登場人物
金太郎。足柄山で育った怪力少年で、モンスターと戦う見習いハンター。
ジライヤ。アイルーというネコ獣人で金太郎のサポート役。
ポッケ村の村長。クエストをハンターに依頼する。
──金太郎の家。
正確にいうと金太郎の持ち家ではなく、ハンターに貸し与えられる家だ。
もっとも、いまは金太郎のほかに誰もハンターがいないため、金太郎の家同然なのだが。
村のはずれにあり、寝室とキッチンと風呂があるだけのシンプルな木造住宅。
金太郎は扉を開けて部屋に入ると、すぐに暖炉に火をつける。
暖炉の明かりが徐々に周りを照らし、ようやく金太郎の手を暖めるほどの熱を放出する。
「うー、寒かったー!」
金太郎は手を擦り合わせ、フゥフゥと手の甲に息を吹きかける。
「金太郎、そんなに寒いニャ?」
「あったりめーだろ。雪山はホットドリンクのおかげで耐えられるけど、効力が切れたらめちゃくちゃ寒いんだぞ」
「そりゃ、金太郎が裸みたいな格好してるからだニャ」
「これはおいらのイッチョウラなんだ。絶対に武器屋の鎧は着ねぇ」
「そのうち、鎧をつけないと太刀打ちできないモンスターがでるニャ。
それに村の鍛冶屋が金太郎のために、ホットドリンクがなくても寒さをしのげる子供用の鎧を作っているニャ」
「大丈夫だよ、おいらはそんなのいらねぇもん」
「変なこだわりがあるんだニャ。子供にくせに」
「う、うるせーやい! そんなことより、早く食事作ってくれ。おいら、もう腹ペコだよ」
「分かったニャー!」
ジライヤは、寝室の奥にあるキッチンに入っていった。
キッチンはかなりの広さがあり、金太郎とジライヤの2人には十分すぎるものだった。
ここでは食事を作る以外にも、スタミナを回復する「こんがり肉」を焼くこともできる。
ちなみにジライヤは、クエストでは金太郎のサポートをし、家に帰れば金太郎の食事も作る。
なんでも出来る天才ネコ。
まるで金太郎のお嫁さんか、はたまた保護者のような存在だ。
キッチンにはさまざまな食材があり、金太郎の体調や目的に合わせて調理を行う。
体力をつけたいなら主に肉と野菜を、攻撃力をアップさせたいのなら、主に果物と乳製品を使う。
「今日は金太郎の体力アップのために、肉と野菜だニャ!」
2つの素材をミックスして、常に金太郎の体調を管理する。
これも"オトモアイルー"であるジライヤの仕事のひとつだ。
──アイルー。
アイルーとは、特定の住居を持たずに世界を転々とする、ネコ型の獣人族である。
モンスターがこの世界に現れると、アイルーも戦いの場に参戦し、人間をサポートする。
彼らは人間族と違って、かなりの長寿であり、500年も生きるものがいる。
姿かたちは2足歩行をするネコで、小さくて弱そうにみえるのだが、人の言葉を話し、頭のいい種族だ。
アイルーの中には、ハンターを目指すツワモノもいるが、ほとんどは人間族のサポートに回る。
ポッケ村でハンター制度が設立されたとき、アイルーの一族はその機敏さと知識の豊富さから、
ハンターを育成し、サポートするように、村長と"オトモ"としての契約を結んだのだ。
だから、新しいハンターがくると、一匹のアイルーが専属でサポートにあたった。
もちろんタダではない。それなりの契約料が必要だ。
最初の頃は世界中からハンターと名乗る者が大量にやってきて、オトモアイルーが足りないくらいであった。
しかし、ハンターたちがモンスターに殺されると同時に、オトモアイルーも殺されるケースが多い。
だから、いまポッケ村に残っているアイルーは、ジライヤの他に数十匹だけとなっていた。
ジライヤは、金太郎にとっての命綱とも言える存在なのだ。
もっとも、それを金太郎が自覚しているのかは、甚だ疑問であるが・・。
アイルーの中でも戦闘をサポートする者を、"オトモアイルー"と呼ぶ。
他には、料理のみを担当する"キッチンアイルー"など、スキルによって分かれている。
ジライヤは村にいるオトモアイルーの中でも、天才アイルーと評判が高い。
