登場人物
金太郎。足柄山で育った怪力少年で、モンスターと戦う見習いハンター。
ジライヤ。アイルーというネコ獣人で金太郎のサポート役。
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金太郎がポッケ村に現れたのは、いまからちょうど一年前。
ボクが村長に隠れて雪山草を取りいった帰りに、道の真ん中に金太郎が倒れていたニャ。
『腹減った〜なんか食わせてくれ〜』
初めて金太郎を見たときは、思わずプッと笑ってしまった。
だって、服装がおかしいんだニャ。
赤い前掛け一枚。
後ろでエプロンみたいに結んでいるものの、おちんちんとお尻は丸出しに近い。
こんな格好の子供が、どうしてポッケ村の近くで倒れているのか、不思議でたまらなかったニャ。
両親は? 家は? どこから来たのか?
なにを質問をしても、金太郎はただ『なにか食わせろ』としか言わない。
生意気なガキだから、このまま放置しておこうかと思ったが、ボクはそんなに冷たいネコ獣人じゃないニャ。
ボクは小さな荷車に金太郎を乗せて、村まで懸命に押して帰った。
小さいのにデブだから、めちゃくちゃ重かったニャー!
金太郎は我が家につくなり、ウチにあった食料をむさぼるように食べてしまった。
よほどお腹が空いていたんだろうが、遠慮という言葉を知らない子供だと思ったニャ。
金太郎はボクに、こういったんだ。
『おいらは金太郎っていうんだ。伝説で聞いたモンスターが現れたっていうから、ポッケ村にきたんだ』
ご飯粒を顔につけながら、真面目な顔をして話す金太郎。
しかし、どこからどうみても子供。
子供がモンスターを退治するハンターに志願するなんて、聞いた事がないニャ。
『ハンターになって、おいらもモンスターと戦ってもいいかなぁ?』
まったく口の減らないガキだニャ。
大の大人でもモンスターを倒すことが出来ないというのに。
どうして、子供がハンターになれるというのか?
ちょうどこの時期、各地からポッケ村にやってきた力自慢たちは、
みんなモンスターに殺されてしまい、村にはハンターと名乗る者がいなかったんだニャ。
ポッケ村では藁をもすがる気持ちで、ハンターを募集していたのだけれど、ついにこんな子供がやってくるとは・・。
天はついにポッケ村を見放したニャー!!
本当にそう思った。
ボクは金太郎をあしらうように、冷たく言ったニャ。
「ここは子供の遊び場じゃない」と。
でも、金太郎は引き下がらなかったニャ。
『おいら、足柄山じゃバケモンみたいな獣と戦ってたんだ。そこで親分になった』
金太郎の体をよく見てみると、子供とは思えない筋肉のついたいい体をしている。
『このマサカリで、どんなモンスターも真っ二つだぞぉ!』
たしかに金太郎が持っているマサカリは、とても重量があり、子供が扱うような代物ではなかった。
だからといって、こんな子供のいうことを真に受けて、ハンターにする気など毛頭ない。
「さぁ家を教えるニャ。ボクが送ってあげるから、ママのところに帰るニャ!」
ボクがあまりに冷たく接したものだから、金太郎はムスッとした顔をして立ち上がった。
そのままマサカリを握り締め、無言でボクの家から走って出て行ったニャ。
「コラ、どこに行くニャ!?」
『ちょっくらモンスターってのを見に行ってくる。やっつけてもいいんだよね?』
「そんなの無茶ニャ!!」
ボクはなんとか止めようとしたが、金太郎は快足を飛ばして村から出て行ってしまった。
向かった方角は、ブランゴのいる雪山。
子供がたった1人で雪山にいったら、間違いなくモンスターに殺されてしまう。
ボクが邪険に接したために、なんという事態になってしまったのか・・。
急いで雪山に行ってみたが、金太郎はどこにもいなかった。
ボクは穢れの知らない子供を、見殺しにしてしまった。
心が沈んだニャ。
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それから3日経ったある日。
まだ陽が昇り始めの薄暗い朝に、ボクは叩き起こされたニャ。
誰かが、ボクの家の扉を壊すようにドンドンと叩いていた。
「朝からうるさいニャ! 安眠妨害だニャ!」
すると扉の向こうから、まだ変声期を迎えていないあどけない声がした。
『おいら、モンスターの首を取って来たぞ! だから家に入れてくれよ』
その声は金太郎・・?
