ次のクエストが告示されるか分からんぞ」
「うん。わかった。ありがとうな、婆ちゃん!」
そう言うと、金太郎は村のはずれにあるハンター専用の家に向かって、元気よく走っていった。
そんな金太郎の姿を見て、村長は不思議と表情が柔らかくなった。
「ほれ、ジライヤ。お前も行かんか」
「村長、いつも金太郎のことを心配してくれてありがとうだニャ」
「おぬしこそ、いつも金太郎に的確なアドバイスを送っているじゃろ?
金太郎はたしかに強い。しかし、まだまだ子供じゃ。おぬしがいなければ何もできん。頼むぞ」
「そういわれると照れるニャ」
ジライヤは村長に一礼すると、そのまま金太郎のあとを追っていった。
「おぬしらはポッケ村に差した光じゃ。がんばるんじゃぞ、2人で力を合わせてな」
第6話「金太郎のおうち」をお楽しみに。次の話を読む
おまけコーナー
ポッケ村
実際のゲームでは、宿屋や武器屋がある、いわゆる「拠点の村」。太古より溶けることのない雪で覆われたフラヒヤ山脈の麓にある小さな村。村の近くでは氷結晶や雪山草という珍しい資源が手に入ることが有名。数年前にモンスターが突然現れて、それらの資源を採取することが困難となる。村は貧困化したため、ココット村で制定されたというハンター制度をそのまま導入する。現在はハンターを募集しており、モンスターの素材を金に換えて報奨金を出し、村の運営を計っている。
今回登場したモンスター
ブランゴ
雪山に生息する猿のようなモンスター。小説ではドドブランゴの手下であったが、金太郎にほぼ全滅させられている。
イーオス
沼地に生息する恐竜のようなザコモンスター。毒液を吐いて人間を苦しめる。