もえタイ小説(4)


大塚のために北川高校までやってきた太一だが・・?


登場人物

亀山太一。温厚な性格だが、メタボでノロマな事からクラスでは一人ぼっち。


太陽が沈みかけ、日差しが薄暗くなり始めた住宅街。
(ハァハァ・・急がないと遅くなっちゃう)
太一は大塚と別れてから、
  「NIKU」と書かれたシャツと短パンの格好のまま、休むことなく無我夢中で走っていた。
お腹の肉が、ぶるんぶるんと波打ちながら。
走ることは得意ではない太一だが、大塚のことを考えると立ち止まる余裕はなかった。
(ボクは大塚くんのためにどうすればいいんだろう・・相手を説得できるのかな・・)
ちょっぴり不安に思いながら、太一は走り続けていた。
ボクシングを始める前の太一ならば、他人のトラブルに顔を突っ込むことはなかっただろう。
だが今の太一は、もう昔の太一ではない。
自分を変えてくれたボクシングをバカにする人間を、許したくはなかった。
それに大塚のために、自分が出来る事をしたかったのだ。


太一の視界に、北川高校の正門が入った。
下校時間はとっくに過ぎているが、まだチラホラと生徒が見える。
(ここまで来ちゃったけど、どうしよう・・)
北川高校はスポーツに力を入れている学校で、太一の通っている高校よりも成績は下だ。
だから、スポーツをしない学生は、ほとんとが不良だというのも事実。
帰り道をガヤガヤと楽しそうに話す学生たちは、いかにも遊び人風で、太一のもっとも嫌いなタイプだ。
(あーいう茶髪の人に話しかけるの・・嫌だなぁ・・)
太一のクラスにも茶髪の生徒がおり、そいつらからメタボだと言われて、からかわれている。
だから、反射的にそういう人間を見ると逃げ出したくなるのだ。
しかし、黙っていても事態は進展しない。


太一は意を決して、いかにも"不良っぽい集団"に恐る恐る尋ねた。
手には汗がびっしょりで、緊張した面持ちだ。
「あのー、すみません・・」
<アハハハッ、それでさー>
太一のか細い声では届かなかったのか、不良たちは勝手に盛り上がっている。
仕方なく、さっきの倍の大きさで叫んでみる。
「すみませんっ」
「は? 俺に話しかけてんの? 誰このデブ?」
不良の1人が振り向いて、あっけらかんとした表情で太一を見ている。
ガンをつけて睨まれる・・というほど怖い相手ではないようだ。
少しホッとした太一は、さっそく大塚のことを尋ねた。


「こちらの学校に大塚くんっていうボクシングをやっている人がいると思うんですが、知りませんか?」
「大塚? ウチにボクシング部なんてねーよ。しらねーな」
「そ、そうですか・・すみません」
緊張で額に汗をびっしょりと濡らす太一に、不良が聞き返してきた。
「ところでお前、太ってるけど中学生? ココに何しに来てんの?」
「あ、いやボクは中学生じゃなくて・・」
「中坊がこんなとこウロウロしてんじゃねーよ」
不良たちは太一のことなど眼中にもない様子で、話に夢中になりながら去ってしまった。
(ふぅ・・やっぱり怖い・・緊張するなぁ・・)
果たして、大塚のことを知っている人間を見つけるまで、どれだけかかるやら。
しかも、普段なら絶対に話しかけたくない不良生徒に話しかけるのだから、神経が余計に疲れる。
気が遠くなる作業だが、太一は根気よく尋ねていった。


何人かに大塚のことを尋ねてみる。
「大塚って、ウチのクラスの大塚のことか? 頭がツンツンした性格最悪のチビ??」
ようやく、大塚のことを知っている生徒を発見した。
しかし、"性格最悪"って・・。
一瞬、プッと吹きそうになった太一だったが、笑っている場合ではない。
内心悪いと思いながらも、彼が話している"性格最悪のチビ"は、間違いなく大塚のことだろうと思った。
「・・・はい、たぶんそうです」
「大塚のことを聞くヤツがいるなんてな。お前、制服着てないけどウチの生徒? デブい中学生?」
「いや、そうじゃなくて・・。大塚くんにケガさせた人のこと知りませんか?」
「大塚のことなんて知るかよ。関わりたくもねーし。
  あ、そうだ。ホラ、あのへんのヤツらなら何か知ってるかもしれないぜ」
そういうと、早足で去ってしまった。
(大塚くんに冷たい人だなぁ。それにどうしてボクは中学生に間違われるんだ。そんなに童顔かな?)
心の中で不満を漏らしながら、太一は言われた方向へと走った。


今度は2人組の耳にピアスをして、タバコを吸っているいかにも不良っぽいヤツら。
またしても、太一が最も苦手とするタイプの相手だ。
なるべく相手の容姿を見ないようにして、太一は大塚のことを尋ねてみる。
すると、今度は情報らしいものが返ってきた。
「大塚のことを嫌ってるヤツ? 山ほどいるぜ」
「あの、ケガをさせた人って知りませんか?」
「大塚とまともに関わりあうヤツなんて、うーん・・アイツぐらいかなぁ?」
「知っているんですか!? 教えてください」
「別に教えてもいいけど、なんでそんな事知りたいの? 大塚なんてどうでもいいじゃね?」
──どうでもいいって・・!
太一はムッとした顔をして、切り返した。
「あのー・・大塚くんはそんなに嫌われているんですか?」
「だって大塚だろ? あれはないわ」
「ど、どういう意味ですか・・?」
「どういう意味もさ、なんか怖えーし。友達とかありえないでしょ」
太一は困惑した。
先ほどから大塚のことを尋ねると、なぜか皆が彼のことを嫌っているからだ。
「あの、それで大塚くんに暴力振るった人は誰なんですか?」
「柔道部の山下だと思うぜ。大塚とは中学のときからすげー仲が悪いからさ。
  ホラ、あそこの体育館の裏に柔道部の道場があるから、直接山下に聞いてくればいいじゃねーの?」
「はい。ありがとうございます」
太一は早々に礼をして、体育館の裏にあるという柔道部の部室へ駆け足で向かった。


第5話に続きます。次の話を読む

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