急いで扉をあけると、そこには泥だらけになって「えへへ」と笑っている金太郎の姿があった。
ボクは金太郎の姿を見たとき、嬉しくてホッとして、涙が出そうになったニャ。
生きていてよかったと・・。
『ホラ、これ見てくれよ! でっかいニワトリがいたから、やっつけてきたぞ!』
金太郎が指を差した先には・・。
地面に転がるギアノスの頭。
ギアノスというのは、雪山の入り口付近に生息する鳥竜種のモンスター。
ザコのモンスターとはいえ、大人だってそう容易に倒すことはできないモンスターだ。
『これがモンスターなのかなぁ?』
「金太郎、本当にお前が倒したのかニャ・・?」
『あったりめーだろ。コイツ、ピョンピョン飛び跳ねるし、氷の液体吐いてくるし、
足柄山にいるどの獣よりも強かったけど、おいらの敵じゃないもん。
ただ、道に迷っちゃって、村に戻ってくるほうが大変だったよ。ここにはもっと強いヤツいるのかなぁ?』
たしかにギアノスというモンスターは、ピョンピョンと飛び跳ねて、攻撃が当たりにくいやっかいな敵。
それに氷の液体も吐いてくる。
金太郎の発言から、彼が本当にギアノスを倒したことはすぐに理解したニャ。
まったくとんでもないガキだニャ・・!
もしかすると、金太郎はとてつもなく強いのでは・・?
ボクは金太郎が戦う姿が見たくなったニャ。
ボクはそのあとすぐに、金太郎を村長のところへ連れて行った。
村長は、はじめは金太郎のことをただの子供だと言って、相手にしようとしなかったニャ。
ボクだって、最初は金太郎のいうことを信じなかったから当然といえば当然だけど・・。
でも、ボクは一生懸命に村長にお願いしたニャー。
金太郎を見習いのハンターとして登録してほしいと。
そして、このジライヤを金太郎のオトモアイルーに登録してほしいと。
村長は渋々ながら、ボクのいうことを受け入れてくれた。
それから、ボクと金太郎はすぐに仲良くなり、一緒に生活することになったニャ。
初めはポッケ村の村人たちに、<子供がハンターになったなんて、世も末だな>なんて、
皮肉をたっぷりと言われたけど、いまではもう金太郎のことをバカにする村人は誰もいないニャ。
初めて金太郎がクエストの依頼を受けたとき、
ボクはオトモアイルーとして、金太郎を雪山へと案内をしたニャ。
そして、ボクは金太郎の超人的なパワーとセンスに、驚いたニャ。
ボクはいままでたくさんのハンター志願者をみてきたけど、金太郎は根本的になにかが違った。
人間離れした怪力。
数メートルはジャンプする身体能力。
小さくてずんぐりした体のどこに、モンスターを弾き飛ばすパワーがあるのか。
重量のあるマサカリを軽々と操り、パワーを溜めたときの威力は、どんなモンスターもふっ飛ばしてしまうニャ。
また、武器を非常にうまく扱う点。
マサカリは普通、振り下ろして攻撃するだけの武器だニャ。
でも、金太郎はマサカリを、まるで盾のように防御にも使う。
だから、敵の攻撃を喰らいにくいし、防御したあとの敵のスキをついて反撃ができる。
まだ年端も行かぬ子供が、こんな戦い方をするなんて・・。
金太郎は小さい体を利用して、金太郎にしかできない戦い方でモンスターをしとめる。
あどけない瞳を持つ少年なのに、相当に戦い慣れしているのだろうか?
でも実は、ボクは金太郎の戦う姿を初めてみたとき、驚くと同時に背筋がゾッとしたニャ。
そして、ボクの頭の中にある忌まわしい記憶が蘇ったニャ。
──「転生の血」。
まさか、金太郎にその血が流れているとしたら・・。
生まれながらに、選ばれた子供なのではないか・・。
いや、金太郎のような純粋な子供に、そんな汚らわしい血が流れているわけないニャ!
でも、金太郎の人間離れした身体能力を目の当たりにすると、ひょっとすると・・。
・・・。
だから、ボクは金太郎を見守ることにしたニャ。
あんな惨劇を二度と起こしてはならないニャ!
