「もえタイ」の亀山太一を主人公にして小説書いてみました。シチュとしては、太一がプロボクサー目指してジムに復帰して一ヶ月後くらいです。大塚は原作よりも太一とは打ち解けていない設定にしました。(^^;
登場人物
亀山太一。温厚な性格だが、メタボでノロマな事からクラスでは一人ぼっち。
大塚。同年のプロボクサー。気性が激しく人付き合いが下手。太一ともうまくいっていない。
(ブタめ・・)
俺はサンドバッグを叩きながら、視線の先にいるデブを見つめていた。
(白いブタが汗垂らして跳ねてるぜ・・)
サンドバッグで練習をしていると、コイツは必ず視線の中に入ってくる。
まともに縄跳びもできないくせに、ドタドタうるせぇんだよ。
デブでノロマで鬱陶しい。
──ジャマだ。
ブタの名前は「亀山太一」。
2ヶ月ほど前に、ボクササイズをしたいとジムに入門してきた。
気の強い妹が、メタボな兄を痩せさせるために無理やりに入門させたんだっけ?
だいたい名前に「亀」とか「太い」とか、鈍くさそーな文字が入っている時点でダメくせぇ。
それになんだよ、そのロープの飛び方。
2ヶ月前に入ってきたときは、ジムを倒壊させるような地響きを鳴らせていたが、いまも相変わらずだ。
あまり地響きを鳴らせていると、そのうちマジでジムの壁にヒビが入るぜ。
それにプロに転向するだぁ?
バカも休み休み言えよ。
お前は、体型も性格もボクシングには向かねぇんだよ。
素質がねぇ。
ムリなんだよ、ムリ!
ちょっと疲れたな、汗を拭うか。
しかし、俺はなんで亀山のことを気にしてんだ?
コイツが入門してきてから、どうも調子が狂っている。
そうだ、亀山が入門してから、なんとなくジムの雰囲気が変わった。
以前はピリピリしていた空気が、少し和み系になったというか。
なんなんだ、コイツの存在感。
気に食わねぇ。
俺は、以前の殺伐とした雰囲気が好きだったんだ。
ボクシングもまともにできないくせに、蔵田さんにチヤホヤされてよ。
だから、余計に気に食わねぇんだよ。
・・・。
俺は小学生の頃からプロボクサーを目指して、中学のときからジムに通っている。
先週は念願のプロテストに合格した。
これからプロの第一歩を進むんだ。
プロの試合で勝って、夢は世界チャンピオンなんだ。
ジムは俺にとって、神聖な戦いの場だ。
それがメタボ解消だ? 痩せるだぁ? ついでプロだって?
目標が違うんだよ、目標が!
お前みたいなブタとは話したくもねぇ。
絶対にだ。
しかし、俺はブタのことを考えている。
サンドバッグを叩きながら、亀山太一のことを考えているんだ。
クソッ。
それがムカツクぜ。
どうして気になる?
たしか亀山は、学校に友達がいないって言ってたよな。
寂しくねぇのか?
1人の時間は何をやっているんだ?
いや、そんなことはどうでもいい。
俺はコイツと試合したときに、まぐれとはいえダウンを取られた。
だから気になるのか?
もしかして、このデブにボクシングの才能があるのか?
そんなわけねぇ!
・・・。
お、ブタが縄跳びをやめたぞ。
ハァハァと息を切らせて、こちらに向かって歩いてくる。
タオルで頬の汗を拭いながら、なぜか俺の顔に視線を送ってきた。
しかも、ニコッと笑いやがった。
なんだよ、コイツの屈託のない笑顔。
同じ高校生なのに、中学生みたいなかわいい顔しやがって。
「大塚くん。調子はどう?」
あまりに自然な笑顔をするから、「うん」とうなづきそうになっちまったじゃないか。
俺に話しかけんな!
だから、ガンつけて睨み返してやる。
俺が睨んだら、亀山は視線を落として悲しそうな顔をしてしまった。
なんか、俺がすげー悪いことをした気分だ。
亀山は顔をあげると、にっこりと微笑んだ。
──うっ。
なぜかコイツの笑顔を見ていると、心が和んでホッとする感じがする。
それにしても、コイツは俺のことを嫌いにならないのか?