クエストのサポートから、家事までできるアイルーは、ジライヤくらいなものだ。
ジライヤが担当していることといえば・・。
──金太郎の食事を作って、健康、体調を管理する。
──戦いの状況を見極め、金太郎にアドバイスを送る。
──ポッケ村に鉱石や雪草などの資源を持ち帰る。
──閃光玉などのアイテムを調合、選別する。
などなど・・。
オトモアイルーは、新米のハンターを一人前に誘導していく役割も持つ。
特にハンターがモンスターと戦っているときに、ザコのモンスターを引きつける役は重要だ。
オトモアイルーもこのときばかりは命がけの仕事になる。
先の戦いでも、ジライヤはブランゴ軍団の不意をついて、地中から見事にブランゴの一匹をピヨらせた。
ちなみにジライヤの武器はピヨピヨハンマーと呼ばれるもので、
殺傷能力はないが、脳天に命中すると強靭なモンスターでも、ピヨらせることができる。
ジライヤが村の鍛冶屋と共同で作った、優秀な武器なのだ。
ハンターは本来、戦うこと以外にもするべきことがある。
村のために資源を掘り出して、持ち帰るのもハンターの役目だが、金太郎は全く興味がない。
さらに、クエストに出発する前に必要なアイテム、たとえば閃光玉や音爆弾などを選別するのだが、
金太郎はアイテムの名前すらまともに覚えていないため、ジライヤが準備をしていた。
本来ならば、ハンターである金太郎がしなくてはならないことも、
あまりにジライヤの能力が高いため、彼1人が担当していた。
金太郎の怪力は、誰もが認めるところではあるが、正直あまり頭は良くない。
すぐに道に迷うし、アイテムは落とすし、モンスターに騙されるし、いわゆる怪力バカなのだろう。
だから金太郎は、まだまだ半人前なのだ。
もっとも子供である金太郎にすべてを要求するにはムリなのは、ジライヤも理解はしていた。
「金太郎〜、食事ができたニャ!」
「おう! 待ってましたーっ!」
金太郎はナイフとフォークを両手に持ち、机にトントンと音を立てて料理を待っていた。
ちょっとお行儀が悪いが、ジライヤが叱っても直らないので仕方がない。
金太郎は、皿に盛られた肉料理を、おいしそうに平らげる。
「うんめー!」
「金太郎のためにがんばってるニャ。喜んでもらえるとうれしいニャー!」
金太郎は、焼いたローストビーフを口に頬張りながら、ジライヤに話しかけた。
「最近は、ジライヤの料理もずいぶん上達したなぁ」
「初めから上手だニャ。金太郎の好き嫌いが激しいだけニャ」
「おいら、なんでも食べるもん」
「ピーマンは嫌いだニャ」
「・・・。あー、うまかったぁー!」
金太郎は満腹になったお腹をポンポンと叩きながら、『げっぷー』と息を吐く。
「金太郎、お風呂を沸かしておいたニャ。クエストの疲れを取るニャ」
「うん。じゃ、入ってくる」
キッチンの奥には、金太郎がやっと全身を伸ばせる程度の小さなの浴槽がある。
素っ裸になった金太郎は、湯船に浸かりながら、フンフンと上機嫌だった。
「うー、ごくらくごくらく〜!」
「金太郎、こっちにくるニャ。背中を流してあげるニャー」
「ありがとう!」
いつのまにか、皿洗いを終えたジライヤが風呂場に入ってきていた。
ニコッと笑いながら、金太郎を手招きしている。
金太郎は「よっこいしょ」と浴槽から出ると、風呂桶に腰をかける。
「じゃ、背中を洗うニャ」
「うん。頼むよ」
ジライヤはタオルを肉球で器用に掴むと、たっぷりと石鹸をつけて金太郎の背中を擦った。
ジライヤは金太郎の背中を擦りながら、話しかけた。
「金太郎の背中、ずいぶんと大きくなったニャー」
「そ、そうかぁ!?」
「ポッケ村に来たときは、こんなに筋肉がついてなかったニャ」
「おいらがポッケ村に来たのって、いつだったっけ?」
「ちょうど1年前ニャ。金太郎と初めて出会ったときのことはよく覚えているニャ」
金太郎の背中を見ながら、ジライヤは1年前の日のことを思い出していた。
第7話「安眠妨害だニャ!」をお楽しみに。次の話を読む