・・・。
ジライヤは金太郎の背中を流した後、
髪の毛を結んでいた赤い布をスルスルッと取る。
金太郎の少し青みがかった髪の毛が、ボサッと垂れ下がった。
ジライヤは桶を何段か重ねて乗っかり、束ねられていたボサボサの髪の毛をシャンプーで洗う。
ゴシゴシ・・。
金太郎の髪の毛は、かなりの剛毛で洗うのに一苦労だ。
一方の金太郎は、シャンプーで泡だった髪の毛から、シャボン玉を作って遊んでいる。
「ジライヤ、すごいおっきいシャボン玉ができたぞぉ? ホラみて!」
金太郎は愉快な声を出して、シャボン玉をフーッと息で飛ばしている。
ジライヤはそんな金太郎の無邪気な姿を見て、この少年が本当にドドブランゴをやっつけたのかと疑ってしまう。
「ねぇジライヤ? 今度は3つのシャボン玉がつながったぞ! おいら天才かなぁ?」
「子供の遊びに付き合っていられないニャ」
「ジライヤもやろうよ。おもしろいんだぞ」
無邪気に遊ぶ金太郎を背中を見ながら、ジライヤもちょっとイタズラをする。
ジライヤは金太郎の髪の毛を洗いながら、そっと腕を伸ばしてわき腹をムニュと握ってみる。
「ぎゃあ!」
石鹸で泡だらけの手で、金太郎のおちんちんを握ってみる。
「あああっ!」
ビクリッ!と反応したかと思うと、金太郎は大声で叫んでいた。
「ジライヤ、そこはダメだよっ!」
「どうしたんだニャ? 金太郎はいい筋肉しているから触ったみたいニャ。ホレ!」
今度は金太郎のおちんちんをグニュグニュと揉んでみる。
「ひゃあ! やめてよっ、ジライヤ!」
金太郎は顔を真っ赤にして、片手で豊満な乳房を、もう片方の手でおちんちんを必死に隠した。
イタズラのつもりだったが、金太郎は随分と恥ずかしがっているようだ。
「どうして、そんなに敏感なんだニャ?」
「おいら、体を触られると変な気持ちに・・」
「変な気持ち?」
「いやその・・」
「金太郎って変な服を着ているし、体も敏感だし、変わってるニャー」
「あの腹掛けは、おいらの・・」
「え?」
そのまま金太郎は顔を赤くして、黙ってしまった。
その後シャンプーが終わっても、なにやら金太郎の様子がおかしかった。
ジライヤが握ったおっぱいや、おちんちんの辺りを、ずっと気にしていたのだ。
「どうしたニャ?」
「な、なんでもないよ・・」
「だったらいいんだけどニャ」
ジライヤは気がつかなかった。
怪力無双の金太郎に、実はとんでもない弱点があることに。
そして、その様子を窓から覗く、怪しい影があることにも。
・・・。
金太郎とジライヤがお風呂でじゃれあっている頃。
──沼地にあるジメジメとした鍾乳洞では・・。
桃毛色のモンスターが、もう一匹の白獅子のモンスターを看病していた。
「アニキ、しっかりしてくだせ〜」
『俺はもうダメだ・・。弟分であるお前に最後の頼みがある・・』
「な、なんですだ、アニキ!?」
桃毛色のモンスターは、すかさず白獅子のモンスターの耳元に駆け寄る。
『憎っくき金太郎を始末してくれ・・。だが、子供だからといって油断するな』
「こ、子供ですと? まさかドドブランゴのアニキが人間の子供にやられるなんて・・」
『決してラージャンの兄貴に、金太郎のことを知られてはならん。その前に消すのだ』
「ど、どうしてですだ・・!?」
『お前も戦えば分かる。ヤツを徹底的に研究して弱点を見つけろ』
「わかりやした。すぐに手を打ちますだ」
『いや、殺してはこの俺の魂が浮かばれん。
金太郎をこの鍾乳洞に永遠に封印し、たっぷりもてあそんでやれ・・。お前が得意とする恥辱と屈辱を与えてな』
「わ、わかりやした」
『俺よりも悪知恵の働くお前ならば、必ず金太郎を・・』
そう言い残して、白獅子のモンスターは事切れていた。
「アニキ、約束しますだ。金太郎をとっ捕まえて屈服させ、必ずアニキの仏前にひざまずかせますだ・・」
桃毛色のモンスターはしばらくワーッと号泣していたが、やがてゆっくりと立ち上がった。
「ヘヘヘッ。おもしろくなったきただな。金太郎ってヤツをじっくりと攻略するべ。
お前の出番もやってきただな。俺の爆裂オナラとお前の電撃攻撃で、金太郎をノックアウトだ」
鍾乳洞の奥で、けたたましい咆哮をあげるモンスターを見て、桃毛色の獣は不気味な笑みを浮かべて見せた。
第8話「金太郎生け捕り作戦」をお楽しみに。次の話を読む
おまけコーナー
今回登場したモンスター
ギアノス
雪山を暴れまわる鳥竜種のモンスター。ハンターを見つけると、走りよってきて飛びかかってくる。口から氷の液体を吐き、相手をたちまちのうちに凍らせてしまう。小説本編では、ギアノスはポッケに村にやってきたばかりの金太郎に真っ先に倒されて、ジライヤが金太郎をハンターとして認めるきっかけとなった。