めげないヤツだな。
俺はおめぇみたいなブタとは、友達になんかなりたくねーんだよ。
「大塚くん、プロテストに合格してから、ますます気合が入っているね!」
・・・入ってねーよ!
なぜかお前のことが気になって、イラついてるんだよ。
「大塚くん、終わったら一緒に帰ろうね」
なんだ、コイツ!?
馴れ馴れしいぜ。
俺と試合をして一度ダウンを奪ったから、対等だと思っているのか!?
チッ。
俺は視線をそらせて、サンドバッグを叩くことに集中した。
「あ、ごめんね。まだ練習中だったよね・・ハハハ・・」
空気を察したのか、亀山はベンチにすくすくと去っていった。
大きな背中がとても寂しそうだ。
俺、また悪いことしちまったのか・・すげー罪悪感だ。
・・・。
一日の練習が終わり、俺は気がつくと亀山と一緒にジムを出て歩いていた。
俺は一言も喋っていないのに、このブタはニコニコしながら俺に寄り添ってくる。
デブの汗臭い匂い・・。
嫌なはずなんだけど、ジムで流した汗は不思議と悪い気分がしない。
亀山は俺のことを慕ってくれているのか、なんとなくカワイイ・・・。
・・・って俺は何を考えているんだ。
同い年だし、友達でもねぇ。
しかも相手はブタ野郎だ。
「大塚くん、ジムの後のシャワーって気持ちいいよね。ご飯もおいしいし」
たしかに気持ちいいかな?
いままで考えたこともなかったが、言われてみればそうだな。
「ねぇ大塚くん、夜はすぐに眠れる? ボクは学校寝坊するくらいで、夜は3秒で寝ちゃうんだ」
「え、まじで?」
しまった、うっかりと答えてしまった。
「大塚くん、ケガだけは気をつけてね。試合は絶対に応援に行くからさ」
「あ、ありがとな」
って、なんでブタと会話が成立してるんだよ。
このブタ、俺の心の中にズケズケ入ってきやがる。
なんなんだ、コイツ・・。
俺はチラッと亀山に視線を送った。
亀山はフンフンと鼻歌を歌って、俺の横をピッタリ離れないように歩いている。
俺と亀山は同じくらいの身長で、背丈はあまり変わりない。
でも、横幅が違いすぎる。
横から見る亀山の胸と腹は、想像以上の重量級だ。
胸には「NIKU」とプリントされたシャツ。どこで買ってきたんだ?
そのまま胸をジッと見てみる。
──胸がでかいな。
──柔らかそうだな・・。
デブで汗臭そうなのに、なぜかすがすがしい感じがするし、
同級生なのに弟って感じがして、一緒にいて悪くないっていうか・・。
なんかこう、髪の毛をクシャクシャにして、いじめてやりたいっていう感じ。
不思議なヤツだ。
蔵田さんが亀山の面倒を見てあげているのも、この不思議な気持ちなのか?
俺に持っていない「何か」を持っているのか?
「・・それでさ、最近は妹の美香がボクに話しかけるようになってきたんだ」
あれ、まだコイツは話を続けていたのか。
「だから、ボクも美香と話せるようになって・・って大塚くん!?」
「・・・」
「大塚くん、ボクの話を聞いてるの?」
「なんだよ。うるせーな!」
思わず怒鳴ってしまった。
本意ではなかった。しかし亀山は悲しい顔をしながら、声を荒げた。
「ひどいじゃないか、大塚くん。どうしていつも・・」
「いちいちうるせーんだよ。そうやって蔵田さんにもおべっか使っているのか?」
「そんな・・ひどいよ・・」
「・・・・」
チッ、悪いこと言っちまったぜ。
亀山は下を向いて、かなり落ち込んだ様子だった。
「大塚くん、ボクこっちだからここで別れるよ。明日はちゃんとボクの話を聞いてね」
寂しそうな顔をしながら、亀山は角を曲がっていってしまった。
大きな背中が、少しだけ震えているように見えた。
俺は声を掛けようとしたが、なぜか気まずくて出来なかった。
アイツ、心の中では相当に怒っただろうな。
俺は後悔していた。
自分の感情が整理できないことに対して、亀山に八つ当たりしてしまったことに。
サイテーだ。
明日は亀山に謝ろう。
いや謝れるのか・・俺・・?
いつもどおりプロローグみたいな感じです(^^;汗 大塚視点は一話目だけです。次の話を読む